第9話 弱者の戦い方
フォレストボアとの戦いから一夜明けた。
宿屋のベッドの上で目を覚ました俺の体は、全身筋肉痛だった。
腹も腕も脚も、重い。動くたびに痛みが走る。
……でも、不思議と気分は悪くなかった。
「痛ぇ……でも、逃げなかったな。俺」
昨夜、ボア相手に勝ったのは俺じゃない。
アランの《ダーク・ランス》が仕留めたおかげだ。
でも、俺は逃げなかった。立ち向かって――吹っ飛ばされた。
それでも、あの時よりはちょっとだけマシな自分がいた。
*
「起きたか」
扉の向こうからアランの声が聞こえた。
「おはよう……全身バキバキだ」
「無謀な突撃をすればそうなる。……だが、少しは根性があるらしいな」
アランは部屋に入ってきて、俺のベッドの前に腰を下ろした。
その手には、小さな木の枝と短いロープが握られている。
「……それ、何?」
「訓練道具だ」
「……え?」
「いいか、リオ。お前は村人だ。スライムには勝てても、ウルフにもボアにも勝てない。それは、力が弱いからだけじゃない。戦い方を知らないからだ」
その言葉に、胸がズシンと重くなる。
……痛いところを突かれた。でも、それは真実だった。
「お前が戦士や魔導士と同じように突っ込んだって、勝てるわけがない。だが、“村人として”戦えば、勝ち筋はある」
「村人として……?」
「お前はレベルも上がらないし、力もスキルもない。だが、だからこそ“相手の力を使わせない戦い方”を覚えるんだ」
アランは枝を地面に突き立て、俺にロープを投げた。
「まずは“間合い”を覚えろ」
*
その日、俺は街の外れの訓練場で地獄を見た。
アランは棒を武器代わりにして俺に突っ込んできて、俺はロープと木の枝でどうにかかわし続ける。
「ほら、攻撃は読めるだろ! 避けろ!」
「速いって! 痛っ!!」
「痛みを覚えろ! お前は一撃で死ぬ立場なんだ!
だったら“絶対に当たらない”を前提に動け!」
汗が額から流れ落ちる。
何度転がされ、地面に叩きつけられたかわからない。
でも、アランの動きは最初より見えるようになってきた。
ただがむしゃらに突っ込むんじゃなく、相手の足元、肩の傾き、武器の角度……全部を見て避ける。
「そうだ。村人は攻撃しなくていい。避けろ。逃げろ。生き延びろ」
「おい、なんかだんだん酷い扱いになってないか!?」
「現実を教えているだけだ」
アランはにやりと笑った。
たぶん、こいつちょっと楽しんでる。
*
夕方、訓練を終えた俺は地面に大の字になっていた。
体はボロボロ。でも、昨日の俺とは確かに違う。
「“戦う”ことはできなくても、“生き残る”ことはできる」それをほんの少し、理解した気がした。
「リオ」
「……ん」
「お前は村人だ。それは事実だ。でも、村人は無力じゃない。知恵を使い、生き延び、そして、ときには“勇者よりしぶとく”なる」
「……勇者より、しぶとく?」
「そうだ。派手さはいらん。生き残るやつが、最後に物語を動かす」
その言葉が、胸にすとんと落ちた。俺が勇者になる必要なんてない。でも、俺の物語を歩くことはできる。
村人としての――戦い方で。
「よし……次は、避けながら倒す方法、教えてくれ」
アランが目を細めて笑った。
「ようやく“冒険者の顔”になったな」




