プロローグ
谷千田南の三塁手、三年の江田が守りにつこうとして何かを思い出したように本塁側にできはじめていた列の中に入ってゆく。
あの人はまだ、夏が終わったとは思ってないのだろうか。
三塁側の谷千田南応援席から一年生の中田徹也はそう思いながらスコアボードに目をやる。
13-1。五回コールドゲーム。
電光掲示板はこの試合の結果を無情にもはっきりとうつしていた。
あの人達でも勝てないのか。
入学してから3ヶ月。短いながらにも三年生と共にプレイしてある程度、三年生の実力が分かっているからこそ、尚更そう思った。
初回からエースの大西が打ち込まれ、リリーフの小野も勢いを止められず打線も相手校の三人の投手を相手に四回に一点を返すだけにとどまった。
気付くと試合終了の礼は終わっていた。
三年生は半数ほどの選手が涙を流していた。
中学時代のコーチは「負けて泣くのは自分のプレーに悔いがあるからだ。最後まで悔いなく全力でやれば涙は出ない」と言っていた。とある高校は甲子園で負けても笑って甲子園を去っていったという。
果たして、本当に笑って終われる学校がこの夏、どれぐらいあるのだろう。
三年生達はスタンドへの挨拶を終えると一人、また一人とその場に泣き崩れる選手もいた。
―自分達の代は笑って終われるのだろうか―中田はふとそんなことを思いながら泣き崩れる三年生から目をそらし、スタンドの片付けに取り掛かった。
明日から始まるであろう新チームでの練習の事を憂鬱に思いながら。