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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十八話 Insidiae

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「ルティ⋯⋯」

 湖面から吹く冷たい風が白い花を揺らし、ざわざわと騒ぐ草の音に紛れる声が、隣に立つ少年への願いを紡いだ。

「お前の破壊力の、出番だ」

「⋯えっ?」

 パッと振り返りレヴィを見上げるルティウスは、唐突な指名に驚き蒼い瞳を見開いた。

「⋯俺が、やって大丈夫?」

 ルティウスが抱く不安は、出来ない可能性によるものではない。

 カリエス戦でも、ルティウスはその力を発揮し過ぎた挙句、仲間を危険に晒した。レヴィから魔力制御の指導を受け始めた事で、自身の力の大きさと制御の雑さを自覚したばかりの少年は、やりすぎてしまう可能性を懸念していた。

 不安そうに見上げてくる少年に視線を向けて、レヴィは優しげに金の瞳を細めた。

「案ずるな。お前のやり過ぎも込みで、私が制御する」

 少しずつ朱に染まり始める空の下、レヴィはいつものように深い緋色の髪を撫でて、躊躇を見せる少年の背を押すように微笑んだ。

「何だか腑に落ちないけど⋯⋯。いいよ。アレを、壊せばいいんだよな?」

 やり過ぎを最初から想定されている事への不満を漏らしながらも、ルティウスは闇色の魔力を放ち続ける魔法陣へと視線を向ける。

 一歩、二歩と魔法陣へ近付き、一足飛びで届く距離で立ち止まる。同時に腰の後ろに下げている剣へ手を伸ばし、二本の内の片方だけを左手で抜いた。

「⋯それは、どっちの剣だ?」

 ルティウスが腰に下げる二本の剣。一つは長兄サルースより贈られた物であり、ルティウスが最初から装備している。

 そしてもう一本の剣は⋯⋯──。


「これは、マーカンさんに貰った方だよ」


 鞘に収められた状態では、それぞれの違いが分からないほど似せて造られた剣。しかし込められている想いは、明確に違っていた。

 左手にしっかりと握りしめた剣を構えて、振り返る事なくルティウスは告げる。

「誰かを助けるためならさ、レヴィが助けたニナの、家族の想いがあるこっちの方が、良い気がしてね⋯」

 レヴィが身を呈して庇い、命を救った幼い少女。重傷を負いながらも守り抜いたレヴィの行動が縁を繋ぎ、感謝の品としてルティウスに二本目の剣を齎した。

 魔法陣に囚われ命を吸われているスペラを救うために、命を救った縁で造られた剣を選ぶ。ルティウスの無自覚な優しさと心意気に、小さな背を見つめる金の瞳は僅かに見開かれていた。

 

「で、俺は⋯⋯どんな感じでやればいい?」

 珍しく感傷に浸りかけたレヴィを引き戻すのは、ルティウスのやる気に満ちた声。

 左手で抜いた剣を両手で構え、魔法陣に向き合う少年の後方に立つレヴィもまた、金の瞳で今一度魔力の流れを読み解いていく。

「⋯魔法陣を構築する魔力の密度は大したものだが、ルティの魔力量であれば⋯⋯」

 呟きながらレヴィは再び右手を翳し、自身とルティウス、前方で少女を囚えた漆黒の輝きをも飲み込む、巨大な蒼白い魔法陣を展開していた。

「うわ、何これ⋯?」

 首元の聖石の強い輝きが視界に映ると同時に、辺りを包み込むレヴィの力を感じて思わず振り返りそうになる。だがその視線は後ろのレヴィを捉える事なく、真っ直ぐに前を向いたまま。

「余計な事は何も考えなくていい。お前はありったけの力を込めて、あの魔法陣にぶつければいい」

 背中に届く、頼もしく低い声。

 遠慮も加減も要らない⋯そう解釈してしまった少年は深く息を吐き、蒼い瞳を閉じて意識を落ち着かせた。


 無風の湖面が波立つように、それは静かに始まる。

 緩やかなさざ波のように集う魔力は、やがて津波をも超える暴威となってルティウスの周囲を荒れ狂う。

 力の流入を願う少年の意に応えるように、世界を織り成す根の全てが、ルティウスの小さな身体へと繋がっていく。混ざり合い純白の輝きを纏った剣を握り締め、閉じていた蒼い瞳を再び開く頃、その手が触れるのは四属性全ての力が結束された、純粋なる『世界の光』と呼べるもの。

「⋯⋯予想以上、だな」

 右手を翳したまま根源からの流れを読み解き、莫大な力の奔流を正確に剣先へと導くレヴィは、規格外とも言える魔力の重みに表情を歪めていた。

 やはり加減をさせるべきだったかと僅かに後悔するものの、笑みを浮かべて小さな背を見守り続ける。

 生半可な力で破壊出来るほど、闇魔法の力は弱くはない。しかしルティウスが束ねた力は四属性が混ざり合い、相反する光の力へと昇華していた。

「やれ、ルティ!」

 破壊を任せたレヴィは、左手も翳し次なる魔法の構築に入る。

 ルティウスが放つ一撃から、囚われているスペラを護るために。

 真っ直ぐに漆黒の魔法陣を見据えるルティウスは、両手で握る剣を構えて、強く地を蹴る。一足飛びで魔法陣の真上に辿り着く小さな背中には、光り輝く魔力が集まり四枚の翼を象っていた。

「壊れろォっ⋯!」

 大きく振り上げた剣を、ルティウスは迷いなく魔法陣へと叩き付ける。

 相反する闇と衝突した力は、周囲に多大な余波を与えていた。衝撃波によって白い花弁が舞い散る中、ルティウスは渾身の力を込めて剣を押し込んでいく。

 あと少しで、闇の魔法陣から放たれる不浄な防壁を打ち破れる⋯。その手応えを感じているルティウスの背後から、苦痛に呻く小さな声が聞こえてしまった。


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