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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十九話 Concentus

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 秘められた力の密度は、かつてレヴィが渡した聖石の比ではなく、指輪そのものの魔力が常に流れ込み続ける感覚さえある。どこか違和感を覚えたはずの核の傷による不調さえ、まるで最初から無かったかのように、その痕跡さえも感じ取れない。


「ルティ、これは一体何だ⋯?」

 永きを生き、あらゆる知識を備えるレヴィですら正体を問わずにいられない代物を前にして、創造した主であるルティウスは袖で涙を拭いながら照れ臭そうに笑うばかり。

「へへっ⋯上手く、出来てるかな?」

「⋯上手くとかそういう話ではなくてだな」

 ちらりと、レヴィはルティウスの首元で微かに光る聖石へ目を向ける。

 破砕には至らずとも表面には小さな亀裂が生じ、傷ついた有様はまるで、自分自身の写し身のようでもあった。

 だが聖石は、絶える事なく蒼い光を帯び続けている。意識を取り戻したばかりのレヴィは、何一つとして魔法を使おうともしていない。その中での輝きこそ、ルティウスの魔力によって『常時守護されているに等しい』のだと、レヴィは考え至ってしまった。

「⋯⋯⋯本当に、全てを守るつもりか」

「えっ⋯?」

 金色の瞳を細めて、ごく小さな声での独白を口にする。しかしその掠れた一言はルティウスには届かず、大きな蒼い瞳を見開いてレヴィを真っ直ぐに見つめていた。

「何でもない、気にするな」

「え?でも今、何か言ったよな?」

 珍しく食い下がってくるルティウスから視線を逸らして、レヴィは手のひらの中にある蒼い聖石のような指輪をもう一度目に留める。

「⋯⋯⋯しかし、小さいなこれは」

「え⋯あれ?」

 右手で指輪を持ち、レヴィは自身の左手の指にそっと宛てがう。最も細いはずの小指でさえ、最初の関節すら通り抜ける事は出来なかった。

「⋯⋯えっ、そんなに?」

 困惑と共に指輪を見つめるルティウスの表情は、少しだけ焦りの色が滲んでいる。

 誰かに贈る可能性など露ほども考えずに創造した指輪は、当然のようにルティウス自身のサイズ。体格差の大きなレヴィの指には最初から嵌まるはずもなかった。

「⋯⋯ふっ」

 軽く吹き出すような吐息の後、堪え切れなくなったレヴィは肩を震わせながら、声を出して笑い始める。

「⋯本当に、お前は⋯⋯魔力制御が、雑だな⋯」

 笑いながら師としての駄目出しを口にしつつも、金色の【眼】を細め、指輪を構成する魔力を読み解き始めていた。

「しっ、仕方ないだろ!これ、ベラニスにいた時に初めて物質創造した物なんだから!」

 言い訳がましく反論するルティウスの髪に左手を伸ばし、乱暴に、けれど慈しむように頭を撫でる。

「分かってる。こんな大それた物を創っておきながら⋯⋯ふふっ⋯本当に、可愛らしいな⋯」

「可愛いって言うな!」

 出会ったばかりの頃と変わらないやり取りの中、一頻り笑ったレヴィは右手に持った指輪をルティウスの眼前へと掲げ、本来の竜神たる矜恃と、魔力制御を導く者としての本気を見せつけるべく、呼吸を整えてから口を開いた。

「これは、ルティが己の魔力を編んで創った物だろう?」

「え、うん⋯あの時は、こうするんだっていう知識が溢れてて、そのまんま⋯」

 返答を聞いたレヴィは小さく頷き、優しげに金の瞳を細めて解を口にしていく。

「ルティの魔力を借り続けている今の私は、どうもお前の力に馴染んでいるようでな」

「⋯⋯う、うん」

 語る声音は、普段と変わらない低く穏やかなもの。だがその響きがいつもよりも弾んでいると感じられるのは、ルティウスただ一人だけ。

「ならば馴染み切ったお前の魔力の塊くらい、私ならばどうとでも出来る」

 言葉が切れた直後、小さな指輪は一際強く輝き、瞬く間にあるべき形へとその輪を広げていく。

「えっ、すごい⋯!」

 眼前で起きている光景に瞳を大きく見開くルティウスを他所に、レヴィは穏やかに微笑んだまま、指輪を構成する魔力を鮮やかに操っていく。ゆっくりと拡張していく輪の大きさは、一回りほど膨張したところでぴたりと変化を止めた。

「この程度でいいだろう」

 満足気に呟いてから、レヴィは自身の左手、その小指へと滑らせるように、蒼い聖石の結晶を嵌めていった。

 今度こそ関節で阻まれる事もなく根元まで届いた指輪は、誇らしげに一度だけ強く煌めいてから秘められた力を解き放つ。

「えっ⋯何、今の⋯?」

 創造したルティウス自身、この指輪にどのような力が隠されているかも理解していない。オストラの導きによって、ただ無我夢中で魔力を込めただけに過ぎなかった。

「奴の差し金というのは癪だがな⋯この指輪があれば、私が意図せずともルティの魔力が私に流れ続ける」

 ルティウスの瞳を見つめつつも、ルティウスではなく奥底に宿るオストラを睨むように金の瞳を険しく細めるレヴィは、その指輪が齎す重要な効果の一つをルティウスに打ち明ける。

「魔力の密度が濃く、私の核の傷さえも包んでいるようだ。ある程度は、以前と同じように力を使えるだろう」

 それはルティウスに何よりも大きな安心を与える一言。根本的な解決には至っていないものの、喪失の恐怖を払拭するにはそれで十分だった。

「⋯だが、私がこの指輪を着けている限り、ルティの魔力を常に消費し続ける。お前が危険と判断したら、即座に外すぞ」

 既に一度、カリエス戦で魔力が枯渇する事態を目撃しているレヴィは、穏やかな中にも射抜くような真剣な眼差しを湛えて宣言した。


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