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竜と神のヴェスティギア【過去編同時連載中】  作者: 絢乃
第八話

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0084

 夢現の境を彷徨っていた意識は唐突に、強制的に現実へと引き戻される。

「おい、何だありゃ?」

 聞こえてきたリーベルの声は、どこか切迫していた。そして同時に、船に大きな衝撃が襲い掛かる。

「ッ、何だ?」

 レヴィの膝枕から飛び起きたルティウスは、寝惚けた頭ながらも事態を把握するべく周囲を見回す。船主の方から、煙が上がっている光景が視界に映り込んだ。

「火炎魔法の流れ玉だろうな」

「えっ、何でそんな事に…?」

「…血の匂いだ」

「えぇっ…?」

 端的に告げるレヴィの金色の瞳は鋭く船主の、そして船が向かう先を見つめていた。

 船に乗り合わせていた決して多くは無い人々も、突然の出来事に騒然としている。そうした異常事態を目の当たりにして立ち上がろうとするが、まだ体調は回復しきっていなかった。唐突に動いたせいか、落ち着いたと思っていた吐き気が蘇りふらついてしまう。当然のように伸ばされたレヴィの腕が、飛び出すのを抑え込むようにルティウスの身体を抱き寄せた。

「急に動くな」

「でも…!」

「先程の魔法も、人が放ったものだ。おそらくは港で、何かしらの戦闘が起きている」

 レヴィの腕に支えられながら、煙の上がる船首を見る。既に乗員によって鎮火はされているようだが、確かにその場所からは魔力の残滓が漂っている。

 出航前に叔父のリーベルが話した言葉を思い出した。


 西ベラニスには外壁なども無く、魔物が頻繁に出没する。そのせいでベラニス自警団の戦力は西に集中しているのだと。


「早く…行かなきゃ…」

 脅威となる程の魔物が居るのだろうか。現地の状況はまだ分からない。知れないという現実はルティウスをじわじわと焦らせるが、レヴィは冷静にルティウスを制する。

「接岸するまで手出しは出来ないだろう。それよりも、お前はじっとしていろ」

「何でだよ…!」

「そんな有様で剣を振るえるのか?」

 今もまだ身体は言う事をきかない。レヴィの腕に支えられてやっと立てる今の自分が、戦力になれるとは到底思えなかった。

「…任せても、いいか?」

「誰に言っている」

 レヴィに頼るのは申し訳ないと思いながらも、今の自分が足手まといになる事は自覚している。それに今は…レヴィと互角に渡り合えるほどの腕を持つリーベルも居る。

 不安そうに見上げるルティウスに微笑み返すレヴィが、視線を陸へと向ける。接岸と共に飛び出す気でいるのか、ふらつくルティウスを船のへりに凭れさせて腕を離すと、同時に首元の聖石が輝き、その手には見慣れた蒼白の輝きを放つ槍が握られていた。

「リーベル、動けるだろう?」

 振り返る事無く、腕前を知る男へと容赦なく告げる。

「お前さんにも、そっくり返すぜ?誰に言ってやがるんだ、ってな」

 ルティウスへ向けた言葉を、叔父がレヴィへと言い放つ。そこに二日酔いで苦しんでいた無様な男の顔はない。背に携えた長剣を抜いてその手に握り、接岸の時を待っている。

「フィデス、お前はルティを守れ」

「りょーかい!」

 元気な返事が飛ぶのと同時に、船が激しい音を立てて桟橋へと接岸する。衝撃に身を強張らせるルティウスはその場にしゃがみ込むが、傍にはフィデスが付いていた。

「オジサンとレヴィに任せて、ルティ君はここで、ね♪」

 無邪気な声と共に、ルティウスの周囲に結界が展開される。フィデスによる防御は万が一の流れ玉や飛び火、そして魔物の奇襲からルティウスを守るためのもの。

「いってらっしゃーい!」

 その一言を機に、レヴィとリーベルは共に駆け出し西ベラニスの地で起きている騒乱の渦中へと飛び込んでいった。


 港と宿屋、そして自警団の宿舎以外に大きな建物も無い簡素な港町、西ベラニス。

 人の往来も多くはないその地は、かつてないほどの怒号と魔物の奇声が飛び交う地獄絵図の戦場と化していた。

「なあ、レヴィさんよ!」

「なんだ?」

 異常なほどの数の魔物がひしめくその場所で、一人の剣士と一柱の竜が余裕を持って会話を繰り広げる。

「これだけ数がいるならよ、ちょっと勝負でもしねえか?」

「…は?」

 一閃で数体の魔物を薙ぎ払うレヴィが、表情を顰めて振り返る。レヴィの背後には、続いて迫る狼型の魔物が三体。しかし気に留める様子も無く、リーベルへと向いたまま微動だにしない。レヴィの正面から長剣を振り下ろし、闘気を込めた不可視の斬撃を放つリーベルの剣は、レヴィだけを避けるように背後の魔物達を両断していた。

「どちらが多く仕留められるか、ってな?」

 身の丈に及ぶほど大型の長剣を肩に担ぎ、にやりと笑うリーベル。そんなリーベルの背後には、ゆらゆらと空中を漂う巨大な蟲型の魔物が迫る。しかしリーベルもまた、微動だにしない。

「くだらない」

 冷静に返すレヴィが槍を振り上げると、リーベルの背後で耳障りな羽音を立てる魔物が真っ二つに裂けて地面へと落ちて行った。

「そう言ってるけどよ、お前さん、笑ってるじゃねえか」

「気のせいだ」

 軽口を叩き合う二人は、同時に振り返りそれぞれの背後に迫る魔物達を薙ぎ払っていく。

「二日酔いは負けの言い訳にはならんぞ」

「甥っ子が見てる前で、そんな無様は晒さねえよ!」

 そして二人は、自警団が奮戦する場所まで戦線を追い上げる勢いで魔物の殲滅を開始した。それがただの狩りと化し、仕留めた数を競っているだけなどと、合流した現地の自警団員は知らない。

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