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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第三話

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0017

【(今更の)キャラ紹介①】

ルティウス

帝国の第三皇子。十八歳。数少ない魔法剣の使い手。水の加護を得ているが得意なのは火炎魔法。生まれつき保有魔力量が多い。

本当は甘えん坊。


レヴィ

水の竜神。蒼色の角と翼を有する四翼の水竜。数千年を生きており各地に神話や伝承を残しているが、本人は大した事はしてないと思っている。ルティウスに対して過保護になりがち。

力の大半を封印されているが、ルティウスによる魔力供給を得てある程度の事が出来る。


フィデス

土の竜神。二対の角と一対の翼を有する土竜。竜としては他の竜神よりも若く格下だが、レヴィとは古い付き合い。

見た目だけは天真爛漫な少女。

力の大半を封印されている。




 生まれて初めて、俺は空を飛んでいる。そこから見える風景はとても広大で、目を凝らせば山の向こうに俺の国、グラディオス帝国の皇都とその中央に建つ城の尖塔も見えた。

 空の上から見下ろす景色は、今までに体験した事のない感動を俺に与えてくれた。身体に残る疲労や様々な懸念、目的さえも忘れて景色を楽しんでいたが、そんな時間は唐突に終わりを迎える。

 俺を抱えて飛ぶレヴィが打ち明けた事実に言葉を失うが、それよりも気に掛かるのは、打ち明けた本人があまりにも辛そうに表情を歪ませていた事。

「…レヴィ?」

「………」

 声を掛けても彼は反応しない。苦し気に瞳を伏せて俺から目を逸らしている。その様子に、打ち明けるかどうか思い悩んでいたのだと察する。本当は伝えたくなんてなかったのだと、言っているようなものだ。

「本当に……モアを消滅させたはレヴィなのか?」

「…………」

「ずっと黙っていたのに、どうして俺にそれを教えるんだ?」

「…………」

 隠し事の多い神様は、重要な事ほどはぐらかして話そうとしてくれなかったのに。

 今もこうして、事実を伝えるだけ伝えてだんまりだ。そんなレヴィに、俺は何だか腹が立った。

「バカ!」

「ッ…」

 両手を動かしてレヴィの顔に添える。そのまま頬を掴んでぐいっと引っ張った。大して膨らみの無い頬が伸びて、整った顔が大変に不細工な事になっている。思わず吹き出しそうになるけど堪えて、俺の目を見るようにそのまま手のひらでレヴィの顔を挟み込んだ。

「そんな話をされたら、聞かないようにしてたのに聞かなきゃいけなくなるだろ。何でそんな事をしたんだ?って」

「…ルティ」

 レヴィが何の理由もなく国を消すような暴挙に出る訳がない。まだ彼の事をよく知らなくても、それだけは確信を持って言える。

「ちゃんと、話してくれるか?」

 彼がそれを話すのなら、きちんと受け止めようと思う。話したくないのならそれまでだ。最初に決めていた通り、彼が話そうと思えるまで待つ。ただそれだけなのだ。

「…少しだけ、待ってほしい」

「わかった」

 俺が答えると、どこか安堵した様子のレヴィがゆっくりと地上へ降下を始める。湖面へ近付いてきたところで再び翼を羽搏かせて、フィデスがいる場所へ戻るように飛んだ。

 そんな移動の間、俺を抱きかかえる彼の腕に少しだけ力が込められるのを感じていた。


 最初にいた場所へ戻ると、遠目から倒れているように見えていたフィデスも起きていて、地面に座り込んだまま手を振って俺達の帰還を迎えてくれた。目の錯覚では無かったようで、彼女の頭にはやはり二対四本の黄金の角が生えている。

「おかえり~!いやぁ本当にお疲れ様だよ、ルティ君にレヴィも」

 自身の正体が露見している事に気付いていないのか、何事もなかったかのように対応するフィデスをどこか冷めた目で見てしまう。どう指摘するべきか思案したが、やはり直球が一番だろうと決断した。レヴィの腕から降ろされた俺は彼女の前に立ち、事実をそのまま確認の意味で問う。

「フィデスも竜神だったんだな」

「えっ?あ……あ!しまった角が!」

 やはり気付いていなかったのか、慌てて自分の頭に存在する人ではない者の証を触り、途端に暗く落ち込んでいくフィデス。そんなに正体を知られたくなかったのだろうか。

「何で竜神なのを隠してたんだ?」

「……それは、え~と…」

 硬い地面の上で何故か両足を揃え正座する小さな少女の神様。仮にも神であるというのに、そんな威厳はフィデスから全く感じられない。彼女を信仰する者がこの場に居たら、本当に俺が断罪されかねないなと溜息が出る。まるで悪さをした少女を叱る父兄か何かのような図に見られてしまうだろう。

「言いたくないなら別にいいよ。ただ……さっき、手を貸してくれたのはフィデスなんだろ?」

 おそらくフィデスの力によるものであろう地面の隆起。それによって死霊王を倒す事ができたのだから、手助けしてくれた事への感謝は伝えなければならない。

「あ、うう、うん!ボクにできるのはあれくらいしか無かったけど…役に立てた?」

「あぁ、とっても役に立った。本当にありがとう」

 なんだか委縮して縮こまっているように見える少女の頭を撫でて、俺はきちんと伝えた。それは彼女も、自分から俺に伝えるべき事があるだろうという示唆で、彼女から話してくれるよう密かに促している。

「で、どうして竜神なのを隠していたんだ?」

「そ、それは~……」

 再び視線を落とし言葉に詰まる様子のフィデスの前で、俺もまたその場に座り込む。レヴィは彼女が同族である事を知っている素振りだった。ならばフィデスもレヴィが竜神である事を知っていただろう。最初からそんな神を伴っていたのだから、俺が竜神の存在を知らないはずもない事は少し考えればわかったはず。

「…ボクさ、利用された事があってね?」

「利用…?もしかして人間にか?」

 フィデスは頷いた。それが、人間である俺に正体を隠そうとした理由なのだろう。出会ったばかりで素性もよく知らない人間に警戒を抱くのは当然だろうと納得した。

「…わかった。今はそれ以上は聞かないよ」

「えっ?」

「だって言いたくないんだろう?」

 人にだって隠したい秘密の一つや二つは絶対にある。神にもそうした秘密があったっておかしくない。強引に聞き出して暴くのは無粋だ。俺はそうして話を終わらせ、二人に向けて今の俺の素直な気持ちを打ち明けてみた。

「…とりあえずさ、解決したのなら………帰って休みたいんだけど?」

 正直、身体はまた疲労している。底を尽く事は無かったものの、魔力もだいぶ減少しているのが自分でわかる。今までに扱った事のない規模の魔法を行使したせいか、全身には倦怠感が残り続けていた。降ろされはしたが、あのままレヴィに運んでもらいたいとすら思ってしまうほどに。

「そうだね…うん。ここはもう、放っておいても自然の力で勝手に元に戻っていくし…」

 湖として生まれ変わったクレーターを今一度振り返って、フィデスは少しだけ嬉しそうに瞳を細めた。彼女にとってもこの場所は、何か思い入れのある地なのだろう。

 そんなフィデスを見守りながらも、俺は一足先に帰路へ着こうと立ち上がった。しかし歩き出した瞬間に極度の立ち眩みを覚え、その場に膝を着いてしまう。

「ッ…何、だ…?」

「ルティ?」

 咄嗟に腕を伸ばしたレヴィに身体を支えられて何とか踏み留まるが、眩暈は止まずレヴィの腕にしがみついてしまう。意識だけは保てているけれど、気を抜けば途切れてしまいそうな程だ。

 この感覚にはどこか覚えがある。まるでレヴィから魔力を吸われた時のような、急な脱力感。

 直後、レヴィの腕に再び抱き上げられるのがわかった。眩暈とは違う浮遊感に心地良さを覚え、同時に翼が羽搏く音も耳に届く。

「フィデス、お前も飛べるだろう。急ぎ戻るぞ」

「あ、うん!」

 どこか焦りを滲ませて声を張るレヴィがフィデスを促す。ちらりと視界に映ったフィデスもまた、小さな背に黄金色の大きな翼を広げ空中へと飛び上がる。その姿を追うように空へと舞い上がるレヴィは、今までに見た事が無いほど切迫した表情をしていた。

 何でそんなに焦っているんだ?そう問いたいのに、声は出てこなかった。


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