第3話 職業:村人(ガチ)
「リオも、もう十六歳かぁ……早いもんだな」
父さんの声を聞きながら、俺はため息をついていた。
十六歳——この世界では、正式な職業が判明する節目の年齢。
つまり今日は、俺の職業鑑定の日だ。
「……もうわかってるんだけどな」
五歳の頃から、スライムを相手に枝を振り回し、
十歳の頃には短剣を握って戦えるようになっていた。
村の中では「スライムハンターのリオ」なんてあだ名までついたけど、それでもステータス欄はずっと【職業:村人】のまま。
ゲームなら、勇者が村を出てから始まるチュートリアルだけど……
俺は、ずっと村から出ないまま十年以上経ったNPCポジションだ。
*
鑑定の場は村の中央にある石碑の前。
淡い光を放つ巨大な魔石の前に立つと、自分の職業とスキルが刻まれる。
村人全員が一度は通る通過儀礼。
「リオ、こっちへ」
村長が俺を呼ぶ。
俺は深呼吸して、石碑の前に立った。
「(頼む、何か、何か変わっててくれ……!)」
石碑に手を置く。
冷たい感触。淡い光が全身を包み——
刻まれた文字を見て、俺は膝から崩れ落ちた。
【職業:村人】
【スキル:なし】
「……変わってねぇぇぇええええええ!!!」
叫んだ。マジで叫んだ。
あれだけ頑張ってスライム倒しても、俺はやっぱり村人だった。
周囲の村人たちは気まずそうな顔をしていた。
「村人」なんて珍しくもないし、悪い職業でもない。
……でも、それは普通に生きる前提の話だ。
俺は、この世界を知っている。
勇者が塔に向かい、魔王を倒す物語。
村人は、その物語の「背景」でしかない。
「まぁ……リオらしいっちゃ、リオらしいけどな」
「農業の跡を継ぐにはぴったりじゃないか」
周りの言葉は優しい。でも、それが余計に痛かった。
俺は勇者じゃない。魔導士でも剣士でもない。
ただの村人だ。
*
その夜。
家の外れ、村の井戸の近くで、俺は短剣を握っていた。
いつものようにスライム狩りだ。
十年以上、毎日やってきた俺の日課。
「やぁっ!」
ぐしゃり、とスライムが崩れ落ちる。
でも——レベルは上がらない。
戦士ならとっくに上級職になってるくらいの数、倒してきたのに。
「……バグじゃね?」
本気でそう思った。
いや、もはや笑えてくる。
このままじゃ、俺は背景のまま終わる。
勇者が活躍して、エンディングで「村人たちが拍手してました〜」のモブ。
そんなのは、まっぴらごめんだ。
「……俺は、ただの村人じゃねぇ」
自分に言い聞かせるように呟いた、その時ーー
後ろから声がした。
「おい、君……今、スライム倒したのか?」
静かな夜の空気を裂くように響く、落ち着いた男の声。
振り返ると、黒いローブを纏った長身の男が立っていた。
片手には杖。鋭い眼差し。
どこか、場違いな雰囲気を放っている。
「……誰だ、あんた」
「アラン。黒魔導士だ。君……職業は?」
「……村人、だよ」
男——アランは一瞬、目を細めて俺を見た。
そして、まるで信じられないものを見たかのように、ふっと笑った。
「面白いな。村人がスライムを倒すなんて、ありえないはずだ」
その言葉で、俺の心に火が灯った。
ようやく、何かが動き始めた気がした。




