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竜と神のヴェスティギア【過去編同時連載中】  作者: 絢乃
第九話

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 けれど、弛緩した空気の中でも、竜神達はその異変に誰よりも早く気付いている。

「レヴィ…」

「あぁ」

 二柱の神は、揃ってある一点へと視線を向けている。やがてその異変は、実質的な異常を全員へと知らせ始めた。

「え、何この気配…」

 根源との接続を経たルティウスも、それまでより敏感に察知する。

 二人が向いた先から感じるのは、あまりにも禍々しい魔力の奔流。

「レヴィ、どう思う?」

「アレが、あの魔物発生の原因だろうな…」

 西ベラニスの港を覆い尽くし、つい先刻この場でも起こった魔物の異常発生。淀んだ魔力が生み出した元凶は、リーベルも知っていながら詳細を把握出来ずに対応しきれていなかった事。

「…公国でも最近、よく耳にしております。各地で魔物が異常に溢れる事態が頻発していると」

 事態を裏付けるように、ゼフィラが付け足した。

「…アールは何故放置している?」

「分かりません。把握はしてらっしゃいますが、対処しきれておらず…」

「…チッ!」

 レヴィとフィデスは、同時に翼を羽搏かせて魔力の発生源へ向かうべく飛翔していく。その後を追って、ルティウス達も駆け出す。離れすぎてしまえば彼らが力を使えなくなる…それを知るからこそ、ルティウスは追うしかなかった。

「あいつらぁ!俺らも飛べると勘違いでもしてんじゃねえのか?」

 唐突に走らされたリーベルが文句を言うも、その顔は真剣だった。

 西ベラニスの自警団を苦しめた魔物の異常発生…その原因と推測したレヴィの一言は、元団長を奮起させるのに十分だったから。

「アール様も頭を悩ませておいででした。どれだけ加護の力を撒いても、淀みが生まれ続けていると仰ってましたから…」

「アールって、風の竜神?」

「左様です!」

 走りながら話すゼフィラの声は、少しだけ苦しげだった。

 いつか会わなければならない風の竜神、その力を以てしても抑えられない魔力の淀みがこの先で発生している。彼女の主神が悩むほどの事態、その渦中へ飛び込む事に、ルティウスは一抹の不安を抱いていた。


 走り抜けた森の奥、その先で立ち尽くすレヴィとフィデスの背中を見つけたルティウスは、彼らが見据えるものをその視界に収めた。呼吸が整うのも待たずに駆け寄って、警戒するレヴィの隣に立ち並ぶ。

「あれ、何…?」

 鳥肌が立つほどの、淀んだ濃い魔力。それは漆黒の塊と化し、小さな池の上で蠢いている。

「…私のせいか」

「えっ…?」

 小さな池の奥からは、湧き水が流れ出ている。けれど循環するはずの水は濁り、それが沈殿して淀みを生み出しているのだと、ルティウスにも分かった。

 しかし聞き逃していない。レヴィは自分のせいだと言った。その意味を理解するよりも早く、事態は残酷なまでに動き出す。

「伏せろ!」

 唐突に叫んだレヴィは、声と同時に強大な防御結界を展開した。同じようにフィデスも結界を張るが、漆黒の淀みから放たれた闇色の閃光は二重の結界に亀裂を生じさせていた。

「何、これ!」

 やがて淀みは、黒い花のような形へと変貌していく。

「レヴィ、これ無理だよ!」

 泣き言を漏らすフィデスは、ひび割れそうになる結界を何度も張り直しながらレヴィへと告げる。

「こんな凶悪な呪い、今のボクらじゃどうしようもないって!」

 土の竜神の【眼】は淀みの正体を看破していた。レヴィも同じく見抜いたようで、手立てが無い事を示すように表情に焦りの色を滲ませていく。

 二人が結界を張り直す度に、ルティウスの魔力も消耗していく。大きな減少ではないものの、じわじわと削られていく感覚はルティウスをも焦らせていた。

「レヴィ、俺はどうしたらいい?」

「…ッ!」

 このままではいつか限界を迎えてしまう。悟ったルティウスが動こうとするも、今のレヴィには振り返る余裕がない。ルティウスと、リーベルにゼフィラ…人間達をどうすれば守り切れるか、その一点だけを考えていた。

 

 だからこそ気付かない。

 フィデスが呪いと称した黒い花が、その蕾を開かせようとしていた事に。

 そして自身の役割を探るべく注視していたルティウスだけが、その変化に気付いている。


「…レヴィ!」


 ほんの一瞬の事。

 結界を張り続け背後の人間達を守ろうとするレヴィに向かって放たれた、一際強い魔力の閃光。それは結界を貫通し、レヴィを撃ち抜こうとしていた。

 叫んだルティウスが渾身の力でレヴィの身体を突き飛ばした瞬間、閃光はルティウスの胸を貫いていた。


「………ルティ?」

 バランスを崩し、それでも倒れる事なく踏み止まった。即座に振り返ったレヴィの金の瞳には、閃光に撃ち抜かれるルティウスの姿がある。手を伸ばせば届くはずの近い距離で、小柄な身体は無情にも大地へと倒れていく。

「ルティウス!」

「殿下!」

 咄嗟に駆け寄り、その身体を抱き起したのはリーベルだった。蒼い瞳は閉じられ、意識がない事を表している。

「くそっ、何だったんだ今の!」

「傷…は、ありません!先ほどの閃光は一体…?」

 悲痛な叫びと共にルティウスへ治癒魔法を施すゼフィラの表情は、悲愴よりも切迫が濃く滲んでいた。治癒魔法を使ったところで、外傷でもなければ意味がない。事実として、ルティウスが着ている白い服には一滴の血も付いていなかった。


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