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魔王殺しの殺戮兵器<マーダーウェポン>  作者: 角富士
第一章:知るべきはその世界
1/29

1【アルジェリド】

 アルジェリドと呼ばれる世界。

 外歴120年。

 長く続く魔族と人間の戦いは、留まることを知らずただ戦火が広がり、血が流れる。


 そしていずれ人間側は勇者と呼ばれる選ばれた人間を選び、戦いへと向かわせた。


 勇者と呼ばれる人間たちは様々な力を得て、魔族と戦い勝利を得る。

 魔族が劣勢になってきた戦況の中、一人の者が戦場へと降り立つ。


「待たせたな!」


 ガチャガチャと音を立てながら歩くのはその声の主だ。

 戦場に降り立ったその銀色の鎧は黒いマントをなびかせながら歩く。

 その姿を見た魔族たちも、人間たちもすべてが攻撃を止めた。いや、止めてしまった。


 死神とまで呼ばれたその者に、魔族も人間も動けずにいる。


 『殺戮兵器(マーダーウェポン)』と呼ばれた鎧を纏う男は、月光を受け煌いた




◇◇◇◇◇◇




 地球の太平洋上空の飛行機の機内。


 その中で青年が軽くため息をつくも、そのため息は周囲の喧騒にかき消される。


 人は大変な時こそ冷静さを欠いちゃいけないと良く言うが、この青年矢蔵刃やぐらは睦月むつきは冷静さを欠いて大騒ぎしている人間も必要だな、と思った。

 今まで17年間生きてきた中で初めてそう思いながら彼は苦笑する。

 それがなぜか……現在修学旅行で乗っている飛行機がガタガタとふるえて周囲が大混乱してることが原因だろう。

 あまりに周囲がざわめき、泣き叫び、動揺しているせいで逆に自分が冷静になっていた。


「ふぅ」

「恐く、ないの?」


 隣の女子生徒が彼に聞く、同級生だが彼に比べればずいぶん学生らしい少女。

 その女子生徒の震える手を彼が軽く握ると、その女子生徒は顔を赤らめた。

 吊り橋効果と呼ばれる脳内情報の誤解……それを察してか彼は鼻で笑う。


 窓の外を見れば、今しがた片翼が吹き飛んだところだった。


 ―――まったく、こんな風に死ぬなんざ思ってもみなかったよ。


 そう思った矢先、激しく揺れる機内の中……。


「生きて帰ったら俺と付き合って―――へぶっ!?」


 突如、前から飛んできたなにか固い物が額に当たり彼は意識を失った。




 次に体に感じたのは、妙なひんやりとした感覚。

 それに疑問を感じ、彼はゆっくりと意識を覚醒させる。

 痛む額がそれを現実だと理解させた。


「なん、だ?」


 ひんやりとした感覚を顔側面に感じながら、倒れていることに気づいて起き上がると自分の寝ていた床が石畳だということがわかる。

 石畳には紫色の魔法陣のようなものが輝いていて、それは収縮して彼の真下で消えた。


 ―――まったく、わけがわからない。


 言葉にせずにそう思いながら彼は起き上がって周囲を見まわそうとするが、最初にこの場を照らす物の正体を知るために光の方を見ればそれは壁にかけられた松明たいまつだった。

 このご時世に松明なんて何事かと思いながら、目の前の石造りの壁を見てまた混乱する。

 そしてどうにかしようと背後を振り向くと、ため息をついた。


 黒い長い髪の少女がそこにはいる。


 厚手のドレスのような服を着た自分と同じぐらいの少女がそこには立っていて、その少女は心底驚いた顔をしていた。

 だがそんな少女が見ている彼もまた結構驚いている。

 その少女の頭には二本の角が生えていたからだ。


「に、人間?」

「お前、人間じゃないな?」


 少女が言った後に彼が言う。

 お互いが顔を合わせていると、少女の背後から槍を持った男二人が現れた。

 その男二人も頭に角を持っていて人間でないことが良くわかる。


「なぜ人間が召喚された!」

「知らん、ていうかずいぶんファンタジーだな」

「わけのわからんことを!」


 男の一人が槍を突き出すと、彼は軽く体を横に逸らしてその槍の切っ先を避けてから、槍の柄を掴む。

 驚いた表情の男だが彼は造作もないという風な顔をして、空いている片手で自分の金髪を軽く掻き上げた。

 そして、深い深いため息をつくと男の足を軽く蹴って槍を奪い取ると軽く放って背後へと転がす。


「失礼、しかし……色々と聞きたいことが多いな」


 そうして、彼こと矢蔵刃睦月は顎に手を当てて聞きたいことを整理してみる。

 倒れている男は彼から遠ざかり、まだ攻撃してきていない方の男は槍の切っ先を向けるのみだ。

 槍を向けられながら彼は少しばかり考えてみるが、一番可能性がある状況として出てきた答えは一つ。


「ここは地球、じゃない?」


 彼は碧眼を角を持つ少女に向ける。


「ち、きゅう?」

「なるほど、それで十分わかった」


 ここは地球じゃない。

 消去法で出た答えが思いっきり真実だとわかり、彼は心底困ったような表情で肩をすくめる。

 そうしていると少女の背後から沢山の男たちが現れて同じような槍を彼に向けた。


 ―――さて、こうも数が多いと面倒だな。


 状況を見ても勝ちは見えないが逃げることぐらいはできるかもしれないと思い軽いフットワークを踏みながら両手を構える。

 夏場だったこともあり薄着だったのが功をそうしたと、こんなところで思うことじゃないことを思いながら相手の出方を待つ。

 だが男たちが突然退きだし、できた道を歩いてくる影が一つ。


「失礼、人間一人相手に俺が出てくるのもやりすぎだとは思うんだが、こちらもこの方に危害を加えられては威厳に関わる」


 そう、紳士的に言ったその影の正体を、人間と呼んでいいのか彼は迷った。

 もう一人て言っていいのかすらもわからない。


「おっと、私はオルト……火の王オルト」


 オルトと名乗った“狼男”は黒いロングタキシードを着て、頭に被ったシルクハットを手に持ち軽く礼をする。

 背格好と雰囲気でその狼男がいかに凄まじいかを理解して、彼は動きを止めて両手を上げて笑う。

 いや、笑うしかなかった。

 状況を理解することもできないままに彼は笑みを浮かべながら言う。


「降参だ、こちらは既に戦闘の意思も意欲も無い、先に攻撃されたから身を守ったにすぎん……寛大な処置と現状の説明を、願いたい」


 そう言うとオルトと名乗った狼男はシルクハットをかぶることなく、少し退くと背後の少女へと顔を向けた。


「どうなさいます、魔王様」


 彼は心の中で心底深い溜息をつく。

 本当にファンタジーなまったく違う世界へ来てしまったのだと、どんな理由があったのかわからないが命拾いをしたのだと、そして状況はあまりにも良くないと……。

 ツイていないなと、彼は自分の運命を呪いながらも“魔王”と呼ばれた少女の方を見る。


「貴方の、名前は?」


 少女の声に、彼はせめて無礼が無いようにと地に膝をつけた。


「矢蔵刃睦月……グラハム、とお呼びください」


 薄らと笑みを浮かべてそう言う。


 こうして矢蔵刃睦月ことグラハムはこの世界、『アルジェリド』へとやって来た。


あとがき


異世界ファンタジーとなっていますが、序盤は王道を突っ走るつもりです

中盤以降は異色な展開にしようと思っていますがそこまでが中々に長くなりそうです

心配ですが、今後ともよろしくお願いします

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