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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第二十話

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 殴りかかって来る男の拳を、リーベルは余裕の動きでひらりと回避する。

 世界を旅してまわった程の腕前を持つ剣士にとって、街に暮らす戦士でもない男の動きなど取るに足らないもの。ファムを抱えていようと、影響など皆無だった。

 しかし男が連れている仲間達が、平和に暮らすだけの民とは限らない。

 軽やかな足さばきで拳をかわし続けるリーベルの足元が、唐突に氷結したのは直後の事。

「っ!なんだ、これ…魔法か!」

 回避を封じられたリーベルが足元から視線を戻せば、眼前にはかつて自身が殴り飛ばした覚えのある男の拳が、躊躇いなく迫っているのが見えた。

 それでも、上半身を捻れば避ける事は出来ただろう。

 だがリーベルは、あえて避けずに顔面で受け止めた。

「いいザマだな、兄さんよぉ。助っ人頼んどいて正解だったぜ!」

 復讐に燃えるその男は、一発では飽き足らず何度もリーベルへと拳を向ける。氷結魔法を放っただろう魔道士は、それ以上は何をするでもなく、ただ男の後方に立ち様子を窺うだけ。

「なーんかガキ抱えて必死そうにしてんなぁ…ソレ、兄さんの大事なヤツか何かかよ?」

 リーベルへのやり返しに飽いたのか、男はその視線を、腕の中で守っているファムへと向けている。

 自身が犯した業への復讐であれば、甘んじて受けるつもりでいた。受け方さえ誤らなければ、殴打の衝撃からファムを守る事も、剣士であるリーベルには容易い事だったから。

 けれど矛先が無関係なファムに向くのであれば、黙ってはいられない。

「………ぁあ?」

 殺意を込めた目で睨み返せば、男は即座に怯み息を飲んだ。

「…てめえの目的は、俺への復讐なんだろ?ガキは関係ねえだろうが」

 殴られ続け腫れ上がった顔でも、その視線に込められる圧は衰えていない。切れた口の端から血を流していても、ファムを抱く腕の力は少しも弱まってはいなかった。

「っせえよ!あんたがあの時暴れたせいで、俺ぁ嫁さんの出産に立ち会えなかったんだぞ!」

 それは平和を享受していた普通の男が抱く、復讐へと走らせた大きすぎる理由。自身ではなく家族を思うが故の蛮行と知り、リーベルは驚愕から蒼い瞳を見開いていた。

 そして男はついに、懐から小さな短剣を取り出し、引き抜いた鞘を乱暴に地面へと投げ捨てた。

 恨みを象徴するような白銀の輝きを目にして、リーベルは表情を一変させる。

「おい……」

 ただの殴打であれば、甘んじて受けていてもただ痛みが残るだけだ。しかしそこに殺傷能力を有する刃物が混じるとすれば、受けてやる訳にはいかない。

「てめえに殴られたせいで、俺の妻は…たった一人で…!」


 ほんの少し前なら、このまま殺されてしまっても構わないと思えただろう。

 だが今は、腕の中にファムがいる。

 そして目の前で怒りに燃える、父親になったばかりの男に、最悪の過ちを犯させる訳にはいかない。


「おい、そこまでやるとは聞いてないぞ!」

 男の背後に控えていた魔道士と仲間達が、揃ってざわめき始める。

 短剣を握り締める男を目の当たりにした仲間達の様子は、リーベルに一つの確信を持たせていた。

 彼らは、決して深い間柄ではないのだと。

 両腕で抱きかかえていたファムの小さな身体を、自身の肩に凭れ掛からせ左腕で短い足元を支えた。右手を背に宛がっているが、離したところで取り落とす事はない。

 男達が揉めている間に、リーベルは体勢を変えて不測の事態に備えていた。


 耳元に触れるファムの吐息は浅く、ぴたりと触れ合った小さな身体は、微かにだが小刻みに震えている。熱を分けるように少しだけ強く抱きしめれば、僅かながらに呼吸は深くなる。だが冷え切った小さな身体は生命力の源が希薄だと察し、表情に焦りの色を滲ませていた。

「…うるせえっ!金出して雇ってんだ!いいからあの野郎を…!」

 ファムへ向けていた意識は、短剣を握り締める男の怒声によって引き戻される。

 仲間たちの制止も聞かず、男は短剣の切っ先をリーベルに向けて、ギラつく眼差しのまま地面を蹴った。



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