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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十九話 Concentus

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「…レヴィっ!」

「何だ」

 その手に焼き菓子を持ったまま、ルティウスはレヴィへと向き直る。

「気にする必要はない。お前に全力を出せと煽ったのは私だ。だからこそ、魔法陣の残滓もろとも吹き飛ばして、その娘を救えたんだ」

 菓子に夢中だった少年が何を危惧しているのか、即座に見抜いたレヴィは迷いのない声で間髪入れずに返した。

「あっはは!やっぱりね~。どうせ、レヴィが止めなかったんだろうなって思ってたよ~♪」


 フィデスは知っている。

 遠い過去、レヴィ自身が何度もその強大すぎる力を有り余らせては、豪快に『やりすぎ』ていた事を。

 今立っているこのルナリス湖こそが、その最たる例の一つだという事実も。

 

 そのレヴィが『全力を出せ』と指示してしまったのなら、ルティウスが加減というものの全てを捨てたとしても不可抗力に過ぎない。

 神としての視点で大らかに物事を見るフィデスは、もはや気にした素振りもなくそのまま馬車へ向けて駆けて行った。

「まぁそうだねぇ。ちょっとくらい爆発して吹き飛んだとしても、この花畑は本当に広大だからね。ラテーレ村の暮らしを支える分には全く困らないだろうから、別にいいと思うよ~?」

 相変わらず哀愁を漂わせ、菓子を堪能し合う二人をちらちらと見遣ってから、ジェロアもまた馬車へと向かっていく。

 その姿を追うようにゼフィラとリーベルもにこやかに笑みを浮かべ、楽しげな背中を見せていた。

 白い花の中に残されたルティウスは釈然としないまま、手に持ったメル・フロースをゆっくりと口に運んでいた。

「ルティウス君…」

 僅かに肩を落として項垂れている少年へ、スペラはどこか躊躇いがちに声を掛けた。

 名を呼ばれて視線を上げると、ウィステリアの瞳は少しだけ困ったように泳いでいる。

「どうしたの?」

 小さな会話を拾ったレヴィは、ゼフィラとリーベルに続いて馬車へ向かおうとする足の速度を緩めていた。

「皆さんの中に、私が混ざってしまって、いいのかしら…?」

 目の前で繰り広げられていた遠慮のないやり取り。そこから感じ取れた絆の深さを知り、ただ偶然居合わせたに過ぎない自分が輪に入って良いのかという、微かな躊躇を抱いていた。

 しかしルティウスは迷いなく頷くと、左手を差し出し笑顔で応える。

「もちろんだよ!アーダさんが用意してくれた差し入れ、めちゃくちゃ多いと思うからさ。スペラさんも一緒に、みんなで食べよう!」

 明るく答えるルティウスの声を聞いて、レヴィは振り返る事無く密かに口角を上げ、再び歩く速度を戻していた。

 差し出された手を恐る恐る取り、安堵から再び笑みを浮かべるスペラの手を引いて、ルティウスもまた花畑の中を歩き始めた。先を進むレヴィの背を追うように急ぎ足で向かい、時折振り返って歩調を合わせながらペラへ話し掛けていた。

「あ、アーダさんって、俺達が泊まっていた宿の人でね。すごく優しい人だったんだ」

「ルティウス君達は、ラテーレ村の方から来たんだったよね?」

「うんっ!ジェロアおじさんが村長でね。少しお世話になってたんだよ」

 他愛のない会話を繰り返しながら、気付けば二人はレヴィのすぐ後ろへと辿り着く。

 揃って花畑の端へ向かい、荷馬車の前へ到着すると、そこではすでに慣れた手つきで野営の準備が進められていた。

 旅慣れたリーベルとゼフィラが薪となる枝を集め、ジェロアの魔法で赤々とした火がくべられる。その間にフィデスが車台の奥から差し入れの包みを運び出し、瞬く間に用意は進められていった。

「あ~おっせえぞレヴィ。少しくらい手伝えよ」

 相変わらず遠慮のない言葉で、竜神であるレヴィをこき使おうとするリーベルだったが、しかしレヴィは不敵に鼻で笑い要求を一蹴した。

「手は足りているだろう。私の役目はその後だ」

 軽く右手を掲げると、その周囲に涼やかな蒼い輝きが生まれ、異物など含まれるはずも無い清浄な水の塊が、意思を持つように宙を舞う。

「うわぁ…さっすが保護者さん。あ、それちょっと、こっちにも入れてくれるかな?馬達にも補給が必要だからさ」

 荷台から大きな木桶を取り出してきたジェロアが、魔法で生み出された水を目にして依頼する。穏やかな金の瞳が視認した桶の中へ、指先一つで操る水を注いでいけば、湖へ汲みに行くよりも早く馬達の飲み水が確保された。

「へへっ、助かるゥ。保護者さんが居てくれて良かったよホント~」

 二頭の馬の前に木桶を置き鼻を撫でてやれば、馬達は静かに、けれど勢いよく水を飲み始めていた。


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