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俺の口癖

作者: 桜ちか

早く消えてなくなりたい。それが俺の口癖だった。


何か生きる希望があれば、辛くても生きているのが幸せなのだろう。

しかし、それが無い俺にとっては苦行でしかない。


義務教育が終わり始まったニート生活。病院のベッドの上、ただただ俺は無気力で、人生の負け組感を味わっていた。なにもかも病気のせいだ。


生まれつき、心臓が弱く手術を繰り返し、まともに学校にも通えず勉強もできなかった、俺。

夢も特技も趣味もなく、ただ寝っ転がっているだけの、俺。

家族に迷惑をかけ続ける、俺。

そんな、社会のために何の利益も生み出さない俺に、未来なんかない。



まぁどうせ勝手に命は尽きるだろう。そう思っていたのに、手術の成功でそうはいかない。

絶望だった。

もしも手術が失敗したり、手術を受けなかったりで俺が死んだら、家族が悲しむだろうが、この時は、消えてなくなりたい気持ちの方がまさっていたんだ。


そんなある日、両親が俺に、暇つぶしにとパソコンを買ってくれた。

こんな高価なものを。とても申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

しかし、使わないのも両親の気持ちに反するので、俺はありがとうと言って受け取った。


しばらくして、俺はブログを始めることにした。誰か同じ気持ちの人がいたらな、なんていうちょっとした期待で。


コメント欄はすぐに同情のコメントで溢れた。でも同情なんて、いらない。同意が欲しいんだ。これは、俺の我儘だった。


大多数のコメントを無視していると、意外なコメントが目に留まった。


「私も同じ病気です。でも、あなたのようには思いません。もっと生きて、未来を見たいから。」


彼女のブログを見ると、20XX年にはこういう宇宙計画があるとか、そういうニュース記事が沢山ある中で、自分の病気も新薬が開発されて治るかもしれない、なんてことも書いてあった。


生きる希望は、あるかも分からない、明るい未来を見つめることでも見つかったんだ。


でも俺は、どうしても悲観的な未来を見てしまう。そんなコメント返しをすると、彼女はすぐに反応を見せた。


「じゃあ、今を変えようとしたらどうです。私も、あなたと同じように勉強が遅れていましたが、猛勉強して取戻し、今ではウェブデザインの仕事をして稼いでいます。どうか、諦めないでください」

俺は、驚いた。赤の他人の俺にこんなに真剣にアドバイスしてくれるのか。


「ありがとうございます。頑張ります」

気付いたら手が勝手にそう打ち込んでいた。俺は励まされたんだ。声も聞こえず、姿も見えない世界で。


それから、10年経って、26歳になった俺は、若い学生に紛れて大学に通っている。

病気はまだ持っているが、度重なる手術で快方に向かったため、高卒認定を取り、大学進学を決めたのである。



あの人に、会ってお礼が言いたい。そう思うが、彼女のブログの更新は7年前に途絶えたきりだ。

亡くなってしまったのかもしれない。しかし俺は、病気が治って、未来を見つめることよりも、今を生きるのに忙しくなったのだと、考えることにしている。元気でいてほしいと願いながら。




今、俺の口癖は、無い。あえて言うのならばこの言葉だろうか。



「今日もいい一日だった」









身内の人の言葉よりも、同じ境遇の人の言葉が響く、そんな実体験を交えながら書きました。

面白い小説ではないですが、書きたいことがかけたのでよかったです。

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― 新着の感想 ―
[一言] お初にお目にかかります。 義昭と申します。 私の兄もまた、心臓病でこの間手術を致しました。 そしてまた、同じようにパソコンをよく使用しています。 兄が何をしているのかはわかりませんが主人公の…
[良い点] 同情ではなく、自分と同じ境遇でどう感じているのかを知ったことで、視野が広がる。 うすっぺらい同情よりもたった一言でも、すごく価値がありますよね。 そして見え方が変わることで、未来についての…
2013/05/17 15:24 退会済み
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