0158
「ルティくーん、レヴィー、朝だよー!」
勢い良く扉を開け放つ音が聞こえ、沈んでいた意識が浮上する。元気の良い声がフィデスのものだと分かり、ゆっくりと瞼を押し上げた。
「⋯⋯⋯ん、おきる⋯」
呼び声に反応し起き上がろうとしたところで、ルティウスは身体が動かない事に気付いた。
不調は一切感じない。だが身体は何かに拘束されているかのようで、起き上がる事は叶わなかった。
「⋯なんか、動けない⋯⋯⋯」
どうにか首だけは動くと分かり、フィデスが居るだろう扉の方へと向いた。視線の先では、酷くニヤついたフィデスが楽しそうに笑みを浮かべている。
「⋯⋯フィデス?」
「んふっ⋯いやぁ、お邪魔しちゃったかなぁ?」
「⋯⋯⋯え?」
その反応には覚えがある。まるで、初めてフィデスの家に泊まった時のようだ。
まさか?と思い、ルティウスはフィデスから視線を外し、やたらと温もりの感じる右隣へと向いた。案の定、すぐ至近距離にはレヴィの寝顔があり、ルティウスの思考は停止する。
「⋯⋯⋯⋯な、なんで?」
混乱する頭で、ルティウスは必死に昨晩の記憶を辿った。
就寝する時、確かにレヴィは隣のベッドへ入っていった。けれど現在、レヴィはルティウスに抱きつくようにして眠っている。
「れっ⋯レヴィぃ!な、なんでこっちにぃ!」
もう何度もこんな朝を迎えているが、何度目だろうとも慣れはしない。フィデスの視線がある中、慌てて逃げ出そうとしてみるが、伸ばされた腕はしっかりとルティウスの身体を捕らえていて離れられない。
じたばたと暴れているうちにレヴィの表情が歪み、やがてゆっくりと目が開いた。不機嫌そうな金の瞳は真っ直ぐにルティウスを捉え、低い声でぽつりと呟いた。
「⋯⋯やかましいぞ」
「誰のせいだよ!起きろ!っていうか離せ馬鹿!」
そうして喚き散らすルティウスの身体は、さらにレヴィの両腕で抱きしめられ、脱出の余地を完膚無きまでに奪われていた。
「⋯⋯ばっか!離せって、言ってんのに⋯ッ!」
「⋯⋯⋯お前が望んだから、抱きしめて眠っただけだぞ」
不機嫌を集めたような声で発せられた衝撃の事実に、ルティウスはぴたりと動きを止めた。
「⋯⋯⋯は?俺、が?」
気付けばフィデスもベッドのすぐ側まで近付き、詳しく話せと言わんばかりの表情を浮かべて見下ろしている。
必死の思いで記憶を遡ってみても、自分が望んだという覚えは全く無い。
激しい困惑から泣きそうな顔でレヴィを見つめているうちに、溜め息を吐いたレヴィはようやくルティウスを離すと、ベッドの上に起き上がった。
「夜中、ルティが魘されている声が聞こえてな。覗き込んでみたら寒そうに縮こまって震えていた」
「⋯⋯⋯えぇ?」
「どうしようかと考えたがな⋯お前は目を開けて、私を求めるように腕を伸ばしてきた。だから応えたまでだ」
レヴィが経緯を言い終える頃、ルティウスは両手で顔面を覆いベッドの上で蹲っていた。
いつの間にか椅子に座りニヤニヤしたままのフィデスが、至極楽しそうに話を聞いている。
「もうさ、宿をとる時、キミ達の部屋はベッド一つでいいんじゃないかな?」
「駄目だろ!」
あまりにも突拍子のない発言に、羞恥心もかなぐり捨てて起き上がりルティウスは叫んだ。
けれどすぐに小さな身体は、レヴィの両腕に捕らわれる。
「ちょっ⋯おいっ、レヴィ!まだ寝ぼけてんのかよ!」
「⋯あぁ、そうかもな」
「ッ!馬鹿、そこにフィデスもいるのに⋯!」
後ろから抱きしめられ、肩口から聞こえる声に思わず力が抜けてしまう。こうなったレヴィは満足するまで絶対に離そうとはしない⋯。諦めて、背中に感じる温もりへと身を預けようとした矢先、部屋に響き渡るのは賑やかな声。




