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魔王殺しの殺戮兵器<マーダーウェポン>  作者: 角富士
第三章:あの日見た夢
24/29

24【定番イベント】

 そのグラハムは三日後、エリスのヘヴンバレーへとやってくる。

 約束通り仕事ということで、サシャの案内を受けて一緒に転送され、彼女の部屋へと向かう。

 四天王の間という奴だが前のことを思えば血のにおいがしそうだと苦笑しつつサシャの後ろを歩いていく。


 特になにを言うでもないサシャに違和感を感じるがそのままグラハムはエリスの部屋へと入った。


「奥か?」

「はい、エリス様の自室だそうです」


 そう言われて、グラハムはサシャと共にエリスの部屋の前に立ち、ドアをノックする。

 中に人の気配をわずかに感じるのでいることはいるのだろうけれど中々出てこない。

 苛立つグラハムが問答無用でドアノブに手をかけて、開く。


「あまり待たせるな」


 扉を開くと、ドアの前にいた者と目が合う。

 赤く長い髪をしており、整った綺麗な顔に白い肌、着物を着ているのだが、正確には着物のようなもの、だ。

 袖が無い。よってノースリーブなのだが、手に羽が生えているのを見ればハーピィということがわかる。


「……誰だ?」

「勝手に開けておいてそれか!」


 拳が飛んでくるので首をかしげて避けると、その声と手の早さに誰か納得した。


「エリスか、少しばかり心躍るな……思ったより断然女らしいじゃあないか」

「っ……そ、そういうこと言うな、とりあえず話す時間もあと少し、状況説明をするから中に入れ」


「ふむ……いや、それにしてもハーピィだったのか……」

「失礼します」


 グラハムとサシャの二人が部屋に入って椅子に座る。

 特に何を話すわけでもない三人、ただただグラハムはエリスを見ていると、思うところも山ほどあるがそれよりもグラハムの隣で少しばかり複雑そうな表情を浮かべているサシャ。

 そんな彼女に気づいてグラハムは笑みを浮かべた。


 ―――惚れたか、俺に?


 少し疑問に思いながらもそんな答えに辿りつくのは自意識の化身ともいえるグラハム故だ。


「さて、なにはともあれこう見るとありだな……全然いけるぞ」

「なんの話だ……バカ」


 フイッと顔を逸らしてしまうエリスを見て笑うグラハム。

 状況を鑑みても呼ばれた理由はわからないものの、ともかくサシャが複雑そうな表情をしているのを見れば状況やら依頼を知っていると思った方が良いのだろう。

 テーブルに置かれたコーヒーを飲みつつ、グラハムは話を始める。


「で、依頼というのはその恰好と関係が?」

「……母さんが来るからな、その……」

「待て、理解した……恋人役をやれと、この人間に?」

「まぁ、そういうことだ」


 サシャが目を見開いて驚く


「正直、驚きました……エリスさまがその」

「ああ、人間相手にこんなこと頼むなんてどうかしてるかもしれないが……母さんは共生主義だからな」

「人間とのか、ならその方が喜ぶな、父は?」


「……死んだ」

「すまんな」


 そう言って目を瞑ると、グラハムはコーヒーを飲む。

 謝罪は本心からだろう。でもないと彼は言わない……だが、すでに気にしている雰囲気がない。

 気にしていない雰囲気ではなく、気にしている雰囲気が無いのだ。似ているようでまるで違う。


 故に、エリスも今の会話をまったく気にも留めない。


「だがなんだ……ラブコメだな」

「なんだ、そのらぶこめっていうのは?」

「クククッ、気にするな」


 笑っているグラハム、首をかしげるエリスとサシャの二人。

 なにはともあれ、結果として恋人役を務めることになったグラハムは……特に変わらない。いつも通りの二人と、いつもと違う一人、そんな三人で一緒に部屋を出て客間へと向かう。

 グラハムは魔族側の人間ということで良い意味でも悪い意味でも有名なので、名乗ればすぐにわかりもするのは間違いないし、サシャだって魔族側では有名だ。


「まぁ良い、俺はこのままで?」

「ああ、そのままで良い……ただ見合いは御免なだけだ」

「大体理解した、サシャ嬢も一緒に行こう」


「私も、ですか?」

「一応な、それなりに良い扱いを受けている人間だということを理解してもらう」

「グラハム、なにもそこまでしなくても……」

「フッ、なにを言う、女の親に会うのにしっかりせずにいられるか」


そう言うと、そっと背中の剣と腰の刀を壁に立てかけた



◇◇◇




 それからしばらくして、エリスの部屋のドアがノックされる。

 黙っているグラハムと、その隣に座っているエリス。容姿だけを見れば本当にエリスか怪しくもなるが、顔つきやらを見ればわかるだろう。

 グラハムにとってもそれ以外は微妙なラインだ。長い赤髪とグラマラスな体系、そのふくよかさは女性らしいと言うにふさわしい。


―――いかん、俺はフィーネさん一筋だ。


 どうあっても彼は彼、ということだろう。その軟派な性格の矯正にはまだまだ時間がかかることだろう。


 ドアを開けて入ってくるのは、エリスと同じ赤髪、ではなく黒い髪を持つ女性。

 エリスと同じくノースリーブの和服を着て、おしとやかな雰囲気を醸し出す。首元でまとめた髪を前に垂らしているところを見れば一瞬でグラハムは理解する。


―――人妻だ。


 エリスの母親なのだから当然ではあるのだが、彼にとっては一大事だ。

 最近は人妻好きに拍車がかかっているので内心怖い所でもある。数少ない怖い部分としては自分の惚れっぽい性格だろう。後ろのサシャを見れば軽く笑みを浮かべて頷いた。

 そしてエリスの母親の方を見る。


「母様、こいつ……彼が私の恋人です」


 まさかエリスから恋人として紹介される日がこようとはグラハムも思わなかった。

 仕方がないので、立ち上がって礼をする。


「俺がエリスの恋人であるグラハムです……と言ってもご存じでしょう?」


「ええ、知ってます……私はエリスの母親、オリビアです」


 笑みを浮かべるエリスの母ことオリビア、その笑みに一瞬クラっときそうになるもそこは押さえる。

 座るグラハムとオリビア。エリスは何を言うわけでもなく、テーブルをはさんでオリビアと相対するグラハム。

 少しの沈黙、だがすぐにオリビアは口を開いた。


「ですが、反逆の刃(レベルクリンゲ)と会えるとは思いませんでした。しかも娘の恋人なんて……」


 なにがおかしいのかクスクス笑うオリビアにグラハムは首をかしげた。


「魔族側の重鎮扱いというのは本当なんですね、ゼク……そちらの方、貴族を従えているなんて」

「従えているわけではなく世話になっているだけです。それに重鎮扱いというわけでも無く……どちらかというと傭兵に近い、基本的に生活費なんかはギルドで稼いでいますから」

「ええ、ギルドの方でも貴方の噂は凄いから……」


「え、そうなのか?」

「ああ、エリスは知らなかったか……これでも中々に名が知れているんだ。これでも四天王と共に戦ったりもしたからな、お前を含めてだ」

「会談には行けなかったが」


「良い、あれは来ない方がな……」

「です、ね」


 グラハムの言葉にサシャも同意する。首をかしげるエリス。


「可愛いじゃないか」

「なっ!?」


 一気に赤くなるエリスを見てクツクツと笑うグラハム。

 だがそんなことをやっていると、オリビアは首をかしげた。

 それを見て、表情には一ミリたりとも出さないまま、心の中でマズイと思い演技を始める。


「まぁ、それじゃあ……お見合いの件は無しにするしかないわね」


 ―――なるほど、見合いが嫌で俺を恋人役に……まさしくラブコメだな


 なんだか楽しくなってくるグラハムだが、そこは笑いを耐える。

 確かに、状況は好転したと言えるだろう。

 グラハムにとってはどうでも良いが、そういうことだ。


「エリスが偽の恋人を立ててまで嫌がるんだもの」


「……バレてるぞ?」

「最悪だ……」


 頭を押さえてつぶやくエリスをよそに、グラハムは楽しそうにクツクツと笑うのみ。

 そんな二人を見てオリビアも楽しそうに笑うが、サシャは困ったような表情で笑うのみで、特にフォローを入れるわけでもないのはもうどうしようもないと察しているからだろう。

 肩をすくめて息をついたグラハム。


「母は強しか、うらやましいな」

「なにがだ」

「ともかく、恋人役も悪くなかった」


「……そうか」


 フイッと顔をそむけるエリスを見て、オリビアも笑う。


「すみません、この俺がエリスの恋人で無いのはショックでしたか?」

「いえ、人間や魔族がどうのこうのの前に、貴方でないのは良かったと思ってるわ」


「……?」


「だって、すでに恋人はいるって顔をしているじゃない?」


 瞬間、サシャとエリスが目を見開いて驚く。

 固まるグラハムだったが、すぐに目を伏せて笑みを浮かべた。その意味深な笑みですべてを察したのか、オリビエは困ったように笑い、エリスはもみあげをくるくると指でいじる。

 そしてサシャは苦虫をかみつぶしたような表情になった。

 彼の周囲にいた者はそれぞれ思うところがあるというところだろう。おもにサシャに関してはなんともいえぬ表情のままだ。

 だがグラハムは笑みを浮かべつつ言う。


「……恋人ではありません、まだ片思いですから」

「そうなの?」


 実際にグラハムが好意を寄せている“彼女”とは両想いに近いものがある。

 だが彼女の中に未だ存在する“彼”が見え隠れしないでもないことを思えば、グラハムはいまいち一歩を踏み出せない。時には強引なときもあるが、存外そこらは気にしている。

 だからこそ、彼にとって彼女は特別なのだろう。


 それを“彼女たち”は知らない。


 そう、サシャもエリスもメシスもカロドナも、そして魔王すらも……彼女フィーネグラハムのことを知らない。


「まぁ良い、それは置いておこう」


 置いておけるわけがないと、そう思うサシャだったがとりあえず外面は冷静を装う。

 そんなことを思ってしまう時点で、彼女は確実に彼に惹かれている。

 だが、それに気づいているのか気づいていないのか、グラハムはいつも通りの表情だ。


「いつまでもシリアスな話をしている場合ではあるまい。今日はバレておしまいか?」


「そうなるな、一応……その、ありがとう」

「……」

「なんだその表情は?」


「可愛いじゃないか」


 微笑するグラハムに、エリスは顔を真っ赤にする。

 それをみてオリビアはクスクスと笑うが、それがまたエリスの羞恥心を煽ることとなった。

 コーヒーを一気飲みして立ち上がると、立てかけていた剣を背負い、腰に刀を差す。


「では奥方、私はこれにて失礼しよう……これでもギルドメンバーでな」

「そうなの? それじゃあ私もそのうち使わせてもらおうかしら」


「ええ、奥方の頼みとあらばいつでも」

「あ、グラハム様、転移なら私も!」


 そう言うと、サシャが後ろをついてくる。

 それを見て同じく立ち上がるエリス。


「せっかく来てもらったんだ、私も同行しよう」

「構わん、家族とは話せるうちに話しておけ」


「しかし……」

「あらエリス、男には甘えておくものよ?」

「さすが奥方だ、では失礼」

「ええ、また」


 部屋を出るグラハムが、サシャと共にヘヴンバレー内を歩く。

 歩いていると良くリザードマンや他のハーピィとすれ違うも、軽く挨拶をする程度、信用も前までとまるで違うなと苦笑する。

 今までのことを考えると、完全に魔族側に属せない自分を思う。


 いずれ裏切ることもあるのかもしれない……。


「余計なことは考えないに限るか」

「どうしました?」

「ん、なんでもない……そういえばサシャのこと、あまり知らないな」


 つぶやくように言うと、目を見開いてから少し赤くなるサシャ。

 口説くにしてはあまりに月並みな台詞だが、今回に限ってはグラハムも口説いているわけではない。

 よって、別に彼自身としても問題無し。


「わ、私のことですか?」

「ああ、それなりに長い付き合いだしな……貴族の娘と言うことしか知らん、それにお前がどうして魔王のお付きなんかをやってるのか、とかな……貴族がする必要はなかろう?」


「その、代々そういう務めなんです。私の家系は貴族でありながら魔王様のお世話をするのが務めで」

「……サシャ、もしかして魔王より年上か?」

「はい、でも先代魔王様のお世話はしてませんよ?」


「意外だった、もっと若いと思っていたよ」


 微笑して言うと、サシャは少し笑顔を曇らせる。

 なにかマズイことでも言っただろうかと思いつつも、これ以降どうする術もないのだからグラハムは待つのみだ。

 それ以外に仕様もないというものであり、ヘヴンバレーのダンジョン内を歩く。


「そろそろ、私も結婚しろと親から言われていて……あはは、そんな歳なんだなって」

「その、すまなかったな、変なこと聞いて」


「あ、謝らないでくださいよぉ逆にみじめじゃないですかぁ!」

「ククッ、すまんすまん」

「うぅっ……」

「だが、勿体ないな……お前のような子を放っておくとは……」


「あぅっ」


「……なんてな、こんな口説いてるところを見られたらなんて言われるか」

「見られてますからぁ……結構ぅ」

「そりゃそうか」


 先ほどからリザードマンやハーピィたちとすれ違ったりもある。見られて陶然というものだ。

 笑みを浮かべるグラハムと赤い顔のままのサシャはそのままヘヴンバレーの転移装置へと歩いていく。


 わずかながらとはいえサシャとしては一緒に歩けるだけでも嬉しかったりもするが……グラハムがそれに気づくことは無いだろう。



あとがき


ずいぶん長いこと放置しつつ更新ー

ってことで楽しんでいただければ


ブックマーク久々に見たら増えててびっくりしつつ待たせて申し訳ない


今度はもうちょっと早めに更新したいとは思いつつ……(メソラシ


ではまた次回ー


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