0067
怒りで感情が昂ったまま、眠れない身体を動かしたくて出てきた深夜の中庭。そこで起きた惨事の名残は、ルティウス本人の精神だけではなく肉体にも多大な影響を及ぼしていた。
「⋯痛っ、!」
一体いつまでが自分の意図で動いていたかは、既に分からない。ゴーレムを一度薙ぎ払ったところまでははっきり覚えている。しかしその先は、何故か他人事のように感じていたから。
自分の意思とは全く違う行動を取っている事を、ルティウスは正しく認識している。そして肉体が受けるはずの痛みは意識へと直接響くように四肢を巡り、穿たれた両手足が悲鳴を上げていた。
目の前で対峙するレヴィとフィデスは驚愕の表情を浮かべていたが、すぐにも冷静さを取り戻し的確な対処を選んでいるのだろうと予想出来る。その証拠に、彼らはそれほど焦った様子を見せていない。
自分自身が行ったとは思えないほどに、周囲は酷い有様となっている。竜神達による結界が無ければ、庭はおろか建物ごと燃え落ちていたかもしれない。現在の家主であるテラピアへどう謝罪すれば許されるか⋯肉体から伝わる激痛に苦しみながらも、思考だけはどうしてか冴えてしまっている。
思案しながら中庭の一帯を見回していたルティウスの瞳が、その姿を捉えたのは直後の事。
「レヴィ⋯え、嘘だろ⋯?」
蒼白い輝きを纏う美しい槍はその様相を変え、真っ白な光の塊となっていた。高濃度の魔力を凝縮した輝きを握り締めるレヴィは、真っ直ぐにルティウスを見て狙いを定めている。彼が自分を害する事など無いと分かっていても、その光景はルティウスの心に恐怖を与えた。
「なん、で⋯?」
頭では信じていても、本能的な恐れが湧き出して止まらない。どうにか回避を⋯と考えれば、連動して身体はもがき続け、動けば貫かれた手足の傷が広がり裂かれるような激痛を放つ。
「っあ、あぁ⋯!」
どんなに暴れても、四肢を貫く岩の棘は砕けず抜けもしない。フィデスの力で形成されたそれは、ルティウスの身動きを封じようと魔力を放ち続けている。肉体から意識へと届く苦痛のせいで、息をするのも苦しく感じていた。
「レ、ヴィ……」
耳元で結界の剥がれ落ちる音が聞こえ、同時にレヴィが地面を蹴る姿が視界に映った。
殺される⋯?
いや、違う。
レヴィが俺を傷付けようとするはずが無い。
きっとこれは、レヴィが下した最適な判断⋯。
だってその証拠に、冷静なはずの彼の表情はとても切迫していて、これしか方法が無いって言ってるようなものだから。
迫り来る白い輝きは、ルティウスの胸を真っ直ぐに、迷いなく貫いた。けれど手足のように痛みが伝わる事はない。溢れ出していた魔力が次第に身体の内へと戻っていくのを感じ、それが攻撃ではない事をすぐに察していた。
「⋯何で、あんたの方が辛そうな顔、してんだよ⋯?」
レヴィが何を狙って槍を刺してきたのかは分からない。さらに薄くなっていく意識の中で、悲しげな眼差しを向けてくるレヴィへ声を掛けたくても、言葉は一つとして音にはならなかった。せめて⋯と微笑みかけたつもりだが、彼に届いたかは分からないまま完全に意識は途絶えていた。




