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第7話 街の門の前で

ウルフとの戦いからさらに二日。

全身の痛みも、ようやく落ち着いてきた。

でも、心の中の敗北感は、まだ消えていなかった。


「着いたぞ。――これが街だ」


アランの声に顔を上げる。

森を抜けると、そこには巨大な石造りの城壁がそびえていた。村とは比べものにならない高さ。

その前には行列ができており、人々が順番に門をくぐっていく。


門の上には兵士たちが見張りに立ち、街の外では行商人が声を張り上げ、冒険者たちが武器を担いで談笑している。

ごった返す人の声と、馬車のきしむ音。

空気そのものが、村と違っていた。


「……でっけぇ」


思わず口から出た感想に、アランが小さく笑った。


「ここがフロスト街。導きの塔のある王都へ行くための中継地点だ。君のような若い冒険者志望者も多い」


「冒険者志望者、ね……俺、“村人”だけどな」


ちょっとだけ苦笑いが混じった。

でも、不思議と気持ちは暗くなかった。

敗北の痛みは、まだ胸の奥に残っている。

けれど、それでも――前に進みたいと思っていた。


  *


列が進み、やがて門番の兵士が俺たちの前に立った。槍を持った厳つい顔の男だ。


「入街証かギルドカードはあるか?」


「俺はある」


アランがカードを見せると、兵士は軽くうなずいて通した。


「君は?」


「えっと……ない、です」


「なら、入街税がかかる。銅貨三枚だ」


母さんからもらったポーチから銅貨を取り出し、震える手で差し出す。

これが“旅をしてる”ってことなんだなと、妙な実感があった。

兵士は受け取ったあと、俺をじっと見た。


「村人か?」


「……そうですけど」


「気をつけろ。街は村と違う。甘く見れば死ぬぞ」


低い声でそう言われ、思わず背筋が伸びた。

俺は何も返せず、ただ黙って門をくぐる。


中に入った瞬間、息をのんだ。村とはまるで別世界。


石畳の道の両側には店がずらりと並び、果物や香辛料の匂いが入り混じっている。

商人の呼び声、鍛冶屋の金属音、冒険者たちの笑い声。

ここは“物語”の舞台。勇者たちが旅立ち、数多の冒険が生まれる街だ。


「さあ、次は冒険者ギルドだ」


アランが顎で道の先を示した。

人の波に押されながら進むと、ひときわ大きな建物が目に入った。


二階建ての木造建築に、大きく掲げられたギルドの紋章。

扉を開けると、中は活気と喧騒に満ちていた。

カウンター前には、登録待ちの若者たち。

奥ではテーブルを囲んで酒を飲む冒険者たち。


「……なんか、RPGのタイトル画面みたいだ」


「あーる……? なんだって?」


アランが首を傾げる。俺は慌てて首を振った。


  *


「次の方~!」


受付嬢に呼ばれ、俺の番がきた。胸の鼓動が少し早くなる。


「職業をお伺いしてもいいですか?」


「……村人です」


その瞬間、受付嬢の笑顔がほんの一瞬だけ止まった。けれど、すぐに営業スマイルに戻る。


「村人の方ですね。登録自体は可能です。ただし、正式な冒険者ランクは付与されません。危険な依頼は受けられず、街の外での活動にも制限がかかります。ご了承ください」


わかっていた。

この世界のルール上、“村人”は冒険者になれない。なれるのは雑用係だけだ。


「……それでも、登録します」


俺がそう言うと、受付嬢は目を丸くした。

でもすぐに頷き、書類を差し出してきた。


「はい、ではこちらに名前をお願いします」


震える手で“リオ”と書き込む。

これが、俺の“始まり”になる。


  *


「……本当にいいのか」


受付を終えたあと、アランが俺に尋ねた。


「冒険者じゃなくて、ただの村人だぞ?」


「いいよ。最初から“勇者”になるなんて思ってない。でも、村人だって前に進めるはずだ」


俺はギルドカードをぎゅっと握った。これは勇者の証じゃない。でも、俺がこの世界を歩いていくための、最初の一歩だ。


アランがふっと笑う。


「……そうか。なら、歩け。自分の物語を」


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