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竜と神のヴェスティギア【1000pv突破】  作者: 絢乃
第四話

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0036

 感情の見えない顔をしたレヴィを伴って屋敷の中へと戻るルティウスは、そのまま用意された自分の部屋へと向かった。一人で…のつもりが、やはりレヴィは一緒だ。

 長い槍は既に霧散し消失させている。消えていく様も不思議な光景で、まるで水蒸気のように空気中へ溶けていった。どういう魔法なのか尋ねてみると、単純に水を生成し氷のように固めただけだと、さも簡単な事のように答えられて苦笑いしか出なくなる。

 部屋へ戻っても、自身の状態を鑑みればどこかへ座る事も躊躇われてしまう。それこそレヴィに頼れば、室内の家具を汚さない程度に血を洗い流すくらいはしてくれたかもしれないが、機嫌の悪い今は断られる気もしていた。

 休む事も出来ずどうしようかと考えあぐねていた所で、部屋の外から扉を叩く小さな音が響く。控えめなそのノックは、ルティウスに朗報を届けた。

「ルティウス様、お着替えとお風呂の準備が整いましたので、どうぞお越し下さい」

 閉まったままの扉の向こうから聞こえたのは、朝食の案内をしてくれた執事の声。手配の為に動くテラピアを見送ってからそれ程の時間は経っていない。準備の速さに驚きつつも、本当に何から何まで世話になってしまっていると恐縮してしまうが、今は厚意に甘んじるしかなかった。

「私も行こう」

 そう言って何故か同行するレヴィと共に階下へ向かう。一礼する執事は大階段の下で待ち構えており、二人の姿を確認するとそのまま食堂とは反対の通路へと進んで行く。少しだけ歩いた先で執事が立ち止まり、傍らにある扉を指し示した。

「こちらが男性用の浴場となります」

「あ、ありがとうございます」

 慇懃な態度を崩す事なく執事は去っていき、その後ろ姿を見送ってから二人は浴場へと足を踏み入れた。

 扉の先には再び長くない通路があり、進むとすぐに脱衣場への扉があった。その間もやはり無言でレヴィは付いてきている。

 神様も風呂に入るのか…?と疑問に思うが、そもそも『水の竜神は水に濡れない』と言っていた事を思い出す。食事も摂る神なのだから、意思一つで自在であり風呂に入る事もあるのだろうと安易に考えていた。


 誰も居ない無人の脱衣場で、ボロボロになってしまったコートを脱いでいく。ルティウスとしてはとても大事にしていた気に入りの服だが、ついに駄目にしてしまった…と溜め息が零れるも、全ては己の非力が原因だと諦めた。

 その後ろでは、レヴィがじっとルティウスの方を見つめている。視線を感じて振り返り、思わず固まったのは言うまでもない。

「……なぁ、どうかしたか?」

「別に」

「何でそんなに……俺の事見てるの?」

「……名残惜しそうだな」

「あ、これ……?」

 レヴィの視線は、ルティウス本人よりもその手に持っている服へと向けられていた。

「名残惜しい……そうかもしれないな」

「理由があるのか?」

「……これさ、母様が用意してくれていた物なんだ」

 まだルティウスが幼い頃、生前の母が選んだ仕立て屋によって製作された服。成人したら着られるようにと大きめの寸法で作られた上着は、現在のルティウスでも少しだけ大きかったけれど。

 ただの服と割り切り、裂けてしまったからと捨てるのを躊躇う理由。それを語るルティウスの瞳は、かつての光景を懐かしむように優しい色を帯びていた。

「覚えてるんだ。この服を仕立てる為に、母様がいろんな布地を俺に宛がってた事。この色は髪と合わないだの、こっちの刺繍じゃ派手だのって。そのうち兄様達も混ざってきてさ、何年も先の俺の成人に合わせた礼服の為に大騒ぎ…あの時の俺、まだ四歳か五歳だったんだよ…?」

 今となってはあまりにも遠い過去。憂う事など何も無く、優しい母と、可愛がってくれる兄達に囲まれていた幸せな日々。そんな思い出の一つが、今まで着ていた服には詰まっている。

「楽しかったんだ…………とても……」

 あの日々は、もう二度と戻っては来ない。レヴィへと振り返り微笑むルティウスの眼差しには、悲しみが満ちていた。

「…………貸せ。そして全部脱げ」

「えっ?」

 確かにここは脱衣場。これから風呂に入るルティウスは服を脱いでいる途中だった。しかしレヴィは手を差し出し、唐突にルティウスを急かし始める。戸惑っていると、まるで射殺すような鋭い視線で睨まれてしまい、言われるがまま服を脱いでいく。すぐ傍にあった台の上へ無造作に積み上げた血塗れの衣服は、レヴィの手に掴まれて次々と回収されていった。

「え、ちょっと…それ、どうするんだよ…」

「お前は黙って風呂に入っていろ」

「えぇ…?一体なん…………わ、わかりました」

 行動の意図が全く解らず問おうとするが、さらに鋭く睨まれてしまい言う通りにするしかなくなる。剣士としてはかなり華奢な体つきの少年は、傍らに備えられていたタオルを手に取り浴場へと向かって行った。ブツブツと文句を言っているが、レヴィは聞こえないふりをした。

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