表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第六話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/170

0053

 ベラニスの街を脅かしていた海竜オストラとの激戦から五日。船の運航に支障が出るほど荒れていたカレント大河は、元の穏やかな流れを取り戻していた。

 戦闘によって壊滅的な被害を受けた港と周辺の建物は、現在も再建や道の整備など、復旧作業が続けられている。

 運悪く足止めを食わされた商人や旅人は凄惨な光景に紛糾したが、テラピアが声を上げた事で誰もが怒りを鎮めていく。それでも尚不満を露わにする者達への対応は、腕利きが集う自警団が受け持ち治安の悪化は防がれていた。

 戦闘から僅か二日後には、領主の声明として『海竜による襲撃』の事実は大々的に民衆へと報じられていた。


【過去にベラニスを滅ぼさんとした海竜が再来し、神話や伝説として語られる史実と同じく、水の竜神によって今度こそ撃破され恒久的な平和が齎されたのだ】と。


 中立を謳い続けるベラニスの街は、水の神に二度も救われた⋯そう強調して伝える領主とは、次期領主と名乗っていたはずのテラピアだった。

「まさか⋯君が今の領主だったなんてね⋯」

「本当の事を言えなくて申し訳ありませんでした」

 彼女は、つい最近までは本当に『次期領主』だった。けれど前領主が不慮の死を遂げた為、跡継ぎであるテラピアが領主代行となり、ルティウス来訪の数日前から動いていたのだと後から聞かされた。

 ルティウス達と出会ったのは、そんな慣れない公務の最中に起きた、住民と来訪者の揉め事を仲裁しようと奮闘していた矢先の事だった。


 穏やかな昼下がり。領主邸のテラスで寛ぐルティウスの元へ、ベラニスの現状を伝えるべく多忙なはずのテラピアが訪れていた。にこやかに微笑んでいるものの、その顔には疲労の色が滲んでいる。

「⋯かなり疲れているみたいだね、テラピア」

「えぇ、多少は⋯⋯ですが!建物や施設の被害は甚大でしたが、人的被害が皆無だった事が救いです。人さえ無事なら、街はいくらでも建て直せますから!」

 そう語るテラピアが訪れたのは報告と、束の間の休憩も兼ねていた。尊敬するサリアの子であるルティウスと話すのは楽しく、時折時間を忘れてしまい呆れ顔の秘書に連行されていく事も多い。そんな様子は、どこか上の兄サルースを思い出させる。懐かしさを覚えつつもルティウスは、笑いながらいつも彼女を送り出していた。

 海竜による大河への影響が払われた事で、渡し船の運航再開も近い。だがそのための港が崩壊しているため、ルティウス達は現在足止めを食らっている。その状況を理解しているからこそ、テラピアは復興の為に領主として奔走を続けている。彼女の秘書が心を鬼にして領主を働かせるのは、願いを叶えさせる為でもあるのだ。

 そんな中でも屋敷へ戻ってこれたのは、本当に一段落付いたという事なのだろう。テーブルの上に並べられた紅茶とケーキを口に運びながら、テラピアは控えめにルティウスへと問い掛けた。

「そういえば、レヴィ様は⋯?」

「あぁ、うん。また、あそこに⋯」

 あれから、レヴィは珍しくルティウスの傍を離れている事が多い。思うところでもあるのか、毎日のように港へ足を運んでいる。その理由を語ろうとはしないが、どこか寂し気な後ろ姿を見送る度に、オストラを倒した直後の光景が脳裏を過った。


 雲一つない晴天から降り注ぐ雨に打たれ、全身ずぶ濡れになりながら空を見上げ続けていた水の竜神。見事に海竜を仕留めたレヴィの元へ駆け寄ろうとしたが、その足は直前で止まってしまった。

 意を決して名を呼ぶと、彼は普段と変わらない笑みを浮かべて振り返ってはくれた。だけどその笑顔は、いつもより悲しみを帯びているように見えて⋯。

 海竜オストラを『かつての同族』と告げたレヴィの言葉。その本当の意味を、直接尋ねる事は憚られた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ