第4話 黒魔導士との出会い
「面白いな。村人がスライムを倒すなんて、ありえないはずだ」
夜風がひんやりと肌を撫でる中、黒いローブの男が薄く笑った。
長身で、声が低くて落ち着いている。
正直ちょっと怖い。
アランと名乗ったその男は、杖を軽く地面についた。
カラン、と鈴のような音が鳴り、足元の影がわずかに揺れる。
強い——そう、直感した。
俺みたいな村人とは、明らかに格が違う。
「君、普通の村人じゃないね」
「いや、いやいや、俺はどう見てもただの村人だよ!? ステータスも職業も、どこからどう見ても村人なんだが!?」
「普通の村人なら、スライムに触れた時点でやられてる。君は短剣一本で倒した。それが異常なんだよ」
……異常、か。
俺自身、それは感じていた。
ゲームでは村人がスライムを倒すなんてありえない。
本来なら戦士や魔導士が、序盤のレベル上げで軽く倒すモブだ。
けど俺は、十年以上スライムを狩り続けてきた。
努力と経験だけで、どうにかなっちまったんだろうか……。
「……まさか、君、あの導きの塔の事件を知らないわけじゃないだろう?」
「もちろん知ってる。……宝玉が盗まれたってやつだろ」
アランの目が細くなる。
「普通の村人が、そんな話を当然のように知ってるとはな。やっぱり、君は面白い」
「……あんた、俺に何が言いたい?」
「一緒に来ないか?」
……はい?
唐突すぎて、俺は素で声を裏返した。
「い、いや、いきなり何だよ!?」
「この村は安全かもしれない。だが、この先、世界は荒れる。導きの塔の宝玉が盗まれたということは、世界の軸が揺らぎ始めているということだ」
アランの声は淡々としていた。
でも、その奥に、確かな覚悟みたいなものが感じられた。
「力を持たない村人は、世界が揺らげば真っ先に踏み潰されるだけだ。……でも、君は戦える村人だろ?」
「……っ!」
そう言われると、否定できなかった。
俺は村人だ。
でも、村人でありながらスライムを倒せる。
それが他人から見れば異端だってことくらい、わかってる。
「俺の旅に同行しろとは言わない。選ぶのは君だ。
このまま村に残って、物語の背景になるのか——
あるいは、自分の物語を歩むのか」
まるで、俺の心の中を読まれているようだった。
勇者でも魔導士でもない。
村人という不遇職で生まれた俺に、物語の中心なんて無縁だと思ってた。
でも——。
「……行く」
口が勝手に動いていた。
怖い。でも、それ以上に、このまま背景で終わるのが嫌だった。
アランが、わずかに口元を緩めた。
「いい判断だ。君の物語が、ここから始まる」
夜の風が、村の外から吹き込んだ。
いつもより少しだけ、冷たくて心地よかった。




