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竜と神のヴェスティギア【過去編同時連載中】  作者: 絢乃
第七話

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 そして二人は笑い合いながら、他の仲間達が控えているいつもの広間へと向かう。部屋から追い出す形になり経緯の説明をしていない。フィデスは事態を把握しているようだが、リーベルは打ち明けなければ納得しないだろう。

「オストラの事だけは伏せろ。ベラニスの民にとって、奴の存在は脅威の象徴のようなものだ」

「分かってる」

 廊下を歩きながらレヴィから発せられた一言に、ルティウスも首肯する。全盛期の力を振るった訳ではなくともあれだけの被害を齎した元凶の事は、本当に必要となる時まで知らせるべきではない。

「俺が叔父様とテラピアに話すから、レヴィはフィデスを連れ出して伝えてくれるかな?」

「⋯妥当だろうな。フィデスはあれで勘が鋭い。ボロを出す前に釘を刺しておく」

「任せた」


 そして辿り着いた広間の扉を開けると、視界に映るのは思っていたよりも多い人の数。

「⋯えっと、どちら様?」

 広間に集うのは、家主であるテラピア。宿泊しているリーベルにフィデス。さらにルティウスが昏睡から目覚めたとの一報を受け、店を放って飛んできたというマーカン。

 そしてもう二人。リーベルの後ろで騎士のように立つ、年若い男性の姿。

「ご挨拶が遅れましたね、俺はファムといいます」

「僕はミレーです。でん⋯⋯⋯えっと、ルティウスさんの事は団長から何度も聞いてます」

「⋯あ、その腕章!自警団の?」

 何度か見かけた覚えはあっても、こうして名乗られるのは初めてだった。ベラニスを訪れてすぐの時にも確か会っていたはず⋯記憶を辿るように腕組みをしていたルティウスは、はっとしてその事実に気付く。

「ミレーさん、だっけ?今、俺の事を殿下って呼びそうにならなかった?」

 自分が皇子だという事実は、ベラニスでは隠し続けている。知っているのはそれこそ、この屋敷に集う者達だけ。リーベルから伝えられたのかもしれないが、あの叔父が部下とはいえ軽率に秘密を漏らすとも思えない。

「えっと、僕はですね⋯もう廃嫡されてますが、アートルの五男⋯と言えばご理解頂けるかと」

「アートル卿の?」

 騎士団の長として帝国を守る要であり、幼い頃から剣を教わった恩師その人でもあるアートル公爵。彼は多くの子宝に恵まれたため、息子が数名いる事も当然知っている。だが廃嫡された子がベラニスにいるとは思ってもいなかった。

「僕は廃嫡の後、国を出ました。その後リーベルさんに拾われて、こうしてベラニス自警団に」

「一体どうして、廃嫡なんて…アートル卿が子供を捨てるとは思えないけど⋯」

 国を、そして家族を何よりも愛していたあの騎士団長が、末の子とはいえ廃嫡などあり得ない。厳しくも優しいアートル騎士団長の人となりを知るだけに、信じられない思いだった。そして理由を問うだけの権限を、皇族であるルティウスは有している。

「殿下が気に病まれるのは尤もです。ですが僕が国を出たのは僕の意思で、父はそれを許してくれただけです」

「貴方の…意思?」

 柔らかく笑ったミレーが静かに首肯し、帝国を捨てた理由を語る。

「僕は気付いていました。貴方の兄君…ラディクス殿下が帝国を乱している事を。そしてお命を狙われるルティウス殿下がいずれ国を出るだろうという事も。なので僕は、いつかの時のために父へ願い出ました。僕を廃嫡し、帝国から追い出してくれと」

 いつ来るとも知れない未来のために、ミレーは帝国を出てこのベラニスを守る道を選んだ。彼の決断にも、亡き母の想いが関与しているのかと考えてしまうが、尋ねる事は出来なかった。

「⋯あらかた話し終えたな?俺がルティウスに同行出来るのも、ここにいるミレーとファムが二人で団長とその補佐をしてくれるからなんだ」

 話を引き取ったリーベルが顛末を告げる。

 ファムについては、帝国ではなくヴェネトス出身の孤児で、幼い頃にリーベルが引き取ったのだと説明された。養子として育てられた彼は、当然ながらリーベルから全幅の信頼を置かれており団長を務めるのもファムだと明かされる。

 ルティウスの素性を知りながらも、身元を明かせない事情と帝国の内情とを鑑みて適切な判断を下せる有能な二人。話を聞けば聞くほど、この街を安心して任せられる器なのだと知れる。

「団長⋯いや、リーベルさんを頼みますね殿下。この人、目を離すとすぐ酒ばっかりなので、飲み過ぎてたら厳しく叱ってやって下さい」

「⋯ははは、善処するよ」

 呆れた声で念を押すファムの一言に、ルティウスも苦笑するしかない。初めて会ったあの夜も、確かにかなりの量を呑んでいた。ルティウスが叱らなくても、きっとレヴィが目を光らせるだろう。そう考えて隣に立つ保護者を見上げれば、鋭い目でリーベルを睨み付けていた。

「ルティに悪影響を及ぼす言動は、私が止める」

 言いながら左手に魔力を込めるレヴィを見て、リーベルはそっと視線を逸らしていた。


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