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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第二話

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18/156

0018

 夕飯の準備が出来ていると呼ばれた事を思い出し、二人は部屋を出てフィデスが居るだろう場所へ向かう。渡された聖石のおかげなのか、今までよりも他者の気配を探りやすくなり、広くもない家の中なのも相まって迷う事なく辿り着いた。

 しかし食事の用意がされた部屋へ入るなり聞こえてきた第一声が、ルティウスを再び項垂れさせた。

「おや?もう終わったのかい?」

「いや…何も終わってなければ始まってもいないから」

 勘違いしたままなのか、こちらを揶揄っているのか、あるいは両方なのか。にこやかに手招きするフィデスに従って二人も席に着く。用意された食事は豪華ではないが、丁寧に盛り付けられており食欲を唆る。

「お口に合うかわかんないけど、どうぞー」

「言いたい事はあるけど、とりあえず…頂きます」

 勘違いの訂正と文句は食べてからで良い、そう決めてルティウスは食事に口を付けていく。予想以上に美味で、いくらでも食べられそうなほどだ。

 しばらく無言のまま食べ続けていたルティウスが手を止めたのは、二人の視線を感じた時。

「……えっと、何か?」

「いや、ルティ君、すっごい綺麗に食べるなぁって」

「……そうか?普通じゃない?」

 今まで気にした事など無い食事の仕草について言及されるが、心当たりが何も無い。城でも別邸に移ってからも、さして変わりは無かった…本人はそう思っている。

「なんていうかね、所作が綺麗なんだよ~」

 だがその一言でルティウスも気が付く。物心つく前から指導されていたテーブルマナーと作法。皇子として、人の目を引けるほどの美しい所作を身に付けるべきと、厳しく教わり続けていた。

 皇族としての育ちしか知らないルティウスには、それが特別な事という認識は無い。

「もしかして~、ルティ君て、いい所のお坊ちゃん?」

「いや、えっと……」

 皇子である事は伏せていたいのに、まさかこんな所でボロが出るとは思わなかった。今更崩す訳にもいかず、また崩し方も知らないルティウスは困惑し手を止めてしまう。

「訳ありとか言ってたもんね~、もしかしてその辺りの事かな?」

「…そ、そんな感じだ」

 返答に困り視線を泳がせていたが、フィデスは勝手に納得し、この話はこれで終了とばかりに食事を再開した。

 それまで無言を貫いていた隣のレヴィを横目で見るが、気にした素振りも無く淡々と食べていた。下手な助け舟を出そうとすれば余計に拗れる可能性を考えでもしたのだろう。

 指摘されるまで気にした事も無かった食事の所作について、レヴィの手つきをちらりと観察してみる。こいつだって綺麗に食べるだろう!そう言い返したい気持ちに駆られるが、言葉は心の奥底にしまい込んだ。それ以前に神も普通に食事をするのかと、異なる思考がルティウスの脳内を駆け巡っていた。


「さて、ご馳走様!明日は夜明けくらいに出発しまぁす!お風呂も準備出来てるから勝手に入ってね~」

 浴室のある方向を指差しながら、食事を終えたフィデスが翌日の出発について伝達する。使用した食器を片付けてから先に自室へ戻ると告げる少女の姿を見送る頃、ルティウスとレヴィも食事を終えていた。席を立ちフィデスに倣って食器を片付けると、揃って部屋から出る。

「あ、俺は風呂に寄っていく」

「なら私は先に部屋へ戻ろう」

 廊下でレヴィと別れ、一人用と思われる浴室へと向かう。当然だがかつての住処にあったものとは広さが段違いである。これが一般的なサイズなのだろうと認識を改めて、それまでの汗や疲れを洗い流していった。

 風呂から上がり部屋に戻ると、レヴィが椅子に座って窓の外を眺めている姿が目に入った。空に雲は無いようで、満点の星と白く光る月が浮かんでいる。月光の差し込む静かな部屋の中、レヴィの白銀の髪が輝いているようにさえ見えて、思わず息を飲んで見惚れてしまう。

 ルティウスの存在に気付いたレヴィが振り返り、にこりと微笑んだ。

「おかえり」

「あ、うん…何してたんだ?」

「少し外の様子をな」

「何か気になる?」

 見惚れていた事を誤魔化すように何気なく訊いた一言の後、レヴィは再び視線を外へ向けた。

「この辺りは、水脈が張り巡らされている。けれど少し離れた位置で、完全に途切れている」

「…原因が気になるって事?」

「………………」

 話せば返してくれるものの、どこか意識は別の方へ向いているようだった。言葉が途切れたところで首を傾げていると、唐突に振り返ったレヴィが椅子から立ち上がり、ルティウスの濃い緋色の髪へと手を伸ばす。

「まだ濡れているな」

「風呂上がりだからね」

 当然だろうと返すルティウスの首元で、聖石がほのかに輝きを帯びる。これはレヴィが魔力を使っている証。

 そのまま何も言わずに、レヴィの手がルティウスの髪を撫でていく。少しだけ長い襟足を指先で絡め取り、毛先まで滑らせて最後には手を離す。ただそれだけの事で、濡れていたはずの髪は乾いていた。

「え、乾いてる…?」

「水気を操り余分なものだけ弾いた。それだけだ」

 またもや神の片鱗を見れた気がする。普通の魔法でそんな芸当が出来るとは聞いた事もない。

 そして首の石は光ったが、疲労した感覚は全く無い。本当に微々たる魔力だけでそれが出来たのだろう。

「結局魔力を借りる事にはなるが、これで少しはルティの助けにもなれるだろう」

 言いながら再び椅子に腰を下ろすレヴィは、どこか嬉しそうに見えた。何も出来ない事がきっと許せなかったのだろう。ルティウスにもその気持ちは理解出来た。

「フィデスが、明日は早いと言っていた。もう寝ておいた方がいい」

「あ、うん。レヴィは?」

「お前が寝付いたら私も眠るさ…それとも、また寝かしつけて欲しいか?」

「一人で寝られるよ…」

 揶揄い混じりに言われて溜め息が零れる。神からすればまだまだ幼子にも等しいだろうが、人としては既に大人なのだと主張するように、ルティウスはベッドへ潜っていく。

「……また、襲うなよ?」

「それはおねだりか?」

「違うよ!おやすみ!」

「あぁ、おやすみ」

 レヴィへ背を向けるように壁際へと寄っていくルティウスは、少し経つとすぐに寝入ったのか動かなくなる。強気で時々頑固で、けれど純粋過ぎるほどに素直で…。

「本当に、可愛らしいな……」

 誰に聞かれる事も無い小さな呟きは、夜の闇に溶けていった。



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