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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十八話 Insidiae

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 左手で魔石を持ち、ゼフィラは右手を翳した。淡い碧色の輝きを帯びた風が舞い、スペラの姿をした魔物へ絡み付いていく。その身を焼いていた白い炎をさらに燃え上がらせると同時に、耳を劈く奇声をも風の中に閉じ込めていた。

 碧色の風は刃となり壁となり、セイレーンの不快な音波を遮断しながら身を切り裂いていく。血ではなく黒い魔力が噴き出す傷口は、的確にジェロアの白い炎がまとわりつき、再生すらも許さなかった。

「ゼフィラちゃん、すっご~い!」

 楽しげに魔法の感想を述べるフィデスだが、しかし当のゼフィラ本人は目を丸くしていた。

「⋯⋯何、ですか⋯この、出力は⋯⋯?」

 風を操り、真空と刃を生み出す魔法は普通に扱える。ゼフィラが放ったものは『普段から使っている魔法』でしかない。しかし実際の威力は桁違いなほどに跳ね上がっている。

「あはっ!レヴィって、そういうトコあるんだよね~。ルティ君の魔力なんて置いていったら、みんなの魔法も爆発しちゃうかもって、分かっててやってるよ~?」

 それこそが、ルティウスのあの小さな身体に秘める、膨大な魔力量のなせる技。

「⋯理解しました。殿下に魔力制御を指南されるレヴィ様のお気持ちが、良く分かりましたわ」

 常であれば恐ろしく感じるほどの威力。けれど今この場に於いては、好都合でしかなかった。

「ジェロア様、リーベル様、ご準備を!」

 白い炎を維持し続けるジェロアは澄んだ声を聞き届けると、振り返ること無く視線を上げ、ゼフィラが放つ風の動きを注視する。同時に戦い方を知り尽くしている旧友へと、合図のように声をかけた。

「リーベルぅ、ほら⋯今回はちぃと色が違うけどな。いつものアレ⋯いくぞ?」

 ニヤリと笑みを浮かべながら、有無を言わさずに右手を掲げ、リーベルが握る長剣へと魔力を向ける。

「ちょっ、待ておい!」

 慌てるリーベルなどものともせず、ジェロアの魔力は刃の全てを覆い尽くし、真っ白な炎を纏わせていた。

「⋯⋯あっち!くそっ、加減しろよ!本気で俺まで焦げるぞ?」

 文句を垂れながらも両手で握っていた剣を構え、風に切り刻まれるスペラの姿をした魔物を睨み付ける。

「はっ?燃えるわけないじゃん?あの保護者さんの水の魔力がさ、こんなに俺らを守ってるんだぜ?」

 事実として、熱さを感じたのは一瞬だけ。柄を握る指先を微かにずらしてみても、触れているはずの白い炎は肌を焦がすどころか、熱さではなく心地よい温もりを感じさせていた。

「わぁっ!オジサンも、ルティ君みたいな魔法剣、使えるんだねっ?」 

 結界を維持したまま状況を眺めていたフィデスの一言に、リーベルは嬉しそうに笑みを浮かべる。

「へへっ⋯ま、ルティウスみたいに、自前で魔法は使えねえけどな?」

 リーベルの力量を熟知しているジェロアが居てこそ発揮出来る、魔法剣と呼ばれる技術。それはルティウスだけが使えるものではなく、叔父のリーベルも条件さえ揃えば扱えるものだった。

「おう、リーベルよ!無駄口叩いてる暇ぁ無いぜ?そろそろお姫さんの風が、アレの化けの皮を剥がしきるだろ?」

 一時も目を離さないジェロアの視線の先では、切り裂かれて漏れ出る魔力に身を包み、次第に本来の姿を露見し始める魔物の姿。


 濁った緑色の羽根を持ち、振り乱していた長い黒髪の代わりに頭部を覆うのは、極彩色の羽毛が混じるくすんだ金の髪。

 元は海洋に現れ、船乗りを惑わす魔物、セイレーンそのものであった。


「今です!」

 声高に叫ぶゼフィラの一言と同時に、死に体の形相でジェロアに向けて突進するセイレーン。振り上げられた羽根から舞う極彩色の小さな羽毛の刃が、白い炎を放ち続けるジェロアを切り裂こうと無数に飛来する。

 しかし、ジェロアが回避を考える必要も無く、飛翔する羽毛の刃は一つとしてジェロアの身体には届かない。

「⋯させねえよ」

 白炎を纏う長剣を軽く振り下ろし、一閃で全てを薙ぎ払うリーベルが、ジェロアを守護するべく立ち塞がっていた。

 迎撃に動くのは、リーベルだけではない。

「飛ばれちゃうと厄介だからね~。ちょおっと、地面に張り付けさせてもらうよ~?」

 御者台に座ったままのフィデスが愉しげに呟き、手を翳す事もしないまま土の竜としての力を振るった。

 地面が隆起し、ふわりと宙に浮くセイレーンに向けて細長く鋭利な岩が伸びていく。死角から幾重にも生じた岩の棘は硬質さを感じられないほど柔軟に動き、まるで蔓のようにセイレーンの羽根を貫き拘束していた。

 当然のように断末魔のような奇声が発せられるも、その声はゼフィラの風によって抑え込まれ、目の前に立つリーベルの耳にすらほとんど届かない。

「残念だったなぁ?こっちにはよ、最強の坊ちゃんと保護者の置き土産があるんだ。セイレーン如きで俺らをどうにか出来るなんて、考えが甘いんだよ?」

 白く燃える剣先をセイレーンの喉元に突き付け、リーベルはキツくその異形を睨み付けた。



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