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竜と神のヴェスティギア【過去編同時連載中】  作者: 絢乃
第六話

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 港から領主邸まではそれなりの距離があるにも関わらず、急ぎ足で移動したからか僅かな時間で辿り着く事が出来た。門を抜けて敷地内へ入れば、もう姿を隠す必要も無い。借りていた上着を返しエントランスへ続く扉まで来たところで、二人を出迎えるフィデスに遭遇した。

「ただいま!マーカンさん、まだいる?」

「おかえりぃ。おっちゃん達なら、中庭で遊んでるよ~」

「ありがとうっ!」

 簡単なやり取りをしながらも、レヴィの手を引いて建物の中を通り抜けて行く。もしも既に屋敷から帰ってしまっていたら⋯と不安になったが、彼らはまだ居残ってくれていたようだ。急ぎ中庭へ向かうと、ルティウス達の帰還に気付いたマーカンが手を挙げて笑顔を浮かべてくれた。

「お~う、坊ちゃん、帰ったか~」

「マーカンさん、まだ居てくれて良かったです!」

 軽い挨拶の後、マーカンが視線を動かす。中庭の端に彩を与える花壇の傍で、使用人の男性と花の世話を手伝っているニナの姿があった。

「レヴィ、あの子だよ。覚えてる?」

「⋯⋯正直、姿まではあまり」

 それもそうかと思う。生きるか死ぬかの刹那に、ほんの一瞬だけ視認した人の容姿をしっかり覚えていられる方が不思議である。

 二人の話し声に気付いたのか、花壇の前でしゃがみ込んでいたニナがぱっと後ろへ振り返る。ルティウスの隣に立ち白い衣を纏うレヴィの姿を見たニナは、やはりあの一言を声高に叫んだ。

「あっ!あの時の白いおじさん!」

「⋯⋯⋯⋯⋯は?」

 成り行きを見守ろうと中庭へ来た瞬間らしいフィデスの笑い声が、遠くから聞こえる。

 レヴィが救った命は、こうして元気に過ごせているのだと知らせるには、あまりにも十分すぎた。


***


「白い⋯⋯おじさん⋯⋯あっははははは!」

 中庭に響き渡る少女の笑い声と、滲み出る殺気。

「ルティ、悪いな⋯⋯やはりこいつは始末する必要がありそうだ」

 聖石が輝き、魔力を溜めようとするレヴィ。ようやくいつもの光景が戻ってきたように思えて嬉しかったが、まずは怒りに染まるレヴィを止めるべきだった。このままでは本当にフィデスが消されかねない。

 根源との接続を経て、ルティウスの魔に関わる能力は大きく向上していた。人間とは思えないほどの膨大な魔力量と、それをかなりの精度で操れる力は繊細な操作をも可能にし、ついには聖石へ流れる力のコントロールも出来るようになっていた。

「⋯はい、そこまで。ニナが怖がっちゃうだろ?」

 聖石を身体から離した訳でもない。けれど魔力の供給が絶たれ、レヴィはその場に固まる。じろりと睨みながら振り返るが、怯むどころかルティウスは平然としている。

「⋯聖石への流れを遮断したのか」

「うん。なんかさ⋯あれから魔力の使い方が前よりも分かるようになったんだよね⋯」

 不思議そうに自身の手を見つめるルティウスだが、どれだけの異常であるかなど本人は気付いてもいない。聖石への力の操作は、それこそ『神を冠する者』以外には不可能だからだ。

「⋯⋯⋯⋯」

「って、それよりも!」

 思い出したように声を上げて、ルティウスはニナの傍へと駆け寄る。少女が会いたがっていた者を連れてきたのだ、きちんと引き合わせてあげたい⋯その一心で手を差し出し、そっと握り返してきたニナの手を引いてレヴィの眼前へと連れていく。

「ほら、ニナ?この人が、君を助けてくれたんだよな?」

 恐る恐る見上げるニナの視線の先では、未だ怪訝な表情を浮かべているレヴィが立っていた。鋭い金色の眼差しが少女を捉えると、どこか怯え気味だった少女は高らかに声を上げる。

「うん、ニナを助けてくれたの、この白いおじさん!」

 大きな瞳を煌めかせて見上げる少女の純粋な視線に、レヴィは少しだけ狼狽える。遠くでは、やはり爆笑しているフィデスの死にそうな声が響いていた。

「あのね、助けてくれて、ありがとう!」

 真っ直ぐに感謝の気持ちを伝えるニナを見下ろすレヴィは、その場でゆっくりと膝を曲げ姿勢を低めていく。幼い少女と目線を合わせて、大きな白い手でニナの頭を撫でながら微笑んだ。

「無事なら、良かった」

 そこに先程までの殺気は無い。頭を撫でられたニナも喜び、祖父であるマーカンへ振り返る。とても暖かい空気に包まれる中庭の光景だが、再び立ち上がったレヴィはやはり、本気で怒っていた。

「⋯⋯さて、フィデスよ⋯⋯何がそんなに可笑しいのか、答えてもらおうか?」

「⋯え?いや、だって⋯おじさんて⋯⋯⋯」

 あの温厚なレヴィの額に、青筋が浮かんでいるように見えたのは、おそらく気のせいではないだろう。巻き込まれてしまわないようニナをマーカンの元へ送り届けて、ここから離れるように視線で訴える。鬼気迫るものを感じ取ったのか、無言で頷いたマーカンはニナを連れて屋敷を後にした。

 その場に残ったのは竜神達と、見守るルティウスとテラピアの四人だけ。


 その日、ベラニスの街中に『領主邸で謎の爆発事件』という一報が飛び交ったのは言うまでもない。



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