第1話 はじまり、くりかえし。
異世界転生悪役令嬢ものです!よろしければお読みください!
「黒き強欲の皇妃 シルステシア・フォン・ディダッチ」
「貴様を皇帝暗殺の罪で処刑する!」
「やっちまえー!!」
「この売国奴めー!!」
「お前のせいだぞ!!」
冬の初め、風の強い日であった。風の切る音と民衆の罵詈雑言が混ざってシルステシアの周りを渦巻く。
誤解だ!私じゃないのに!本当の犯人はすぐそこにいるのに!!
彼女の声にもならない叫びは空に舞って消える。処刑人が大鎌を振り上げ一等大きな歓声が上がると、その首は、音も立てずに転がり落ちる。シルステシアの瞳には、本当の犯人が人だかりに紛れてにやりと口元をゆがめるのが見えていた。
ーーー
普通の女子高生だった私は、ある日突然交通事故に遭い、剣と魔法の中世風ファンタジーな世界のお姫様に転生した。
しかし転生に喜んだのも束の間である。
ここはファンタジーな見た目だが、結構リアルな世界で、政争・戦争・策謀・策略、わりと何でもありである。私は様々なものに巻き込まれて、「黒き強欲の皇妃」とかいう中二病みたいなあだ名をつけられた挙句、皇帝暗殺のえん罪をかけられて処刑されてしまったのだ。
まだ17歳だった。あろうことか女子高生時代とお姫様時代、同じ年齢に死ぬなんて、私は余程ツイていないらしい。
鐘の音がする。教会の鐘の音だ。
今度こそ、私は天国に行けたのだろうか。先ほどまで広場に響いていた罵詈雑言と打って変わって、歓迎する幸せな歓声のようなものが聞こえてくる。死んだら元の女子高生に戻れるといいな。それとも今度はまた別の転生先に行くのだろうか。どっちにしても今度は長生きしたい。死ぬのはもう嫌だ。
どこからか声が聞こえる。
《マジでゴメン。もう一回やらせてあげる》
もう一回やらせてあげる?何を?エコーがかかっていて聞き取りづらい声だ。それになんだか黒板をひっかいた時のような不快感がある。
気がつくと、私はどこかに立っていた。先程と同じ鐘の音がする。教会の鐘の音だ。辺りはあたたかい春の陽気で、絵に描いたように青い空に、無数の色とりどりの花弁や紙吹雪が舞っている。しかしなぜか自分は黒い装いを着ているらしいが、それでもやけにまぶしい。
誰かが近づいてきて私の手を取り、歓声の間をぬって、どこかへと導く。その手はなんだか懐かしいぬくもりで、知っている手なのだが、誰のものか思い出せない。子供の手だ。この導き手は天使か何かだろうか、と考えているうちに長い階段を上がり、気づけば大きな十字架の前にいた。どうやらここを目指していたらしい。
十字架に光が遮られると、一気に辺りが暗くなり、はたと気づく。わたしはこの景色をどこかで見たことがある。
そういえば天国にしては、ヒールでかかとが痛い感覚がやけにリアルだ。まるで、まだ慣れないヒールで靴擦れを起こしていた時のようだ。
すると、不意に視界の解像度があがる。どうやら今までベールをかけられていたらしい。
そして視線を下げると自分が着ているものがただの布切れではなく、レースや宝石で飾り立てられた繊細かつ豪華な黒いドレスなのだということが明らかになる。
黒のベールに、黒のドレス。このどこか見覚えがあるこの2つが組み合わさる出来事を私は一つしか知らない。
「結婚式、、?」
最悪のはじまり。それは真っ黒なベールからだった。
黒いドレスに黒いヴェール。普通ならお葬式の特徴だが、私にとっては違う意味を持つ。そう、婚礼の衣装・ウエディングドレスである。
恐る恐る顔を上げるとそこには、やはり、私の悪夢、晴天の霹靂があった。漆黒の衣装に身を包む私と対比するように、目にかかるくらいの柔らかい天使のようなプラチナブロンドの髪、そこから覗く鋭いが淡い黄金の瞳、純白のタキシード。彼はAIのように精巧で整った顔立ちである。きっと神様が利き手で全集中しながら人間を作ったのならば、この人ができるあがることだろう。あろうことか彼は私にむかって指輪を差し出している。
「手を」
忘れるわけがない。この嫌味なほど澄んだ青に縁取られた白金を。
途端に汗が吹き出し、今まで忘れていた息を吹き返すように呼吸が早まる。まるで水の中からはい出たかのように急に音も鮮明になる。彼は私が暗殺したことになっているまさにその人、皇帝ゲーアハルトだ。
「皇帝陛下、?貴方、、死んだはずじゃ。」
鉄仮面のように整った顔が私を見ている。記憶より少し幼く、めかしこんでいるように見えるが、確かに彼だ。そっと手をのばして頬にふれると僅かに体温を感じる。そして、伸ばした私の手も傷一つない頃の手だ。
「、そうか、そうよね。そうだわ。天国だものね。でも、貴方がいるならここは天国じゃなさそうね。これは走馬灯かしら。にしては悪趣味だけど。」
既にある予感をかき消したくてシルステシアは早口にまくしたてる。
「何をしている。私を暗殺する計画でも失敗したか?」
「だからそんなことしてないわよ。この時よりもずっと後の話だけどね。」
「何を言っている?」
「というかあなた喋ったわね」
「走馬灯なのにリアルだわ。」
「走馬灯ではないからな」
ゲーアハルトは私の手を取り、左くすり指に結婚指輪をはめながら、シルステシアに近づいてささやく。
「これは現実だ。何をしているシルステシア」
もしかして、本当に、
「お前は今日から皇妃となるのだから」
結婚指輪にしては珍しく白金に赤の宝石が埋め込まれているリングはまるでぶかぶかで指の中でぐるりと回る。繊細な飾りのはずが鎖のようにずしりと重みを持つ。と、ともにシルステシアの頭の中には、「巻き戻り」という言葉が浮かんだ。昔読んだ悪役令嬢ものみたいだ。
生きた記憶、死んだ記憶。楽しかったこと、辛かったこと。辛かったことの方が圧倒的に多いが。そしてさっきの《マジでゴメン。やり直させてあげる》というなめくさった声。
「げん、、じつ、、?」
左薬指にはめられた鎖が重い。
「嫌、、、嫌だ、、、イヤーーー!!!」
皇帝の手を振り払って逃げ出す。しかし私は豪華なドレスに足を絡めとられる。よろめいて階段を踏み外し、盛大に宙に浮く。今日の空はどこまでも澄んでいてきれいだった。一回目の結婚式の時には気づけなかったことだ。
ああ、でもせめて巻き戻るなら女子高生の方がよかった。それが無理でも、もう少し科学が発達した世界に転生が良かった。
「、、ん、、さん!」
私は意識を手放す。
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