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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十四話

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 旧友の言う通り、人の力で叶う相手ではなかったと、惨状を思い返してリーベルは視線をどこか遠くへと向ける。それと同時に、大切な甥が秘めている力の凄まじさと、まだ若いルティウスに圧し掛かる運命の重さを感じ、胸を痛めていた。

「ま、詳しい事は俺の口からは言えねえんだけどな」

「……リーベルの甥っ子君、凄い子なんだな」

 口振りから察するに、ジェロアもまた山脈に巣食っていたあの蛇を打倒しようと画策はしたのだろう。責任感の強い旧友の性格ならばありえる話だと、リーベルは目を細めた。

「で?リーベルがわざわざ俺を訪ねてきたのは、その報告とか顔を見るためとかいう可愛らしいモンじゃないんだろ?」

 空いたグラスに酒を継ぎ足しながら話すジェロアは、普段よりも少しだけ口数が増えている。酔い始めているのだろうが、顔色に出ないせいで相変わらず分かりにくい。

「⋯⋯その甥っ子の相棒がな、俺にはどうもしてやれないダメージが残っちまったようでな」

 グラスに口を付けたまま僅かに固まったジェロアが、視線だけをリーベルへと向ける。

 大抵の事は対処出来るだけの知識と経験を備えているリーベルに対応出来ないもの⋯その一言だけで、ジェロアは察した。

「⋯魔法的なダメージって事か?」

 静かに頷くリーベルを真っ直ぐに見つめ、グラスをテーブルへと置いたジェロアは腕を組んで思案する。

 剣士としての道を貫いたリーベルに対し、ジェロアは魔道士として共に旅をしてきた。そして独学で魔法を習得したという過去を知るからこそ、魔法の才が無いと事ある毎に自嘲するリーベルが頼ってきたのだという事情も察した。

「⋯症状とか、何か具体的な事は分かってるのか?」

「ん~⋯俺からはどう説明すりゃいいものか⋯⋯」

 当然ながら、リーベルが危惧しているのはレヴィの核の損傷について。ゼフィラやウェンティはおろか、フィデスまでもが匙を投げた状態にある今、藁にも縋る想いでこの村に居ると知るジェロアを訪ねていた。


 全ては、レヴィを大切に思っている甥の憂いを取り除きたいが為に。


「う~ん⋯詳しくは分からないか、俺にも話せない事情があるんだな?」

「まぁ、そういう事だ。悪いな…あんまり情報も渡せないまま相談する形になっちまってよ…」

 頭をがりがりと掻きながら謝罪するが、ジェロアは僅かに表情を緩めて首を横に振った。

「いつもの事だろ?全く…相変わらず人が良すぎるんだよ、リーベルは」

 再びグラスを手に取り、ゆっくりと飲みながら思案するジェロアに釣られて、リーベルもまた酒を口に運ぶ。しばしの沈黙が流れるものの、何かを思い出したように彷徨っていた視線がリーベルへと向けられた。

「…そういえば、随分昔にちらっと見かけた古い文献にさ、書いてあったんだけど…」

 空いた二つのグラスに酒を継ぎ足しながら視線だけをジェロアへと向ける。気付くと開封したばかりだったはずのボトルは軽くなっていて、思わず意識が酒の残量へと向いてしまう。

「長い時間をかけて魔力が凝結し、結晶となった『星の雫』っていう宝石があるらしいんだけどさ…」

「……宝石?」

 怪訝な表情で問い返すと、ジェロアは一息でグラスに残っていた酒を煽り、笑みを浮かべて語った。

「ただの宝石じゃないって事だ。なんせそいつは、数百年に一つしか生まれないような代物らしい。古代では、その『星の雫』を巡って戦争が起きた事もあるらしいからな!」

 ただの宝石一つが持つ価値を示すかのような史実を話すジェロアは、至極楽しそうに目を細めている。

 魔の探求と同じだけ、世界に秘められた歴史や神秘の探求をも好むジェロアを、数千という永きを生きるレヴィやフィデスと会わせたら面白い事になりそうだなと考えつつも、まずは示された宝石について探るのが先と気を引き締め直した。

「で?俺が話した事とその宝石に、どんな関わりがあるってんだよ?」

 再びグラスに注いだ酒をまたもや一息に流し込んでから、前のめりになるジェロアはどこか興奮気味に語る。

「言っただろ?数百年という長い時間をかけて魔力が固まった結晶なんだ。宝石のような見た目で、実質は超高純度の魔石って事だ!」

 その一言で、リーベルも薄らと気付く。

「⋯そいつがありゃ、治せるかもしれねえって事か?」

 期待を込めた眼差しで、リーベルもまた前のめりになりジェロアへと問う。

「⋯⋯⋯⋯そいつは分からん!」

「はぁっ?んだよ、そりゃ!」

 解決の糸口になるかと期待した反動か、リーベルは落胆から握りしめていたグラスを叩き付けるようにテーブルへと置く。溜め息を吐きなが忌々しげに視線を向けるが、ジェロアの表情は変わらない。

「あのなぁ⋯お目にかかった事も無いような超希少な魔石の詳しい効果なんて、ちょっと文献で見ただけの俺が知る訳もないだろう?」

「そりゃそうだろうけどよ⋯じゃあ何だってそんな石の話なんかしたんだよ?」

 脱力しソファの背に深く凭れかかるリーベルも、友の言葉は尤もだと納得はしてしまう。確証が無い中で、滅多な事は言えないというジェロアの気持ちも理解出来る。

 けれど真剣な表情をしたままのジェロアが視界に映り、リーベルの意識も引き寄せられていた。


「ただな?文献にはこう書いてあったんだ⋯⋯えぇと⋯『星の雫は神がもたらした奇跡。星の根と繋がり生命を潤す。選ばれし者の御許にて⋯──』⋯あ~、この先少し文字が掠れて読めなかったんだよな⋯。で、最後はこうだったかな。『望む者に神秘なる恩寵を与えん』⋯⋯だったはずだ」


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