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竜と神のヴェスティギア【1000pv突破】  作者: 絢乃
第四話

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 理論ではまだ掴めていない叔父の放つ攻撃。けれど何度か見て、この身に受け続けたおかげで直感的な部分で掴みかけていた。

 手足の裂けた箇所がじりじりと痛みを発している。けれど回避しなければ、傷はさらに増える。どうにかして見抜かなければ受け止める事も出来ない。そうして叔父との間合いを一定の距離に保たせていたが、何故か叔父は立ち止まり、その場から長剣を振り下ろす。

 再び本能が叫んでいる。避けろ、と。

 長い剣から繰り出された衝撃波が俺に向かってくる。それは可視化されるほどに巨大で、空間の歪みを伴って飛んで来ている。ゆっくりと放たれた一撃目は難無く回避出来ても、避けた先へ次々とそれは飛来する。まずい…と思いながらも、繰り出される衝撃波の嵐は叔父から与えられたヒントのようにも思えた。

 本当は魔法は使いたくないけれど、そうも言っていられない。剣に、あまり得意ではない風の魔力を僅かに宿らせていく。普段使う魔法剣と同じ要領で叔父の動きを真似るように剣を振り下ろせば、彼が放ったものと同等の威力の刃を打ち出す事に成功した。

 向かい合う斬撃が空中で衝突し掻き消える。初めて相殺出来たと喜びたいところだが、この程度で勝利が見えるはずもない。コツは掴めても慣れていない属性による魔法の攻撃は連続で放てるものじゃない。先程より威力と数が増した叔父の猛攻を回避しようと跳躍した直後、ついに俺は深手を負わされてしまった。

「ッ、あぁ……!」

 避け切れなかった一撃が、左足の脹脛から腿にかけて大きく切り裂いた。辺りに血を飛び散らせながら、俺の身体は跳躍の勢いそのままに地面へと叩き付けられていた。

 早く立て…このまま諦める気か…!そう己を鼓舞しても、斬られた左足には力が入らない。剣を支えに気力を振り絞って立ち上がろうとしたところで、俺の鼻先に刃が突き付けられていた。

「ここまでだな。テラピアちゃん、頼むわ!」

「はい!お任せ下さい!」

 事実上の敗北を宣告され、俺は項垂れていた。こんなにも敵わないものなのかと。そうして気落ちしている俺の身体から焼けるような痛みが消えていったのはこの直後の事。

「え……?」

「あぁ、言ってなかったな。テラピアちゃんもまた神官。回復魔法は専門だ」

 視界に映っていた腕の傷に青白い光が集まっていく。その光が消えると何事も無かったかのように、裂けた皮膚は元通りになっていた。立ち上がる事すら困難な程の深手だった左足も、もう痛みは感じられない。

「すごい……動ける…」

「お役に立てたようで何よりです!あ、でも…傷は塞ぎましたが流れた血は戻りません。今は少しお休み下さいね」

 言いながらテラピアは叔父を睨んだ。

「リーベルさん、やり過ぎですよ!ほら……レヴィ様があんなに……」

 彼女の視線が、少し離れた位置にいる竜神コンビの方を向く。レヴィの纏っている殺気が尋常じゃない事になっていた。幸いな事に、今のレヴィは俺の魔力を使えない為、大惨事は未然に防がれていたけれど。

「ま、まぁ……うん、とりあえず身体を休めろ。海竜撃退はそれからだ」

「……って、え?待って、負けた俺は不合格って事なんじゃ……?」

 この手合わせが、海竜戦に挑むための試験だと勝手に思い込んでいた俺は面食らう。叔父は言い忘れてたわ~と頭を掻きながら、俺に教えてくれた。

「単純に俺がな、お前の成長を見たかっただけなんだよな。そしたらなかなか良い動きするもんだから、ちょっと調子に…」

「えぇえ…」

「それによ、少しだけ魔法に頼ったようだが、見様見真似で俺の攻撃を相殺出来るんだから、そんなヤツを戦線から外すなんて勿体ない事してられんよ」

 叔父はポンと俺の頭に手を置いて、今度しっかり教えてやるよ!と言ってくれた。負けはしたけれど、認めて貰えた事が嬉しくて自然と笑みが浮かぶ。

「あ、あとテラピアちゃん。手筈通り、こいつの着替えと…アレも用意しといてやってくれ」

「承りました!」

 明るい返事の後、テラピアは屋敷の中へと駆けていく。叔父の言葉に、俺は自身の姿を再確認した。傷は治っていても、裂かれた衣服は元通りとはいかない。血の汚れは洗い流せたとしても、あちこちの肌が露出していて再び着られるとは思えない程。こんな姿じゃ流石に街も歩けやしない。

「とりあえず、昼飯までは休んどけ?」

 言いながら叔父は長剣を鞘に納めて、テラピアと同じ方向へ去っていく。その場に残された俺は、レヴィとフィデスへ視線を向けた。

「じゃあボクは、テラピアちゃんと一緒にルティ君の服でも選んでみよっかな」

 少しだけ殺伐とした空気が流れる中、フィデスはさっさと立ち去っていった。俺がフィデスだったとしても、きっと同じ行動を取っていただろう。それほどまでに今のレヴィは、全身から苛立ちを滲ませていたから。

「……レヴィ、色々と…ごめん」

 過保護なレヴィが、傷だらけの俺を見て平静でいられる訳が無い。治癒される事は前提だったのだとしても、目の前で血を流していく無様な姿を晒してしまったのだから。

 その上、彼との繋がりの証である聖石を返した形になっている。握られているレヴィの左手からは、ちぎれた紐の端が垂れてふわふわと風に揺れていた。

「怒ってる……よな?」

「解っていて聞くのか?」

 どうしたら機嫌が治るのか考えてみても、良案は何も浮かばない。でも一つだけ分かっている事がある。

「俺、まだまだだったね。結構、自信あったんだけどな…」

 剣の柄を握る自分の手に視線を落として、弱い自分という現実を受け入れる為に両手をきつく握り締める。もしも俺が強かったら、叔父とも対等に渡り合えるだけの実力があったなら…。あれほどの無様を晒す事も、こうしてレヴィを怒らせる事も無かったはずだから。

「こんなんじゃ、レヴィが心配するのも無理ないよな、本当に俺は……弱くて駄目で……」

「そうじゃない!」

 初めて聞いたレヴィの怒声に身体が跳ねる。咄嗟に見上げると、近付いてくるレヴィに胸倉を掴まれていた。これほど乱暴に扱われるのはそれこそ初めてで、怒らせるどころか嫌われたかとすら思ってしまった程。

「何故、一人で背追い込もうとする!」

「…………え?」

「…まだ解らないのか……」

 俺より長身のレヴィに掴み上げられて、少しだけ身体が浮き上がりそうになる。普段とは違う呆れ声と表情が気になって、じっと彼の瞳を見上げた。

「お前に不足があれば私が補えばいい。今の私に足りない魔力を、お前が補うようにだ」

「えっと……それって…?」

「私を頼ればいい」

「でも今は…叔父との、剣の手合わせだったから……」

「私が魔法以外扱えないとでも?」

「………………え?」

 意味が理解出来ない俺にさらに苛立ちを見せたレヴィが、胸倉を掴む手を離し、一度返した聖石を無理矢理俺の手に握らせてきた。何をする気なのかと考えている俺の手の中で石は光り輝き、先程出現させようとしていた槍が今度こそ実体化していく。

 叔父の剣よりも長い、淡い水色の光を纏う槍は、レヴィの手の中で軽々と振るわれている。流れるような動きで、鞘に納める事なく握っていた剣と交わり、甲高い金属音が鳴り響いた。

「構えてみろ、加減はしてやる」

「えっ…?」

 左手に石を握ったままだが、言われるがまま右手で軽く剣を構える。再び手の中の石が輝くと同時に、俺の眼前に結界が展開された。直後、レヴィが槍を振り被り俺に向けて斬撃を繰り出してきた。

「……うそ、だろ…………?」

 レヴィの結界にヒビが入るほどの威力で、叔父と同じ斬撃が放たれていた。結界が無ければ、四肢を切断されていたかもしれない。恐るべき破壊力に冷や汗が滲んだ。

「分かったか?」

「え、何で…?」

「これが、本来の威力だ」

 やはり叔父が放ったものと同じ種類の攻撃。それどころか、レヴィは全く本気を出していない。もしかしたら叔父よりも…?そう気付いたところで、思ってしまう。彼は魔法も自在に操り、武器を扱う近接戦闘でも俺より遥かに強い。だとしたら、レヴィと一緒に居る俺自身の存在意義はどこにあるのだろう、と。

 帝国という小さな枠の中で満足する気は無かったけれど、それでも世の中の広さを嫌でも実感してしまう。

「ルティ…お前はどうして、誰かに頼ろうとしない?」

「…………」

「お前に足りない力は、私が補える。お前がこの技を会得したいと願うなら、私が教えてやれる」

「…レヴィ」

「だから、私を頼れ」

 そしてまた、もう何度目かも分からないけれど、レヴィの腕に抱き寄せられた。身を任せようかと思ったが、咄嗟に俺は身を引く。

「だっ、ダメだ!レヴィ、あんた白い服なんだから!血が付くだろ!汚れちゃう!」

 傷は既に塞がっていても、流れ出た血は戻らないし無かった事にならない。肌にも服にも、乾き切っていない血が多く残っている。

 俺は真っ当な事を言ったつもりなのに、レヴィは物凄く不機嫌になっていた。


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