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幼い頃から、俺は兄達に何がしかの憧れを抱いていた。
「ルティ、今日はお前のために立派な剣を用意してきたよ。ぜひ使っておくれ!」
戦う力は持たなくとも、頭が良く優しい上の兄、サルース。
少しばかり過保護で、俺の為にいつも色々な贈り物を用意してくれていた。時には身長に全く合わない大人用の剣を幼児の俺に贈ろうとするなど、どこかがズレている人。
だけど、弟として心から愛されている事は伝わり、素直に嬉しかった。
民衆からも好かれているのは、少し街を歩けば嫌というほど感じられた。弟としてとても誇らしく思える程の人格者で、もしも国政に関わるのであればサルース帝の治世で兄を支えたい。幼心にもそんな気持ちを抱かせてくれるような、立派な上の兄。
「ルティウス、今日こそ火炎魔法を覚えようか!私が教えてやろう!」
剣は得意じゃないが魔法が上手な下の兄、ラディクス。
教え方は厳しくとも、俺がきちんと覚えるまで何度でも、根気よく教えてくれた。あの頃はたくさんの話をしていた。
今の俺が水属性以外の魔法も幅広く扱えるのは、この時の教えが生きている可能性は十分にある。
第二皇子として生まれたラディクス兄様にとって、俺は唯一の下の兄弟。可愛がられていたという自覚は確かにあった。
二人に無いものをと思って、八歳になる頃から騎士団の本部へ紛れ込み、必死に頼み込んで剣術を習い始めた。手加減はされていただろうが、気付けば騎士団長と手合わせが出来る程に上達した。兄弟の中で一番、身体が丈夫だったから活かしたかったのもある。
でもいつからだっただろう。サルース兄様としか話さなくなったのは。魔法を教わっていたあの頃はまだ、三人で話す機会も多かったはず。ラディクス兄様と最後に会話をしたのはいつだった?
そうだ……母が殺される前までだ。
俺を守るために母様は死んだ。習い始めてほんの数年程度の剣の腕では大人に太刀打ち出来ず、魔法も上手く発動させられなかったあの頃。自衛の術も満足に無かった俺のせいで、母は殺されたのだ。
皇族の通例儀式よりも前から既に神の加護を受けていた、俺を妬むラディクス兄様の刺客によって。
あの日の記憶は決して消える事が無い。
忘れてしまいたくても、その光景は鮮明に焼き付いて離れない。
辺りに飛び散る赤い血の色と感触も、俺を守ろうと抱き締めていた腕から体温が失われていく恐怖も、全て…。
仮にも義母である第二皇妃の葬儀にさえ、ラディクス兄様は姿を見せなかった。そのため第二皇子を疑う声は皇都の貴族や関係者の間で止まなかった。けれど証拠は無く、下手人を捕らえる事も出来ないまま、もう八年が過ぎた。
あの時のように、容易く誰かの命を奪う暴挙に出ようと画策しているのなら、私兵を集めているのも合点がいく。皇位を求めての挙兵という事例は、帝国の歴史上で皆無という訳でもない。可能性は決して低くはないだろう。
ラディクス兄様は…あの男は、この国で王になる為という理由で戦を起こそうとしているのかもしれない。もしもそうだとしたら、俺が彼を止めなければいけない。争いを好まないサルース兄様には、血腥いものは見せたくない。だからこそ頼れない。
俺が、彼を…止めなくちゃ…。




