中
高校三年。
受験を終えて、一息ついた頃。
何が理由であったかは忘れてしまったが、クラスの奴等と出かける機会があった。
恐らく、思い出作りやアルバム作りのための写真撮影か何かをしていたんだと思う。
何グループかに別れて、地元から少し離れたテーマパークで遊んでいた。
俺と鈴木テルは、同じグループだった。
その頃鈴木とは、いい友達だったと思う。
特に接点はなかったけれど、クラスメイトとして、鈴木は気さくに話がしやすかった。
一緒にジェットコースターに乗ったりお化け屋敷に行ったりして、冗談半分で、若さゆえの馬鹿らしいチャレンジをいくつかした。
気付けば、ジャンケンに負けた男二人が観覧車に乗るような流れになっていた。
そして俺と鈴木が、負けていた。
周りから囃し立てられるなか、俺たちは静かに向かい合う。
「……そういや、カドとこうしてゆっくり話すのも初めてだなあ」
「そうだな。案外、お前のこと知らねーかも」
「だな。お前、四月からどこ行くん?」
「東京」
「どひゃー、すげえなあ!」
「お前は?」
「俺?俺はそのまま持ち上がり。でも、点数ギリギリで焦ったけどなあ」
不思議なことに、話題は尽きなかった。
ゆっくりと頂上に向かうその時間も、苦ではなかった。
「ええなあ、東京」
「そうか?路線も多くて、ようわからんけど」
「でも、大都会だがん。……すげえよ、カドは」
「そっちこそ、頭良かったんだな」
「ああ?どういう意味だあ?」
「いや、なんでもない……」
しばらくして頂上についた時、鈴木が言った。
「カド。ここの景色、忘れんなよ?」
その時の鈴木の横顔が、やけに凛々しく見えてしまって。
まるで、どこかの映画俳優であるかのように、ひどく格好良く見えてしまって。
「……そうだな」
気付けば、鈴木の頬にキスをしていた。
「……へ?」
「なんか、ついとった」
すぐさま顔を離して、俺はそう言った。
自分でも、驚いた。
まさか男相手に、そのような感情を抱くとは思わなかった。
だが鈴木は、不思議そうな顔をして首を傾げるだけだった。
「……そうか。ありがとなあ」
美しく笑う鈴木テルのことを、とても、好ましいものであるかのように思っていた。
そこから先の下りの時間、俺は何とも言い難い複雑な感情を抱いていた。
それが、観覧車による効果なのかはわからない。
受験を終えて進路も決まって、ひどく浮き足立った空気のせいなのか。それとも、若気の至りなのかはよくわからなかった。
その後も他愛のない話をして、俺たちは静かに地上についた。
俺自身、これまで付き合ってきた彼女は何人もいた。
それでも、誰かがこんなに輝いて見えたのは鈴木が初めてだった。
「お、戻ってきたんかー!」
「二人とも、楽しかったかー?」
「ラブラブしとったかあ?」
「んなもん、あるかい!」
そう鈴木は否定するものの、俺は何も言うことができずにいた。
「カド、こっち行こまい」
その声に静かに頷いて、俺はクラスメイトたちの後を追った。
俺は、そっち系じゃなかったはずだ。
それなのに、その後も、しばらく鈴木テルの顔が頭から離れずにいた。
***
そのようなことを、思い出した。
今は、流石に鈴木もおっさんになって、輝いていて見えるようなことはなかった。
だがその笑みだけは、昔と何も変わってはいなかった。
「ま、うちも似たようなもんだな……」
気付けば俺は、娘のことを打ち明けていた。
誰にも言えないと思っていたが、まさかこのような機会に誰かに話ができるとは思ってはいなかった。
鈴木は真面目に話を聞いて、俺と同じタイミングで深く深く息を吐く。
「親になるって、難しいもんだなあ……」
「そうだな。人生、何が起こるかわからないよな」
「だなあ……」
すっかり冷めたコーヒーを飲み干して、俺は鈴木の顔を見た。
たるんだ頬に、皺のある目元。
そこには、俺の知らない時が刻まれていた。
「それにしても、まさかこんなこと話せるとは思わなんだ……。カド、ありがとうなあ」
「いや、こっちのほうこそ……。鈴木テルに会えて、良かったよ」
「お互い、まだまだ苦労するなあ」
「そうだな」
しばらくして、俺たちは別れを告げた。
「また、どこかで会えるといいなあ」
「ああ、またな」
しかし、帰り道でふと気づく。
あの頃抱いていたあの感情は、一体何であったのかと。
それは再会を果たしても、何の答えも出なかった。
一時の気の迷いであったのか、俺は本当に、鈴木のことが好きだったのか。
せめて連絡先の交換でもしておけば良かったと、帰宅してからひどく後悔をしてしまう。




