0078
それぞれの場所で報告を終えた一同はゆるやかに解散し、自室へ戻ったルティウスも出発を翌日に控えて準備をしていた。
マーカン一家から贈られた剣と、兄から授かった剣を鞘から抜き両手に構えてみる。重さも柄の握り心地も違いはほとんど感じられず、軽く振ってみても違和感を覚える事すら無い。
そうして剣の感触を確かめていた時、やはりノックも何も無しにレヴィが部屋へと入って来る。
「ねぇ、そろそろノックくらい覚えてよ⋯」
「必要があるか?お前も、私が近付けば分かるだろう」
「それはそうだけど⋯」
実際、レヴィが扉の前に立った時点で気付いていた。彼が竜だからなのか感じ取れる魔力は独特で、雑踏の中に紛れても見つけ出せる自信が湧いてくるほど。
しかし気付ける事と、最低限のマナーは別の話である。
溜め息を吐きながら握っていた二本の剣を鞘に納めて、扉を閉めるレヴィへ向いたままベッドの端に腰を下ろした。
「で?何しに来たんだよ?」
部屋の中に入ってきたレヴィは、金色の瞳をある一点へと向けている。明日から着る事が決まりハンガーに掛けられた、あの白い服をじっと見つめていた。
「かなり緻密な魔法が付与されているな」
「分かるの?」
「あぁ」
しかしレヴィからすれば、まだ足りない。初めて目にした時から分かっていた事で、機会があれば⋯と考え続けていた。
「ここへさらに、付与を足しておく」
手を掲げ、掛けられた服へと魔力を注いでいく。首元の聖石がかなり明るく輝いており、相当な魔力を必要とする付与なのだとルティウスも悟った。
「どんな魔法を追加してるんだ?」
「大したものではない」
「いや、大したものなんじゃないの?聖石めっちゃ光ってるけど?」
「だが今のお前なら、それほどの消費には感じないだろう」
「そういう問題じゃなくてさ…」
レヴィがそうするべきと判断しているのだから、魔力の消費を気にしてはいない。ルティウスが気にしているのは、どれほどの強力な魔法が付与されているかという事。過保護な竜神が本気を出してしまえば、自分が着るには勿体ない程の強力過ぎる魔法が重ね掛けされるのは間違いない。
「なぁ…付与の効果は、教えてくれないのか?」
「私が掛けているのは、攻撃魔法の反射と物理攻撃の耐性、それから耐熱耐寒に、魔力消費の軽減程度だ」
「程度って…」
やはりレヴィは過保護だ…。
徹底的にルティウスを守護する服へと変えられていく様をただ眺めながら、持ち主本人はついに言葉を失う。そこまでしなくてもと思うが、それもまた想われているが故だと半ば諦めの心境に至ってしまう。
「ちなみにさ、元から付与されていた魔法ってどんなものなんだ?」
「知りたいか?」
ちらりと視線だけ振り返ったレヴィは微笑んでいる。あの顔は全てを知った上で、きっちり重複しない魔法を選択している…そうルティウスに悟らせた。
「そりゃ知りたいよ…」
ルティウスが考えた通り、レヴィは全ての魔法効果を把握している。子を想う母ならではの魔法が、上着だけではなく随所に散りばめられていた。
「魔力制御を覚えれば、視えるようになるさ」
「えぇ~⋯それって、いつになるんだよ?ていうか教えてはくれないのかよ?」
「お前の母親の想いを、私が語ってしまって良いのか?」
「⋯⋯⋯⋯」
不敵に笑いながら言っているが、その声はとても優しい。教えろと詰め寄られたなら答える気はある。しかしこれは、ルティウス自身に気付かせたかった。どれだけ母親から愛されていたのかという事実に⋯。
「分かった。自分で見抜けるように頑張るよ」
「そうするといい」
やがてレヴィによる魔法付与も終わり、首元の聖石から放たれていた光も消える。
「こちらの大陸はそれなりに温暖な気候だが、西はかなり気温が下がる。心しておけ」
「そうなの?」
「ああ」
そもそも季節は秋の終わり頃で、日々気温が下がる時期ではあった。帝国で暮らしていた最後の数日は、特に風が冷たかったのを覚えている。
「寒いの、あんまり得意じゃないんだよなぁ」
「そう思って耐寒効果を付与している。病にでも掛かられたら面倒だ」
「その辺りは平気だよ。俺、昔から身体だけは丈夫だからさ」
実際、本格的に体調を崩した事は覚えている限りほとんど無い。しかしレヴィがそんな言葉で引いてくれるはずはなかった。
「駄目だ。どんなに魔力が強かろうとも、お前は人間なんだ」
「過保護だなぁ、ホント」
「私を過保護にさせているのは、ルティだろう」
「えぇ~?」
不服そうに返しても、自覚があるだけに反論は出来ない。レヴィには何度も心配を掛けさせているのだから、過保護になったのは確かに自分が原因だろう。けれど素直に認めてしまうのは悔しかった。




