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竜と神のヴェスティギア【1000pv突破】  作者: 絢乃
第三話

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29/51

0029

「…とりあえず、そちらも落ち着いたみたいだし、テラピアちゃんを助けてくれた礼にご馳走させてくれ」

 本当は今夜は非番なのだと嘆くリーベルの計らいで、一行は近くにある飲食店へと案内される事になった。食事が出来る店を探している途中だった事もあり、丁度良かったとルティウスは返す。

 込み入った話も出来るようにと個室へ通され、それぞれ席に着く。当然のようにルティウスの隣にはレヴィが座り、向かえにフィデスとテラピア、そしてリーベルという位置だ。

 注文した料理や飲み物が揃い、軽い雑談を交わしながら食べていく。

 リーベルは現在三十四歳で、元々がここベラニスの出身である事。そして今のベラニスが東西南北で区分けされ、それぞれに自警団が存在している事などを教えた。何度か来た事のあるフィデスも知らなかったようだが、区分けについてはここ十数年での再編によるものだとリーベルは語る。

 そうした『誰もが知っているだろう話』が一段落した頃には食事も終え、酒の入ったグラスを片手にリーベルがテラピアへ目配せし、何かを頼んでいた。

「テラピアちゃん、いつものアレ、よろしくな」

「わかりました!」

 返事の直後、彼女から魔力の放出が始まる。こんな場所で魔法?と思うが危険な感じはない。一体何の魔法なのかと首を傾げていると、隣からぽつりと答えが届けられる。

「風の魔法…遮音結界か」

「お?兄さんよく分かったな?」

「………………」

「怖いなぁ、睨まないでくれよ」

 リーベルが話す度に殺気をチラつかせるレヴィに溜め息が零れる。しかしわざわざ個室を選んだ上に、こんな結界まで必要なのだろうか?と、ルティウスは少しだけ疑問に思った。

「さて……まずはどこから話すかな…」

「リーベルさん、サリア様の事を聞かせてあげた方が良いんじゃないです?」

「そうだな……」

 十歳の時に亡くなった母について、ルティウスは知らない事があまりにも多い。そして弟であると言ったリーベル自身の事についても、興味は尽きなかった。そうした込み入った話をする為に、わざわざ個室を選んだ上に遮音結界まで使ってくれたのだろう。

「まず結論からな。俺はお前の母親、サリアの弟だ。お前からすれば、俺は叔父って事になるな。最後に会ったのは産まれてすぐの頃だから、まぁ覚えてなくて当然だ」

「叔父、さん…?」

「叔父さん…う~ん感慨深い……」

 話しながらグラスの中身を一気に煽る。既に何杯目かは分からない。ルティウスも酒を勧められはしたけれど、あまり得意ではないので丁重に断り続けている。

「ま、俺はすぐに分かったけどな。ルティウス、お前は本当に、姉さんによく似てる」

 子供の頃から確かに言われてきた。母と瓜二つなほど似ていると。そのせいで女性に間違われる事も多く苦労はあったが、今回ばかりはこの顔のおかげで気付いてもらえたのだと、前向きに捉えられた。

「帝国に嫁いでからは、皇位だ何だのしがらみのせいでほとんど会えてないけどな。葬儀に顔を出す事も許されなくてよ……すまなかったな、辛い時に一緒に居てやれなくて…」

 言われてから過去を振り返る。あの時は確かに辛かった。自分のせいで母が死に、頼れる者も居なかった頃。運良くアミクスという友人と出会えたおかげで立ち直れはしたが、あの時にもしも叔父が傍に居てくれたのなら、母は死なずに済んだのかもしれない…。

「姉さんは優秀な神官だったからな。きっと神託やら何やらで、自分がどんな最期を遂げるかも知っていた。そして俺や実家を巻き込まないために、誰にも……息子のお前にも、家族の事は話さなかったんだろうよ」

 その気持ちは少しだけ理解出来る。存在が露見する事で云われの無い咎が向いてしまう恐れがあると知っていたら、自分が同じ立場でもきっと秘匿としただろう。

「ルティウス、本当に…無事でいてくれて良かったよ」

 何度か言っている「無事で」の台詞に何故か引っ掛かりを覚えた。そう遠くないとはいえ、グラディオスとベラニスは距離がある。国の状態は伝わりにくい気もするが、彼には自警団の長という立場が味方している。脱出した後の帝国について何か知っているだろうかと尋ねようとして、先にリーベルから事実が告げられた。

「何でベラニスにルティウスがいるのかは察してる。いいか?今の帝国には、絶対に近付いちゃいけねえぞ…なんせ第二皇子の天下だからな」

「ラディクス兄様……」

 あれから数日しか経っていない。それほど大きく事が動いたとは思えないが、話しぶりから良い状況ではないのだろうと内心で覚悟をする。

「そう、そのラディクス第二皇子が軍を率いて帝国を制圧した。第一皇子は不在で難を逃れたが、皇帝は応戦し敗北…生きてはいるものの、城の尖塔に監禁されているってもっぱらの噂だ」

 そして所在不明の第三皇子は現状、行方不明だが反旗を翻す可能性の高い存在としていずこかに潜伏中、見つけ次第生死不問で捕縛せよとの扱いになっていると話してくれた。それがルティウスの無事を喜んだ理由なのだと…。

 帝国内では指名手配が出されており、近付けばどうなるかは分からない。ベラニスへ訪れたのは正解だった。

「アミクスは…魔道士団のヴェリター侯爵家は?どうなったか知ってる?」

「…あ~、魔道士団なぁ。確か…元から第二皇子側だって話を聞いているが⋯」

「………え?」

 その一言に血の気が引く思いだった。全身から力が抜け、意識がぐらつくような目眩を覚えた。第二皇子に付いたのなら危険は無いかもしれないが、アミクスが自分を裏切っていたという現実を直視するには、まだ覚悟が足りていなかった。

「…ルティ?」

 あまりにも青褪めた顔色をしている事に気付いたレヴィがそっと声を掛けてくる。動揺している事はきっと筒抜けなのだろう。隠し事は出来ないものだなと笑い返してみるけれど、レヴィは真剣な表情でじっとルティウスを見ている。

「で、帝国がそんな状態だから逃げてくる人も多くてな。今のベラニスは帝国から西へ逃げたい民と、南西のフラーマから逃げてきた民の一部が集中してるってわけだ」

 それが、ベラニスの宿が空いていない理由なのだろう。けれど通過点に過ぎないベラニスに、それほどまで多くの人が集中するのはどこか不自然にも思えた。フラーマの民はどこへ向かおうとしてベラニスへ来たのか。そして帝国の民は何故まだベラニスに留まっているのか。

 テラピアに絡んでいた暴漢もまた、フラーマから逃げ延びた民の一人。かの国の治安が悪化しているという話は、帝国にいる時から聞いた事があった。民が国外逃亡を選ばなければいけないほどの情勢に心苦しくなる。一刻も早く協力者を得て、まずは自国を正さなければと思うが、そこへ至る難易度の高さを知りさらに気持ちは沈んでいく。


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