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1章 盾の迷い

「己とは何か、己が守るものは何か」

 手の平に生まれた火が広がり、少しずつ盾の形をイメージする。人を守るためにより大きく激しく。みんなを守りたい。

 まただ。ジクハさんが持っている盾くらいじゃないと、みんなを守りきれない。

「あ」

 イメージが途切れて、手の平に生まれた盾は消えてしまった。まただ。ダルクさんと戦った時はうまくいったが、あれから二週間うまくいかない。これじゃ、また戦う時にみんなを守れない。

「オルいた〜」

 後ろから声が聞こえた。

「ディミか」

「また練習?」

 扉から幼馴染がタオルを渡してくれた。

「うん」

 気づけば額から汗が流れていた。僕はタオルを受け取って汗を拭き取る。

「あまり、うまくいかないんだよね」

「そうなの〜?」

 ディミが首をかしげる。

「また使えなくなったの〜?」

 ディミが、僕が魔法を始めた頃の事を言った。

「いや、あの時とは違うんだよね」

「そうなの?」

 ディミが難しい顔をする。

「私、魔法の事は分からないからな〜」

 ディミは前に、魔法の事は先生から一般的な事しか教わっていないと言っていた。当然魔法を使う感覚は分からないだろう。

「ディミが気にする事じゃないよ」

「そう?まぁいいや〜、朝ごはんできたってよ」

 もうそんな時間か。そういえば宿の方からパンが焼ける香ばしい匂いがする。

「今日もギルド行くんでしょ?」

「まぁ、行く予定だけど」

 僕達が食堂に着くと綺麗に朝食が並べられていた。

「その時、誰かに相談して見れば?」

 美味しそうな湯気がスープからでてきている。

「そうだね。相談してみるよ」

 食事を取った後、ディミと別れギルドに向かった。ダルクさんの事件が起こったあと、何故か街の周囲に一日数体ほど魔物が出るようになっていた。たいして強くはないが誰かしら傷を負っていてディミはしばらくの間、薬師の補助としてこの街に居る事を頼まれた。僕も人数が足りないときは魔物対峙に行くこともあった。

 ギルドの扉を開くと、受付にシルフィさんが、ギルドのメンバーと話をしていた。

「オルさん。おはようございます」

 僕に気づいた彼女は、にこやかに挨拶をしてくれる。

「おはようございます。また魔物ですか?」

 シルフィさんの長い髪が目の前にはらりとかかり、彼女は髪を耳に掛けながら答えてくれた。

「いえ、今日はまだ魔物の報告はありません」

「そうですか」

「今日はどうされますか?」

 二週間前、ギルドマスターがダルクさんの事件のお礼も兼ねて、ギルドに自由に出入りしていいと言ってくれて、僕は毎日来ていた。

「ジクハさんは今日いますか?」

「彼は昨日から、魔物討伐にでていて帰ってきていません」

「そうですか。ダルクさんの行方は?」

 シルフィさんは首を振った。あれから二週間が経ったが、ダルクさんの行方は全く分からずにいた。

「オルさん。そろそろ冒険者になる事は考えてくれましたか?」

 もう何度目か忘れたが、ギルドに顔を出すようになって冒険者にならないかと誘われていた。

「その事は断ったでしょ。ディミが帰る時に僕は村に戻ります」

 シルフィさんは気にせず話を進める。

「毎日来ているだから、少しは考えてください。彼と同じ冒険者にはならないんですか?」

 彼、僕の先生であるヴィンセントさんの事だ。

「僕は自分の村を守って行くんです。そういえば、先生からは連絡ないんですか?」

 シルフィさんは目を細める。

「ないですよ。はぁ、あの人どこにいるんだか」

 遠い目をするシルフィさんだった。


 オルとシルフィが話している同じ頃、ヴィンセントは街から数日離れている森の中にいた。

 ヴィンセントだけではない。ほかにグロスと二人の冒険者と共に古い小屋の前にいる。

「行きますよ」

 小雨が降る中、ヴィンセントは片手に剣を持ち、ゆっくりと扉を開ける。

 ギィーと扉の錆びついたこすれる音が、小屋の中を不気味に反響する。

「先生、何かいますか?」

 弟子のグロスがヴィンセントの後ろで剣を構える。ヴィンセントは注意を払いつつ中に入ったが、しばらくして剣を収めた。

「ヴィンセントどうした?」

 冒険者の一人が、不思議そうな表情をする。

「この中には何もないようです」

 小屋の中は本棚、ベット、机だけの質素な作りで普段使っているのか疑問が残った。

「ここがアジトで間違いないのか?」

 無精ひげを生やした冒険者が、ヴィンセントに確認する。

「そのはずです。いくつか彼らの中継地点を調べましたが、ここを中心に情報をやり取りしていたようです」

 ヴィンセントはダルクが豹変した事を知った後も、数カ所動物が魔物になった所に行き、調査をしていた。調査して分かった事はギルドに手紙を送っていた。二日前にも手紙を送った所だった。

「じゃ、この本とか怪しくないですか?」

 グロスが奥にある本を一つ手に取る。その軽率な行動にヴィンセントはため息を付く。

「グロス。いい加減、用心を覚えなさい」

「ごめんなさい。先生」

 謝っているが、何も気にしていない様子のグロス。

「で、何かありましたか?」

 ヴィンセントは声をかける。ペラペラとめくっていた手をグロスはピタッと止めた。

「どうかしましたか?」

 雷が近くに落ちたのだろう凄まじい音と共に一瞬辺りが光に包まれた。

「先生がいるリッカルの村の事が書かれていましたよ」

 ヴィンセントは眉をピクリと動かした。

「貸してください」

 ヴィンセントはグロスから本を受け取り読みすすめる。

 ジュエルベアーを人工的に作るのが成功。これは調べていた調査内容と一致していた。問題はその後だ。魔力が集まった玉は回収後、育成を担当していた者は削除と書かれていた。

「思い返してみると、ダリルは北の方を探索していましたよね」

 一緒に調査をしていたグロスは頷いた。

「そうですね。あ、あの時、原因があったのって北の方ですよね。この玉っていうのをその時に回収したって事ですか?」

 ヴィンセントは顎に手をやる。

「おそらくそうでしょう」

 ヴィンセントが本を読み進めていると、ピタッと動きが止まった。

「ヴィンセントどうした?」

 無精髭の男が尋ねる。

「魔力の玉を集め終わって、ダイヤリルに玉を隠しているようです。」

 ヴィンセントはくるっと回り扉に向かった。

「予定では近いうちに攻めてくるとのことです」

 ヴィンセントの足に、何かが当たった。

「これは」

 ヴィンセントは腰を落として、足に当たった物を拾った。

「それは?」

 ダルクがヴィンセントが拾った物を聞いた。

「これは僕がユークに送った剣です」

 無精髭の男は近づいてきた。

「ユークって、ガントフォレストの時に死んだあいつか」

 ヴィンセントは頷いた。

「えぇ、私の弟子でダルクの友人でもあった人です」

 雨がすごい勢いで降り始めた。

読んでいただきありがとうございます。オルの物語、第4弾です。

オルの盾への悩み、裏切ったダルクの行方、果たして物語はどこに向かうのか。

全5章、最後まで楽しんでいただけると嬉しいです。

ご意見・ご感想お待ちしています。

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