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竜と神のヴェスティギア【1000pv突破】  作者: 絢乃
第三話

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「あの、大丈夫ですか?何だか顔色が優れないようですけども…」

「え?あ…本当だ!ルティウス、大丈夫か?」

 酒のせいなのか遅れて気付いたリーベルが、慌ててルティウスの顔色を凝視する。本人に自覚は無かったけれど、二人もまた心配そうに表情を顰めていた。そんなにも酷い顔をしているのだろうかと、ルティウスは首を傾げていた。

「今夜は一先ず休め。宿はどこだ?送っていくぞ」

「あ、あのね~?ボク達、まだ宿が決まってないんだよね~…」

 言葉が出て来ないルティウスの代わりにフィデスが答えた。ほぼ全ての宿が満室である事はリーベルも知っているのか、納得しつつも困ったように頭を掻いている。

「えっと…でしたら助けて頂いたお礼に、私の方で滞在場所を提供しましょうか?」

 その場にいる全員が、彼女へと視線を向ける事になった。泊まる場所が決まっていない現状としては願っても無い話だが、そこまで世話になっても良いのだろうか。しかしリーベルは彼女の提案に賛同する素振りを見せている。

「そうだな、テラピアちゃんの所なら好都合だろうな」

「はい!お任せ下さい!」

 困惑するルティウスを気にせず、既に決定事項として扱われているようだ。

「それじゃ、積もる話もあるが今夜はお開きにしとこう。明日、具合が良くなっていたらまた話そう」

 リーベルは言いながら立ち上がり、食事の支払いがあるからと先に個室を出ていく。残された三人はテラピアと共にゆっくりと後を追う。椅子から立ち上がる瞬間に少しだけふらつくルティウスだったが、案の定隣に立つレヴィの腕が支えていた。

 そしてフィデスがこそっと「皇子様だったんだね?」と耳打ちしてきた。そういえば自身の素性は話せていなかったな…と思い出す。彼女の正体を知った時に伝えるべきだったと反省しつつも「基本的に秘密で」と一言だけ補足しておいた。

 そして店を出た所で、一行はリーベルと別れる事になった。彼は自警団の宿舎で寝泊まりをしており、北門の手前にあるから何かあれば訪ねてこいと、場所を教えてから去って行った。

「さて、では参りましょうか」

「あ、あの…テラピアさん?」

「はい?」

「ちなみに、どちらへ?」

「私の実家になります」

 それだけ言って彼女は歩き出してしまう。仮にも女性の実家へ本当に行っても良いのか悩んでしまう。フィデスの存在があるとはいえ、こちらには男が二人もいるのだ。彼女の両親や家族が訝しまないだろうかと心配になってくる。

「それと、私の事は『テラピア』とお呼び下さい。サリア様のご子息からさん付けなど畏れ多いです」

 やはり彼女は…テラピアは母の事を知っている。一体どういう関係なのか気にしつつも彼女の後について行き、街の外れへと向かった。


 閑静な住宅街の一画に佇む、一際大きな屋敷。門の前には番をしている兵も立っており、彼らが守る門そのものにも美しい細工が施されていて家の格を窺わせている。

「お疲れ様です」

「これは、テラピア様!お帰りなさいませ!」

「ただいま帰りました。早速で申し訳ないのですが、彼らは私のお客様です。今後も出入りがあるかと思いますので、ご紹介しておきますね」

「畏まりました。ようこそお客様。当家へのご滞在が良きものとなりますように」

 テラピアは門番へ三人を紹介してくれる。彼らは姿勢を正し客人であるルティウス達へ敬礼をする。それを見たルティウスは、長年の癖なのか慇懃に返してしまった。

 右手を胸に当て、左手は腰の剣を押さえ、ゆっくりと頭を下げての一礼。皇子として叩き込まれる作法はどんな場所でも役に立つ…マナーの教育係から言われてきた事を思い出し、教わったままを実践するようにふらつく身体を動かした。

「夜分の訪問にも関わらずの応対に感謝致します」

 一礼を終えて顔を上げると、何故かその場にいる者全員が固まっていた。テラピアだけは、少しだけ微笑んでいたけれど。

 姿勢を戻してレヴィを見上げ、フィデスを見下ろして、何かおかしかったかと二人に視線で問う。フィデスはにこにこと笑い、レヴィは溜め息を吐いていた。

「…………え?」


 にこやかに門を開ける番兵に通されて、一行は屋敷の中へと足を踏み入れた。豪華だが派手ではない作りの建物。内部も同じく綺麗に調度品が設えられており、どこか懐かしい落ち着く雰囲気だった。

 そしてルティウスの視界に、気になる物が映り込む。 

「あれは…?」

 扉を開けて入ったすぐのエントランスに飾られているのは、蒼い竜の彫像。その背には二対四枚の翼があり、像の足元には水が湛えられている。何だか見覚えがある気がして、隣をちらりと見上げる。

「…私だろうな」

 ぼそっと小さな声で呟くレヴィに、やはりとルティウスは納得する。

 ベラニスは水神信仰の街。水の竜神であるレヴィを象った像が存在していてもおかしくはない。そして像をもう一度見て、ルティウスは想像した事実が正解かどうかをこっそりと尋ねた。

「もしかして、本来の姿ってあんな感じ?」

「……こんなに小さくはない」

 指摘する部分はそこなのかと呆れてしまう。ただ否定はされなかったため、間違いという訳でもないのだろう。

 決して小さくは無いはずの竜の彫像を前にするルティウスは、改めてこの家が一体何なのかを考えていた。最も有力なのはベラニスの領主という線だが、テラピアは何も言わない。

「それでは皆様のお部屋にご案内致しますね」

「ちょっと待ってくれ」

 エントランスを抜けて大階段を上りながら話すテラピアを、ルティウスは思わず呼び止めた。

「一つ聞かせてくれ。君は一体…?」


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