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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第一話

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【疾く立ち去れ!封印の守り手が動き出す!】


 頭上から聞こえた声は、少しだけ切迫しているように感じた。動き出すとはどういう事か、周囲に意識を向けて何が起こるのかを探る。だがその答えはすぐに、俺の目の前で巻き起こった。

「な、何だ……?泉が…」

 波紋すらほとんど見えない静かな水面が突如として波打ち、各所から大量の水が宙へと浮かび上がっていく。無形である水が寄り集まって球体となり、その内部から今までに無かった何者かの気配…殺気が感じ取れた。

「これが、封印の呪いって奴か?いや、守り手とも言ったな……」

 咄嗟に後方へ跳び、腰の剣に手を掛ける。すぐに戦闘となる事は容易に想像出来たから、いつでも抜けるように構えた。そして水の球体が割れて、中にいた殺気の主が姿を現す。小型だが、それは紛れもなく竜の形をしていた。

「水の、竜…?」

 青白い体躯は小柄ながらも硬質の鱗を持ち、並大抵の剣ならば容易く弾いてしまうだろうと思えた。金色の目は殺意を多分に含ませ、俺を獲物もしくは敵と明確に認識し獰猛な視線を向けてくる。

「これが、俺を蝕むっていう封印の呪いでいいんだな?」

 問うように呟いてみるが返事は無い。この竜が動いた事によって、もしかしたら封印が強まりでもしたのかもしれない。

 ならばやる事は一つ。まずは目の前の、五体も出現した小さな水竜を倒す事だ。


 鞘から剣を引き抜き、柄から剣先へ満遍なく魔力を巡らせていく。おそらく通常の生物とは異なるだろう水竜に、普通の物理攻撃が通じるとは思えない。水から生まれた竜への対処として、蒸発させられるだけの熱を持つ炎を剣へ纏わせた。

 これが俺の得意技の一つだった。ヴェリター家の者に魔法を師事していたおかげで扱えるようになった、魔法と剣の合わせ技。魔力の伝播に耐えられる剣も、サルース兄様に頼んで仕入れて頂いた一点物だ。

 俺は自身の境遇を幸運だとは思っていない。むしろ逆で、それこそ呪われているのではと思う程だったが、生まれそのものや、俺の味方となってくれる者達には恵まれていた。そうした味方達の思いに応えるべく編み出した魔法剣は、たとえ超常の存在だろうと断ち切ってくれる。そう信じられるほどの優れた性能だと、編み出した俺自身が自負している。

 先手必勝、仕掛けられる前に地を蹴り、ゆらゆらと宙を漂う水竜の一体へと剣を振り下ろした。剣での攻撃など、本来は物ともしないのだろう。避ける素振りすら見せず余裕の態度で受けた竜は真っ二つに裂け、纏わりつく炎に飲まれると蒸発するように消えていった。

「よしっ、通じる!」

 この魔法剣が通じないようなら、さっさと撤退するつもりだった。この洞窟に逃げ場があるのかは不明だが、泉から離れれば撒くぐらいは出来るだろうから。

 残りは四体。未だ宙に浮いてこちらを見下ろしてくる竜達へ、俺は炎が燃え盛る剣を向けて言い放った。

「みんなの思いが集まって成したこの魔法剣、そうそう破られるものじゃないんだ!」

 しかし一度この威力を目の当たりにしたからなのか、水竜達は警戒を露にし懐に入り込ませないよう動き始めた。四方へ散開した竜達はそれぞれ高い位置から水のブレスを撃ってくる。距離があったおかげで危なげなく回避したが、ブレスが当たった地面は大きく抉られていた。

 無防備に直撃すれば怪我では済まないかもしれない。けれど当たらなければ良い。剣を持っていない左手を掲げて、別の魔法を発動する。

 薄い水の膜を全身に纏う、水神の加護を受けた者だけが使えるという防御魔法。物理攻撃に類するものは全て、水のバリアによって流すように軌道を逸らしてしまえる優秀な魔法だ。竜達のブレスは物理攻撃に近い性質と見てこの魔法を選んだのだが、直後にまた、あの声が響いた。


【その魔法は……】


 おそらくクリスタルの中に封じられているだろう存在が、俺の魔法に反応を見せた。ちらりと視線を声のした方へ向けるが、すぐにまたブレスの応酬が迫っていたため回避に専念する。避けながらも少しずつ立ち位置を変えていき、クリスタルを背にする場所まで移動してきた。

「俺の魔法に何か気になる事でも?」

 剣を構えたまま、背後に浮かぶクリスタルへ向けて問い掛ける。対話を試みる為に場所を変えたが、ここは文字通り背水の陣となる。後ろは透き通っているのに底の見えない大きな泉。落とされないよう前方への警戒を怠る事なく、返答を待った。


【何故その魔法を使える?】


 俺の問いに答えもせず、更に問い返された。何故と聞かれても、気付いたら使えるようになっていた…としか答えようがなく、俺は返答に困ってしまう。

 そんな会話の最中にも間髪入れず襲い来るブレスを、今度は剣で弾き返していく。地面を穿つほどの威力に腕が痺れそうになるが、炎と同時に水のバリアを纏わせた剣によって、ブレスは斬った端から飛沫となり炎に炙られて蒸発していく。辺りには大量の白い水蒸気が立ち込めていた。

「同じような魔法なら、俺の母様も使えたぞ?」

 剣を扱える人ではなかったが、魔道士団の中で模擬戦を行ったり、手本として水神の秘術を披露する事もあった。幼い頃からそうした姿を見ていたせいで、この魔法が特別だとは思った事も無い。

 だが聞こえてきた声は、抑揚は無いが驚いているように感じられた。無自覚に行使していたが、そんなに特殊な魔法なのだろうか?

「あっ、やば!」

 ほんの僅かに気を散らした瞬間、残る四体の竜達は一斉に、その身に水流を纏って突進してくる。まるで合体でもしたかのような連携の取れた動きに、咄嗟に剣を盾として受け止めるも、俺の身体は宙に弾き飛ばされる。

「くっそ!」

 空中という安定しない状況のまま、身体を捻り追撃をかわす。竜達の胴体を足場代わりにして跳び回り体勢を整え、反撃する為の魔力を剣へと込めた。注ぎ込む魔力を徐々に増やしていき、今まで以上に大きな火炎を纏わせ振り下ろす。

「爆ぜろっ!」

 振り下ろした切っ先から放たれる炎の斬撃は一体の竜を切断し、勢いを失わず広がっていく炎が、残る三体の竜達を一纏めに捕らえる。自由を奪ってから体表を覆う水のバリアを焼くように、さらに魔力を込めた。

 ジリジリと燃やされて蒸発する水。その様子を目の当たりにして確信した。これでもうあの竜達に身を守る術はない。そして蒸発という自然現象から、竜を一撃で吹き飛ばす捨て身の方法を思いついてしまう。

 三体の竜を丸ごと飲み込めるほどの巨大な火炎球を作り、その上部から更に炎を纏わせた剣を大きく振り被った。

「これで、終わりだ!」

 視線の先には巨大な火の玉と、その下には魔力を含んだ大量の水。それらが衝突すれば、とてつもない爆発が起こるはず。タイミングを間違えれば俺自身も無事では済まないのも覚悟の上で、剣を振り下ろし火炎球を水面へ向けて叩き落とす。

 咄嗟に結界魔法を発動させたが、俺の意識はそこで途切れる事になった。




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