0055
大柄なマーカンの服の裾を掴んで、何かを探すように辺りを見回している少女。既に予想はついているが、ルティウスはあえて尋ねる。
「あの、その子は⋯?」
「この子は俺の孫のニナ。あん時坊ちゃんと一緒に居た兄さんが、ニナの命を救ってくれたそうでな」
ルティウスの中で話が繋がった。マーカンが孫娘のニナを伴って訪れたのは、彼女を助けたレヴィへ感謝を伝えるため。そしてレヴィの怪我は、彼女を守るために負ってしまったもの。
血塗れのレヴィを見て憤慨こそしたものの、経緯を知ればあまりにも誇らしくなり、ルティウスは自然と笑みを浮かべていた。
「あーっはっはっは⋯っ、くくくく⋯白い⋯おじ⋯さん⋯あははははは⋯」
誇らしくも暖かな気持ちをぶち壊すように、フィデスの爆笑する声が辺りに響き渡る。ルティウスもまた同じで、今はどうにか抑え込んでいるものの、それは必死に『気にしない』ように我慢していたからだ。ほんの些細なきっかけで一度でも瓦解してしまえば、笑いの箍は容易に外れてしまう。
「⋯おじさん⋯⋯レヴィが⋯おじさん⋯くくくくく」
「ルティ君⋯だめ、繰り返さないで⋯⋯笑い死ぬぅ⋯ふふふふふ」
腹を抱えて笑うフィデスを見て、種を投下したニナ本人はきょとんとした表情で首を傾げていた。
変わらない微笑みのテラピアは、笑い転げる二人を放ってマーカンへと向き直る。彼がここを訪れた理由が、孫娘の礼だけではないと知っていたから。
「マーカンさん、依頼しておりました物が、仕上がったのですね?」
少しだけ真面目な声で問う。僅かに変わった雰囲気に、ようやく笑いが収まりつつあるルティウスも視線を向ける。
「おうよ!俺の娘⋯ニナの母親なんだけどな、あいつがバッチリ仕上げてくれたぜ!」
相変わらず豪快な声で応えるマーカンが、手に持っていた包みを、依頼主のテラピアではなくルティウスへと差し出した。
「⋯え、俺?」
「そうだぞ」
「テラピアじゃなくて?」
戸惑いながらも渡された包みを受け取り、確かめるようにマーカンを見る。無言のまま頷かれたので、今度はテラピアへ向く。彼女もやはり、無言で頷いた。
ティーセットが並んでいたテーブルの端で、渡された包みを丁寧に開けていく。中身がちらりと見えた時点で、そこにある物の正体にすぐに気付いた。
「え⋯うそだろ?」
中に入っていたのは、まるで新品同様に修復された、元着ていた服の一式。リーベルとの手合わせで破れ、捨てるしかないと諦めていたそれが、綺麗に直されて戻ってきた。
「何で、コレ⋯」
「レヴィ様が、お命じになられたのです。直せ、と」
屋敷の脱衣場で、レヴィによって奪うように回収されていった事を思い出す。あれからどうなったのかは知らされてもいない。ルティウス本人は諦めるつもりでいた物が、まさか手元に帰ってくるとは思ってもいなかった。
畳まれている見慣れたコートを持ち上げ、全容を確かめるように広げていく。上から下まで視線を巡らせた直後、ルティウスはその場から駆け出していた。まだベラニスが安全とは言いきれない状況なのも忘れて、身分を誤魔化す変装もせず街へと飛び出していく。




