第3話 つながり、後悔
「さ、、」
「、、さん!」
「姉さん!!!」
「はっ、、!!」
目を開け急いで体を起こす。とさっきまでの白い空間はなく、ベッドに横たわっていて、帝国の宮殿の客室であることがある。
「天井、、。戻って来た、、。」
汗が背中にしたって気持ちが悪い。何だか頭もガンガンする。処刑で首を落とされて、気づいたら悪夢の結婚式に戻っていて、かと思ったら変な声に白い異空間に連れてかれて、もう何がなんだかである。
ふわりと花の香りが乗った心地よい風が吹く。見ると部屋の唯一の窓が開け放たれていて、帝国の中庭の整然とした花や草木が風に揺れている。暖かい日差しが降り注ぎ、小鳥は何匹かが楽しそうに歌っている。
「首は、ついてるわね」
死の感覚はいまだに濃厚だ。ヒュッと風を切る音がして、処刑人の冷たい刃が首筋に当たった瞬間、意識が途切れた。その瞬間、確かに『シルステシア』は死んだはずである。でも死んでいない。脈もある。
窓に映る私は、見つめると少し幼く見えるが、ウェーブがかかったつやつやの黒髪に少し棘のある顔つき、ルビーの瞳、これは間違いなくシルステシアだ。
「うん。今日も普通にかわいい。あの変な声言う通り、本当に巻き戻ったみたいね」
「姉さん?どうかしましたか」
この声は、
「、、、クラウス?」
懐かしい声の方には、ベットの傍の椅子に腰かけて心配そうなかわいらしい顔がのぞいている。
「姉さんよかっ」
「やっぱりクラウスだ!」
「うわっ」
クラウス・シュワルツ。彼は私の弟である。私とよく似た艶々黒髪に赤目、今は年相応だが未来性のあるかわいらしい顔立ち。何といってもイケメンである。美少年と言った方が正しいだろうか。それにちょっと小生意気で口の悪いところがギャップの、かわいいかわいい私の弟だ。久しぶりの感動の再会に、思わず飛びついて倒れるほどのハグする。
「痛、、どうしたんですか」
後頭部をおさえながら涼しげな眼もとを迷惑そうにしかめる。そんな姿もかわいい。彼は結婚式で私の手を引いていたぬくもりの正体だ。
「えっ何泣いているんですか」
「いやね、感動の涙よ。クラウスったら今日もかわいいわね。」
「は?何の感動ですか?」
「いやほんと、びっくりするくらいかわいいわよ。地球ひっくり返るくらい。自覚持って?」
「はぁ?」
クラウスは仕方なしに私の頭を肩に抱き、小さい子でもなだめるようにポンポンと背中をたたく。
「よしよし。なんだか悪い夢でも見たみたいですね」
「くうこのイケメンがよお」
「いけめん?」
「クラウス、ところで今、何年?」
「はあ?神暦239年ですけど」
処刑されたのは17歳。巻き戻ったのはたったの3年ぽっきりらしい。
「やっぱりか。あんたも大変だね」
「まだ夢の中みたいですね。そろそろ起きてください。」
《ーーシルステシア。貴方の歪んだ運命を正すのです。まずはその手にある命を救いなさいーーーー》
最後にかろうじて聞こえた守護天使とやらの声を反芻する。
「あの金玉野郎含みのある言い方しやがって。でもクラウスがいて良かった!」
もう一度かわいい弟を抱きしめなおして溢れる感動にひたっていると、クラウスは大きくため息をつく。何か言いたげである。
「何よ。はっきり言ってよ」
「メイク服に付けないでくださいね」
「え?」
「姉さんが今着てるドレスも僕が着ている礼服も、一体いくらすると思ってるのですか?」
「は?」
「無駄に豪華なんですから大切に扱ってください。僕たちの所持金じゃ弁償なんてとてもじゃなないです。できません。」
そういえば結婚式用の純黒のドレスを着たままである。
「あ!ほらそこ!おしろい落ちてるじゃないですか!」
「は、はい」
「擦らない!擦ったら落ちにくくなるんですから。黒だからって汚れが目立たないわけじゃないって言いましたよね?あーあーメイクもこんなにして。そこに座ってください」
「イエッサー」
「あの後いろんな人に怒られて大変だったんですよ。姉さんが階段から無様にも落ちたせいでね。全くこっちの身にもなってくださいよ。何に気を取られたか知りませんけど、どうして練習通りに動かなかったんですか?そのドレスで走ろうとしたら当たり前に転ぶでしょ。バカなんですか?」
「それは、面目ないです。」
「僕たち人質みたいなものなんですよ!何回も話し合いましたよね!国には帰れないんですからこっちで気に入ってもらえるようにしないとって!」
止まらない説教をくどくど続けながらクラウスが私の涙をハンカチでグリグリと拭く。
「ふ、ふふ」
「何笑ってるんですか、、」
「ふふ、いやね、なんかお母さんみたいね。クラウスってそういばこうだったわ。夢じゃない。やっぱり現実よねって」
クラウスは何を今さら当たり前なことを言ってるんだとでも言いたげな顔で、じとっとこちらをにらむ。
やはり、本当に皇妃となったその日に巻き戻ってしまったみたいだ。次に目を開けたらまたあの処刑台だった、なんてオチではない。ぶつけた頭もヒリヒリするし、試しに一応頬を引っ張ってみても
「ちゃんと痛いもの」
一層目を細めてクラウスが言う。
「ストレスでおかしくなっているのか、落ちて頭をぶつけておかしくなっているのか、どっちですか姉さん。」
「分かってるって。あー!また皇妃人生かー!あんたも大変ね。」
「、、、本当に頭大丈夫ですか?医者を呼びましょうか?」
「大丈夫!元気いっぱい!」
不審さを顔に張り付けたまま、クラウスは私の頭と顔を見比べジロジロ観察する。
「、、ともかく、花嫁が逃げるなんて失態、明日には僕達命がないかもしれません。ドレスぐらいは綺麗にお返しできるように、」
「クラウス、あなた今何歳?」
「話聞いてます?」
「いいから!何歳?」
「13ですけど、、」
「13!?ちっちゃー!!」
「姉さんだってまだ14でしょうが、、」
「そんなの関係ないわ。」
厳密にいえば女子高生時代も合わせて34歳プラスαだ。なんだか年齢は直視したくない。アラサーロリと考えるとちょっと犯罪臭がする。何らかの罪で捕まりそうだ。
「貴方はまだ13なのだから甘えるべきね。よーしよしよしもっと甘えていいんだよ」
「本当に何!怖い!」
もう一度弟を抱きしめて、腕の中の私と同じ黒々とした髪をわしゃわしゃとなでる。
「今度は絶対に大人にしてあげるからね」
私の記憶では、クラウスは3日後に死ぬ。
その理由は、皇帝の暗殺未遂である。
《ーーシルステシア。貴方の歪んだ運命を正すのです。まずはその手にある命を救いなさいーーーー》
巻き戻ったシルステシアの最初の目的、それはクラウスの運命を変えることである。




