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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第七話

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0075

「そっちも一段落着いたなら、今度は俺からだな」

 店は良いのかと問いたくなるが、マーカンもまた見慣れた豪快な笑顔を浮かべて口を開く。その手には、何が入っているのか細長い包みが握られていた。

「マーカンさん、それは?」

 彼は宝飾品の職人と聞いていた。しかし持っている物は宝飾品とは思えないほどの大きさで、だからこそ中身の想像がつかない。テーブルの上に置かれると、固く重々しい音を鳴らしていた。

「俺からの餞別なんだがな、まぁ手掛けたのは俺の娘婿⋯ニナの父親だ」

「これを、俺に⋯?」

 静かに首肯され、差し出された細長い包みを開けていく。中から姿を現したのは、既にルティウスが所持している物と似たデザインの剣だった。

「えっ、これ⋯」

 柄を握ってみても、元から持っている物とあまり変わらない感触で驚く。手に馴染む重さと握り心地に感嘆の息を漏らすルティウスの反応に、マーカンも満足そうに笑っていた。

「坊ちゃんが昏睡してる間にな、ちょっとばかし剣を借りてよ?鍛冶師をしている俺の娘婿に造らせてたんだ。装飾は俺が、鞘やベルトの辺りは娘が手掛けたんだぜ」

「凄い⋯でも、何で俺にここまで?」

 剣を貰えるのはとても有難い。レヴィとの特訓の際に試した双剣は思いの外しっくりきていた。今後もこのスタイルを昇華させていきたいと考えても、都度魔法で創り出すのは面倒だと考え諦めていたから。

「そこの元団長さんに相談されてよ?坊ちゃんの為にもう一本の剣がありゃあなって⋯」

「⋯叔父様」

「それに坊ちゃんと隣の兄さんは、ベラニスを救った英雄なんだ。このくらいの褒美を贈ったってまだ足りねえくらいだぜ?」

 装飾に使われている素材も、魔力伝播に優れたあの希少金属が多いのだと見るだけでわかる。兄から貰った剣よりも優れている可能性さえあり、総合的な価値を考えて受け取るのを躊躇ってしまう。

 金を持っていない訳では無いが、ここまでの品となれば話が変わってくる。しかしマーカンは変わらぬ笑顔で言い切った。

「ま、事の発端は領主様なんだけどな?ベラニスを守ってくれた感謝の気持ちだ、貰ってやってくれ!」

 話を振られたテラピアもまた、その手に何かの包みを抱えている。

「やっとこれを、殿下にお渡し出来ます」

 両手で丁寧に差し出された包みを受け取り、中身を確かめる。そこにあったのは、ルティウスが普段着ているものに似た形の白い服。

「サリア様から、託されていた物です」

 わざと選ぶ事の無かった白い色。亡き母から託されていたと聞いて、両手で持ち上げたコートをじっと見つめる。効果は分からずとも、随所から懐かしい魔力を感じる気がした。

「修繕させて頂いた暗いお色の御召物は、帝国の第三皇子の象徴として広く知られております。これから先の旅路では、こちらに替えられた方がよろしいかと」

 

 本当に、良いのだろうか。

 まだ母の無念を晴らせた訳ではない。仇も討てていない。それなのに、こんな明るい色の服を纏って⋯許されるのか⋯。


「ルティ」

 隣に立つ竜神に名を呼ばれて、視線を向ける。相変わらず頭を撫でながら、彼は言った。

「自分の望む通りにすればいい。お前の母親もそう願うからこそ、それを託したのだろう?」

 一体何を思い悩んでいたのか、レヴィには筒抜けのようだった。暗い色の服を着続けていた理由も、きっと気付かれている。

「テラピア」

「はっ、はいっ!」

「ルティがこちらを選んだ場合、直させた元の服はここで預かれるか?」

「もちろんです!凱旋の際にお立ち寄り頂ければ、その際にお返し致しますよ!」

 いつの間にかレヴィがテラピアと取り決めを交わしている。

 本当はどちらにするかなど、決まっている。濃暗色の服を着続けていたのは、仇討ちを果たすまでは喪に伏すつもりでいたから。けれど許されるのなら、この白い服を着たい。

「ルティ、上着だけでも袖を通してみればいい」

 背中を押すようにレヴィが促す。

 幼い頃、繰り返し布を宛てがわれ仕立てについて議論していた時、ルティウスは幾度も母から言われていた。


――深い緋色の髪にはやはり、透き通るような白が合う――


 この服を着る事を誰よりも母が望んでいたのなら、遺された子の自分が拒絶する訳にはいかない。

「テラピア、ありがとう」

「⋯えっ?」

「母様の想いを、守ってくれていたんだよな」

 何年も前に託されていただろう服の上着。留めているボタンを外し、さっと袖を通して緩く羽織った。ただそれだけなのに、まるで何年も着ていたかのようにしっくりくる。

「ルティ君、似合ってるよ!」

「明るい色を着ていると、ますます姉さんぽいじゃないか」

 フィデスとリーベルも感想を述べる。これだけ好印象なら、違和感は無いのだろう。

「どうかな、レヴィ⋯?」

「⋯良く似合っている」

 僅かな間を置いてレヴィも答えた。


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