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竜と神のヴェスティギア【1000pv突破】  作者: 絢乃
第四話

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0034

 両親や兄を除いて、初めて出会う数少ない肉親の一人、叔父のリーベル。

 彼が俺の身を案じてくれていた事はとてもよく理解している。ベラニスや自分自身のために海竜へ挑もうとする俺を気遣った上での、力試しの手合わせ。テラピアに案内されてやってきた館の中庭はとても広く、派手な魔法さえ使わなければ十分な立ち回りが可能だろう。

 叔父は背に携えていた長剣を抜き、俺に向けて構えた。少なくとも俺の背丈ほどはあるその剣を片腕で軽々と持つ叔父の実力は、この時点で既に俺より上だと判断が出来てしまう。釣られるように俺も腰の剣をを抜き、正面に構える。

「その構え……帝国騎士団のものか?」

「わかるものなの?」

「そりゃあな?俺は姉さんと違って魔法の才は無い。代わりに、こいつ一本で俺は各国を渡り歩いた」

 言いながら長剣を揺らす。陽光に照らされて輝く刃は手入れが行き届いており、その斬れ味の鋭さを物語っている。

 そして彼は案に魔法の使用を封じてきた。剣だけで戦え…そう促されているかのようだった。

「では……いきます!」

 宣言しながら地を蹴り、叔父の元へ突進していく。見た目だけなら重量級とも思える長剣がどう動くのかを見極めるため、あえて真っ直ぐに向かった。こちらよりリーチのある剣先を警戒しつつ、中段から横薙ぎに剣を振り抜こうとするが、やはり容易く受け止められていた。

「ほう、速度は中々。だが力はまだまだだな?」

 涼しい顔で俺の剣を受ける叔父は軽く言うが、その目は一切の油断をしていない。反撃を警戒して後方に跳び間合いの外へと抜け出る。追撃があるかと思ったが、その場を動かない叔父は剣先を真っ直ぐ俺へと向けてくる。

「さぁルティウス!どんどん来い!」

 たった一度の打ち合いで彼我の実力差は既に分かっていた。今の俺ではどう頑張っても叔父には敵わない。だからと言ってここで簡単に諦めるほど、俺は物分かりが良くはない。

 先程と同じように駆け出し、同じ速度で接近する。けれど直後に一段階の加速をかけ、叔父の懐へと潜り込む。リーチが長い武器の死角は懐。内へ入り込めばこっちのもの…そんな定石に則って剣を振り上げようとするが、しかし俺の攻撃は瞬時に防御へ回さなければならなくなった。

「…くっ!」 

 身を捻り回転するように薙ぎ払われる長剣の斬撃が迫り、縦に構えた剣の腹で咄嗟に受け止める。しかし叔父の動きはそれだけに留まらなかった。

 受け止めた瞬間、剣を握る腕に衝撃が走る。長剣の重量を乗せた一閃の重みに、膝が崩れそうだった。ビリビリと痺れる腕でどうにか堪えていると更なる剛力によって、身体が地面から浮き上がる。そのまま振り抜かれると同時に俺自身も弾き飛ばされた。

「くっそ……!」

 空中で何とか体勢を整えギリギリの着地を果たすも、そこには既に叔父の追撃が迫っていた。

「ほらどうした!そんなもんか?」

 重量級とは思えない程の速度で繰り出される攻撃をどうにか凌ぐが、その時俺は自分の身体に違和感を覚えていた。焼け付くような痛みがあちこちに走っている。直接斬られた覚えは無い。辛うじてではあっても確実に防いでいる。けれど気付けば、身体の至る所に傷が生じていた。

「……うっ」

 全身に今まで経験した事のない痛みが生じ、ついに膝を着いてしまった。地面に剣を突き立てて倒れ込むのは避けられたが、長剣を肩に担いで俺を見下ろす叔父がにやりと笑っている。

「これが、俺がこいつ一本で生き抜くために得た力だ」

 全身に残る傷は、直接斬らなくても斬撃を相手へ届けられる何かが当たったもの。魔力の残滓を感じないため魔法ではなく、きっと物理的な攻撃。その絡繰を読み解けなければ、俺は絶対に叔父には勝てない。

 そんな風に俺が必死に勝ち筋を探って思案していると、首元の石が強く輝いている事に気付いた。少し離れた場所から膨大な魔力が吹き荒れているのを感じて視線を向けると、案の定の光景…。

「…………貴様、ルティの身内だからと甘く見ていれば…」

 傷だらけの俺を見て怒りと殺気に満ち溢れたレヴィが、俺の魔力を使って長い水の槍を形成し始めていた。隣にいるフィデスも止めようとはしているが、怒れるレヴィの意識にすら入れていないようだ。

 心配してくれる気持ちは凄く嬉しい。だけどこれは俺の戦い。俺自身が乗り越えなきゃいけない壁。いくらレヴィでも、介入は許せない。

 首元で光るレヴィとの繋がり。その石を握り締めて、俺は一思いに引きちぎった。それと同時にレヴィへの魔力供給は絶たれ、その場に残っているのは彼の殺気だけ。

「ルティ、何をしている…」

「ごめんレヴィ……でも、今は……邪魔をしないで欲しいんだ」

 聖石の事は後でちゃんと謝ろう。テラピアにでも頼んで、ちぎってしまった紐も新しくしよう。そう思いながら、握り締めていた聖石をレヴィへと投げる。片手で軽く受け止めたレヴィは苛立ちを滲ませた真剣な眼差しで俺を見ている。何故頼らないのかと問われているようで心苦しいが、これは俺自身の問題だ。

 身体はまだ痛むけれど、戦意を挫かれた訳ではない。

「叔父様……続きを!」

 剣を構え直し、まだ諦めていない事を伝える。

「……さっきより、いい面構えになったじゃないか」

 言葉と同時に、叔父の構えが変わる。おそらく今までは守りと反撃に徹していた。けれど今は、きっと攻めの構え。

 来る!そう感じた直後にはもう、叔父の姿は俺の真上にあった。

 「速いっ!」

 受け止めてはいけないと本能が叫び、前方へ跳んで振り下ろされる一撃を回避する。それは正解だったようで、俺が居たはずの場所は吹き飛び地面が大きく抉られていた。恐ろしいほどの威力を持つ斬撃に冷や汗が滲むも、俺は単純に考えた。

 当たらなければいい!と。


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