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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十八話 Insidiae

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 魔の才能が無くとも、リーベルすらも気付いている。

 この場に現れたセイレーンが、ただの使い捨てであると。


 その裏に居る『何者か』に向けて、リーベルは挑発するように告げた。

「コソコソしてねえで、直接出張って来やがれ!」

 長い柄を両手で握り、苛立ちをぶつけるように燃える剣を薙ぎ払う。身動きを封じられたままのセイレーンはそのまま胸部を切り裂かれ、剣先から燃え移る白い炎によって極彩色の羽根は炎上していった。

 いつしか結界の外まで足を伸ばし、駄目押しのように浄化の炎を放つジェロアも出力を上げ、一息に焼き尽くそうと試みる。

 しかし、ゼフィラはそれを見逃さず、すぐさま声を張り上げた。

「⋯ッ、離れて下さいっ!」

 咄嗟に叫ぶゼフィラの声を聞き、岩の蔓に囚われたまま燃えるセイレーンから即座に飛び退く。結界の深部へと退いた男二人の眼前では、直前まで立っていた場所を染める漆黒の魔法陣が浮かび上がっていた。

「⋯わぁお、間一髪ぅ⋯⋯」

 魔導士としての目を持つジェロアでさえも、ゼフィラからの指示がなければ反応が遅れていただろう。

 地面に描かれた漆黒の魔法陣からは闇色の魔力が立ち上り、至近距離にいたセイレーンと、周囲に落ちているグルマンベアだったもの達の亡骸へと吸い込まれていく。

「え~、ウッソぉ⋯⋯これ、闇魔法じゃないか。何で、こんな⋯⋯」

 今では禁書として秘匿されている物も含め、あらゆる魔法書を読み漁ったジェロアだからこそ見抜く、漆黒の魔法陣と魔力の正体。

 軽い口調とは裏腹に、ジェロアの内心には動揺が広がっていた。

「⋯闇魔法相手は、流石に俺でも手に余るなぁ~⋯⋯⋯」

 もしも自分一人だったなら、積み荷なども捨て置いて逃走を選んだだろう。だがここにいるのは、ジェロア一人ではない。


 尊敬するサリアに導かれて出会った者達を、捨て置いて逃げるなどジェロアに出来るはずもなかった。


 闇色の魔力が取り憑いた亡骸は、既に命が無いにも関わらず、次々と自立し始めていく。

 魔物と言えども、亡骸を辱める行為には嫌悪を抱くフィデスが、心から不快そうに表情を歪めて魔法陣を睨み付ける。

 嫌悪、焦燥、苦悩、そうした感情が入り乱れる結界内に、その声が届くのは直後の事。


『ククククク⋯そこの剣士の言う通りだね⋯私なりに趣向を凝らしてみたのだが、お気に召さなかったようだ⋯⋯』


 辺りに、覚えのない声が響き渡る。

 発生元は、既に体躯の半分以上が焼け爛れた、セイレーンの亡骸。

「⋯⋯その、声は⋯ッ!」

 御者台に座るフィデスへそっと魔石を預け渡すゼフィラが、その両手に二本の短剣を握り締めて、誰が止める間も無く飛び出した。

「…えッ?」

 リーベルさえも目で追うのがやっとの速度で、ゼフィラは声の元へと飛び込んでいく。追い風を纏う身のこなしはそれこそ風の如く、怨嗟を込めた刃をセイレーンの亡骸へ突き立てようとする直前で、ゼフィラの行く手を阻んだのは唐突に隆起した岩の壁。

 咄嗟に減速し、現れた壁を蹴って身を翻すゼフィラは、ジェロアとリーベルの眼前へ軽やかに着地する。しかしすぐさま、誰もが見た事のない怒りの形相を浮かべてフィデスへと振り返った。

「フィデス様、止めないでくださいッ!」

 誰もが知る、公女として理知的に振舞ってきたゼフィラは、そこには居ない。

 あまりの変貌に驚愕するリーベルだが、一歩を踏み出し細い腕を掴んで、再びの特攻を予め封じていた。

「ゼフィラちゃんよ、一体どうしたってんだ…?あの声の野郎が何なのか、知ってん…──」

「あの声は、第二皇子ですッ!」


 瞬間的に、全員が言葉を失った。

 僅かな沈黙の後に去来するのは、心の内に根付く、共通する怒りの感情。

 それは静かな火種から、瞬く間に激しい業火へと姿を変えていく。

 静謐な水の結界内であっても、それは押し留められはしなかった。


「⋯そうかよ、あの声の主が⋯姉さんの仇って事かよ」

 ゼフィラを止めるためにその腕を掴んでいなければ、リーベル自身が飛び出し、不快な声を発するセイレーンの骸を叩き潰しに動いただろう。だが渾身の理性を以て感情を御し、リーベルは踏みとどまった。

 そしてジェロアも、友とその甥を悲しませた元凶である第二皇子と知ってしまえば、穏やかで呑気な村長の顔を続けてはいられない。

「第二皇子ラディクスってさぁ⋯サリアさんを死なせた、真犯人ってヤツだよねぇ?」

 初恋は実らなかった。それでも彼女が選び、幸せになれるのならと見送った。だがその後、幸福とは程遠い最期を遂げる事になった、憧れの人。

 恋した人の仇を許せるほど、ジェロアもお人好しではない。



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