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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十九話 Concentus

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「…ふぅ、やっと俺もご飯にありつけるゥ…あ、まだ酒は残ってる?俺の分、ある?」

 馬の世話を終えたジェロアの気の抜けた声が響き、ルティウスはレヴィから視線を外すとテーブルへと向き直る。

 ゼフィラとフィデスが手分けして、パンとサラダを取り分けている。けれど最後に残されている冷めた肉料理が蒼い瞳に映り込んで、ルティウスは却下されると確信していながらも、ぽつりと提案を口にした。

「これ、俺が温めたら……」

「「だめだ」」

 寸分の狂いもなく声を揃えてきたのはリーベルとレヴィ。

 少年の壊滅的な魔力制御の雑さと、底知れない威力を知る二人の保護者は、最後まで言わせる間も与えずルティウスの言葉を遮ってしまう。

「う……いや、分かってるよ。俺じゃ温める前に燃やし尽くしちゃうってさ……」

 ぶつぶつと不貞腐れたように呟くルティウスは力なく項垂れ、不満げに頬を膨らませたままスペラのために椅子を引く。

 クスクスと笑うスペラは促されるまま、蒼い輝きを放つクリスタルのような椅子に腰を下ろし、ルティウスも深い溜め息を吐きながら脱力した様子で、レヴィとスペラの間にある椅子へと座った。

「ルティウス、食い物を温めるってだけなら、ジェロアは慣れてるから任せてやれ」

 かつて長い年月を共に旅したリーベルが、背中を預け続けたジェロアを促すように呟く。

「え…?俺ぇ?」

 指名されたジェロアは、座る直前だったのか椅子の背を掴んだまま、間の抜けた顔でその場に固まる。

 既にセイレーンやレイスとの戦闘で、ジェロアがその身に秘める緻密な魔力制御能力を知るゼフィラとフィデス、そしてレヴィもまた、当然のように拒否する素振りは見られない。

 魔力制御に自信のないルティウスもまた、純粋な憧れの眼差しでジェロアを見上げていた。

「ふーむ…ま、久しぶりだけど、ご所望とあらばやってみようかねぇ」

 椅子から手を離し、座るのをやめたジェロアはテーブルの前で真っ直ぐに立つ。籠の中で敷紙に包まれたままの肉に視線を向けると、軽く右手を翳しにこにこと笑みを浮かべたまま、羽毛を撫でるような繊細さで魔力を集めていった。

 翳した右手が仄かに赤く輝き、指先に一瞬だけ小さな火が灯る。けれど燃え上がる事もないまま消え去り、直後には掲げられた手から強い熱風が放たれていた。

「わっ、熱ぅ…」

 至近距離での魔法に慣れていないスペラが、悲鳴に似た声を漏らしてしまう。突然の熱に驚いたスペラだが、急速にテーブルの上から広がる熱はレヴィによって遮断されていた。

 無言のまま左手を翳したレヴィが、即座にスペラを守護するための薄い結界膜を展開している。

「ご、ごめんねスペラちゃん…!大丈夫だった?熱かったよね、火傷とか…」

 加減を誤ったつもりはなくとも、それは魔法への慣れと耐性があってこそ。戦闘とは無縁の平穏な暮らししか知らないスペラには恐怖を与えていても仕方ないと気付き、ジェロアは慌てて声を掛ける。

「うん、大丈夫よ。レヴィさんがすぐに守ってくれたみたいだし」

 守られた事への感謝を伝えるべくウィステリアの瞳を向けるスペラに、レヴィは穏やかな表情で微笑み返す。

「制御はされていても、娘を怯えさせるとは、まだまだだな」

 炎に触れても肌を焼く事さえないレヴィによる水の防壁は、スペラの白い肌を火照らせる事すら許さず完璧に守り抜いていた。

 変わらず右手に持ったグラスをゆっくりと傾け続けるレヴィが、挑発するようにジェロアへ駄目出しを吐き捨てると、言われた当人であるジェロアも申し訳なさそうに頭を掻き反省の意を口にした。

「保護者さんの言う通りだね。つい、リーベルと旅してた時の感覚でやっちゃったよ。気を付けなきゃダメだねぇ」

 スペラを驚かせる一幕はあったものの、ジェロアによる加温は籠の中に詰められていた肉料理と、既に取り分けられていたパンにまで熱を与えていた。まるで焼きたてのようにふっくらとしたパンからは、夜の冷えた空気の中で仄かな湯気を立ち上らせるほど温まっていた。

「フィデスちゃん、お姫さん、早速お肉も取り分けを頼んでいいかい?」

 精細な加温は慣れていても相当な意識の集中を要するのか、微かな疲労を滲ませる声でジェロアはフィデスとゼフィラへと後の給仕を託し、深い溜め息と共に椅子へ腰を下ろす。

「リーベルぅ、俺にも酒ぇ…」

 隣に座る友へねだれば、分かっていたとばかりに琥珀色の酒で満たされたグラスが蒼い氷の上を滑り、だらしなく座るジェロアの前へと届いた。

「おう、お疲れさん。戦闘からここまで、お前さんが居てくれて助かったぜ」

 事実、ジェロアが居なければセイレーンや死霊達との戦闘に於いても、更なる苦戦は避けられなかっただろう。探究者としての知識や魔道士としての腕前、どちらの面でもジェロアの存在は大きなものである。

 珍しく素直な称賛を投げられたジェロアは、どこか居た堪れない様子でグラスに口を付けると、無言で酒を啜りながらも微かに笑みを浮かべていた。


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