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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第二話

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 夢を見ていた気がする。それが夢だと思えたのは、目の前に居たのがレヴィと、どこか懐かしさを覚える見知らぬ女性だったから。

 もしかしたら、これはレヴィの記憶の一部か?そう考えてみた。魔力を吸い取られていた時に、何かしらの繋がりが生じたのかもしれない。そしてこれがレヴィの記憶なのだとしたら、俺は彼の大事な思い出を盗み見てしまっている事になる。

 女性に向き合うレヴィはとても穏やかに笑っていた。まだ出会って一日も経過していないだろう。だけどそこに居るレヴィの笑顔が、何故か懐かしくて仕方ない。

 どうして……?

 俺はまだレヴィと、懐かしさを覚えるほど一緒にいない。

 そしてレヴィの前にいる女性もまた、見知らぬ人のはずなのに懐かしい。そう感じられる事が不思議でならないのに、それが当然のような気もしている。

 ぼんやり二人を眺めているが、こんなに近くにいるのに声が聞こえない。夢だからなのか、それともレヴィに掛けられている封印のせいなのだろうか。

 いつしか、二人は寄り添い遠ざかっていく。真っ白な光の中へ消えていく二人の様子は、まるで睦まじい恋人のようだった。


***


 暖かな風に吹かれて、揺れる髪が肌を擽る感触に身動ぎする。大きな木の、葉の隙間から降り注ぐ陽射しは眠っていても表情を歪ませるほどに眩しく、沈んでいた意識が徐々に浮上を始める。僅かに開かれた視界に映ったのは、記憶の最後では隣に居たはずの男の表情。太陽が真上に到達しそうな頃合のようで光の強さに眉根を寄せるが、すぐに陽光は遮られた気がする。

「……目が覚めたか?」

 目の前から聞こえてくる優しい声にゆっくりと、だが今度こそしっかりと瞼を押し上げ、緩慢な動きで声が聞こえた方へ視線を向ける。至近距離から見下ろしてくる整った顔と金色の瞳。そのあまりの近さに、ルティウスの意識は瞬時に覚醒を果たした。

「……びっくりした」

 眠る前の記憶は若干曖昧ではあるが、レヴィの肩に凭れ掛かって眠ったはず。しかし今、凭れ掛かるどころか身体を横にしている。頭の下には少し硬い、だけど確かな温もりが感じられた。どうやらレヴィの膝枕で眠っていたようだ。

 人生初の膝枕はまさかの男性に、しかも神にしてもらう事となった。彼の人との距離感は一体どうなっているのかと疑問に思いながらも、ゆっくりと身体を起こしてレヴィへと向き直る。

「身体の調子はどうだ?」

 ルティウスが眠りに落ちるほど疲労困憊となった理由は、レヴィに魔力を吸い取られたためだ。しかしそれも、二人で地底の洞窟から地上へ転移するためであり、膨大な魔力を消費する事は聞かされていたから文句を言う気も無い。

「ん~……だいぶ、楽になったかな?」

 未だ全快とは言えないが、動けない程ではない。魔法を発動させる前後に感じていた倦怠も今は無く、移動に支障があるようにも思えなかった。

 日がある内にベラニスへ向かいたいルティウスはその場に立ち上がり、身体を解すように両腕を頭上へ伸ばした。

「制御はしていたが、それでも枯渇寸前まで魔力を失ったのだ。異変を感じたら無理はしない方がいい」

 ルティウスに続いて立ち上がったレヴィが傍らに歩み寄り、忠告しながら少し低い位置にある頭を撫でる。少しだけ楽しそうに微笑む様子を見上げて、再びの不貞腐れ顔を浮かべたのは言うまでもない。

「俺はもう、子供じゃないんだけどな……」

「私からすれば、ルティは赤子と変わらんよ」

 子供扱いしている事を否定しないどころか楽しげに言われて、反論はせず隣に立つ男の肩を思い切り叩いた。衝撃でふらつくどころか叩かれても微動だにしないレヴィにさらに腹立たしくなるも、これが人と神の差かなと、溜息を吐いて諦めの境地へと至った。

「もう、ふざけてないでさっさと行くぞ!」

「あぁ」

 そうしてルティウスが歩き出し、後を追うようにレヴィも隣に立ち歩き始め、やがてレヴィの導きで、最初の目的地である中立都市ベラニスへ向かう。

 二人が転移で到達した場所は、周囲を見渡すだけでは現在地すらも把握出来ない程に何も無い平原。太陽がちょうど真上にあるせいで方角すらも読みにくい時刻。水脈を辿れるレヴィに案内を任せ、自力では魔法の行使に難のあるレヴィを守るため、時折出現する魔物からの盾になるべく立ち回った。

 世界中に張り巡らされた水脈の全てを感知できるという水の竜神は、迷い無く道無き道を進んでいく。平原を発ちしばらくすると森へ入ったが、それでもレヴィは迷う気配すら感じさせない足取りで獣道を直進し続けた。

「力の大半を封じられたままでは、水脈を辿る程度の事しか出来ないがな。魔法を使うなら、またルティの魔力を借りる事になる」

 剣を使えるルティウスがレヴィを守ると決めたのは、その一言があったからだ。加減はしてくれると信じていても、また魔力を吸われて動けなくなるのは避けたい。そうなった時に魔物の群れにでも遭遇してしまったら、レヴィを守る所ではなくなる。何が起こるかわからない道中で、危険な事はさせたくなかった。

 しかし本来の力を封じられていても、水脈を辿る事は可能なのかと驚いた。何故なのか問うと、理由はこの地そのものにあるのだと答えてくれた。

 水神を祀るグラディオス帝国と、同じく水神への信仰が強いベラニス。その両都市からそれほど離れていない場所だったようで、辛うじて力を使えているのだと歩きながら告げた。

「やっぱり神様って、信仰が盛んだと力も強まるものなのか?」

「自身の力そのものには何ら影響がない。けれど信仰する事で、その土地や周辺の水源が守られる。それは水脈を守る事に繋がる。結果、僅かな魔力でも少しの干渉なら可能な土台が保たれる」

「へぇ……直接ではないけど、間接的にって感じなんだな」

 首肯するレヴィは、けれど本来の力が戻ればそうした土台が無くとも、水脈への干渉や魔法の発動は息をするのと変わらない感覚で扱えたのだと付け足した。

 ルティウスの目的は、周辺国を巡り協力者を得る事。そこに封印の解除方法の調査を含めても何ら問題は無いように考えていた。何をすれば封印を弱められるのか、解放には何が必要なのか、知る事が出来れば多少なりとも、今後のプランについて目処が立つかもしれない。

「レヴィの封印って、どうしたら解けるんだ?」

 誤魔化しても仕方ない。こうした疑問は直接伝えるべきだろうと考えたルティウスは、隣を歩くレヴィへ尋ねる。少しの間はあったものの、彼は答えてくれた。

「…私を封印したのは、他の神達だ」

「他の神?」

 この世界には、レヴィと同格の神が他に三柱いる。グラディオス帝国から遥か西に位置する、ヴェネトス公国が祀る風の神。そこから南部のフラーマ王国では炎の神を祀り、逆に北部のテラムという国では土の神が祀られている。そうした神々には対になる存在としてレヴィのような竜神もおり、それぞれに世界の均衡を保たせているのだと、幼い頃に世界史の一端として習った記憶がある。

 神と竜は各属性で一対であり、つまりグラディオスが祀る水の神は現在、レヴィが封じられているため片方が欠けている状態なのだとルティウスは初めて知った。

「つまり、他の神様達と話して、封印を解いてもらわなきゃいけないって事か?」

「簡単に言えばそうなるな…」

 元より各国を訪問するつもりではいたが、これは壮大な世界の旅になるなと、遠くを見ながらも腹を括る。けれどレヴィの力が封印されたままでは、水神の加護を受けるグラディオス方面は不安定になりかねない。ただでさえ今は内乱に陥ろうとしている状況の中、皇子としてこの事実を見過ごす事は出来なかった。

「ちなみにレヴィはさ、仲の良い竜神や神様っているのか?」

「…………親交という意味ではどれも大差はない、が……風の竜は、他者への情が深い」

 風の神と聞いてルティウスが思い付いたのは、ヴェネトス公国。真っ先に向かいたいと考えていた国だった。

「じゃあさ、ベラニスに行った後は…そうだな、遠いけど、西のヴェネトスへ行こうと思うんだけどどうかな?」

「…西……風の国か。そこを選ぶ理由は?」

「俺の兄がいるはずなんだ」

 城の地下祭壇から転送される直前に、アミクスに聞かされた話。上の兄である第一皇子サルースが、ヴェネトス公国へ落ち延びているはずだと。聡明なサルースとの再会を果たせれば、事態を好転させる妙案も生まれるかもしれない。ルティウスはそんな期待を抱いていた。

「まだレヴィには話してなかったんだけどさ…俺、サルース兄様に会わなくちゃいけないんだ。国を救うために」

「救う…?」

「もう一人の兄が内乱を起こして、父様……陛下と争っているかもしれないんだ」

 そしてベラニスに向かう道すがら、ルティウスは歩きながら順を追って説明した。

 自身がグラディオスという国の第三皇子である事。皇位を求める第二皇子が即位の邪魔となる者達を消しに動いた事。その過程で命を狙われ、アミクスという友人の使った禁術で皇都から送り出された事。

 そして辿り着いたのがあの洞窟。そこでレヴィと出会った事。

 一通り話し終えたところで、僅かにレヴィの表情が曇っている事に気付いたが、触れて良い部分なのかルティウスには判断が出来なかった。何か気掛かりでもあるのか問おうと考えていたその時、レヴィが唐突に立ち止まった。

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