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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十四話

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0155

 レヴィの指導によるルティウスの魔力制御訓練が行われている頃。


 日が沈むとともに単独で行動していたリーベルは、ラテーレ村のとある場所へと足を運んでいた。

 他の家々よりも幾分か堅牢な造りをしている建物が、村の外れに存在している。数年振りに訪れたその家に居るのは、リーベルにとっては気の置けない昔馴染み。

「覚えてっかな、あいつ⋯」

 ぽつりと呟きながら、扉を三回ノックした。

 直後、家の中から激しい物音が聞こえてきた。まるで慌てて家財道具の何かを倒しでもしたような音に、リーベルも思わず一歩だけ後退りした。

「⋯⋯三回ッ!やっぱり⋯リーベルじゃないか!」

「よっ!久し振りだな、ジェロア!」

 三度のノック、それはリーベルであるという密かな合図でもあった。

「って、え?何でこんなとこに居るんだ?リーベルのとこの街は?自警団は?」

「辞めてきた」

「は?何でッ⋯!」

「とにかく落ち着けよ⋯」

 突然のリーベルの来訪を喜びながらも、慌てふためくジェロアと呼ばれた歳若き風貌の男は、リーベルに宥められるまで一人喚き続けている。

「何でだよ⋯だって、甥っ子君のために街を守り続けるんだって、あんなに意気込んでたじゃないか⋯辞めるなんてそんな⋯」

「だから落ち着けって!」

 自警団長を辞めてきたリーベル本人よりも、酷く狼狽え落ち着きのないジェロアの肩を両手で掴み、意識を自分へと向けさせる。

 この慌てっぷりさえ無ければ優秀な奴なのに⋯そんな事を心の中で呟きながら苦笑を浮かべて、僅かに見上げてくる友人に向けて笑い、端的な顛末を告げる。

「その甥っ子も、今は一緒に居るんだよ」

「⋯⋯⋯はぁ?」

 首を傾げるジェロアだが、リーベルの性格をよく知るからこそ発言に嘘が無い事も分かっている。

「と、とりあえず…こんな所で立ち話もなんだ。入りなよ。少しなら、酒を出してやってもいいぞ?」

 どうやら少しだけ冷静さを取り戻したようで、ジェロアは落ち着いた声で促しリーベルを家の中へと招き入れた。


 家の中は、いかにもといった男性の一人暮らしの様相。誰とも家庭を築く事もせず単身を選んでいるのは、旧友への思慮があったからこそ。

「相変わらず、お前さんには女の影も感じねえな?」

「リーベルこそ、人の事言えないだろ?」

 通されたのは少しだけ広い客間。照明用の魔石も使わずキャンドルの灯りだけが照らす薄暗い部屋は、かつて二人で通っていた飲み屋を彷彿とさせ、懐かしさから表情を綻ばせていた。

 テーブルの上に置かれたブランデーのボトルを開け、冷えたグラスに酒を注ぐジェロアの手つきは慣れたもの。そしてリーベルがどういう酒を好むのかも、知った上で選んだのは未開封だった新品のボトル。

「なぁそれ、高いヤツなんじゃねえのか?」

「うわっ、リーベルがそんな事を気にするなんてな。全く、時の流れを感じるよ」

「うるせえな」

 酒が入ったグラスを手に取り、軽く持ち上げる。静かに視線を交差させてから、久方ぶりの再会を喜ぶように酒を酌み交わした。


 かつて、リーベルとジェロアは共に世界を巡り、あらゆる未知を追い求めていた。仲間として背を預け、危地を潜り抜けた事も一度や二度ではない。

「⋯相変わらず、そのデカい剣を持ってるんだな」

 ちらりと視線を流し、壁に立て掛けている長剣へと向いたジェロアは、またも懐かしそうに瞳を細めている。

「ったり前だろ?俺からあいつを取ったら、ただの冴えないオッサンにしかならねえよ」

 グラスを傾けながらリーベルは軽い口調で言うものの、ジェロアにとってはただ懐かしいという話では終わらない。彼があの剣を持っているという事は、それなりの危険も付き纏っている何よりの証でもあった。

「なぁ、リーベル」

 グラスを手に持ったまま、ソファに深く腰掛けて口を開くジェロアの表情は、どこか真剣なものに変わっていた。

「お前、アムニシア側から来たんだよな?」

「そうだ」

 テーブルを挟んで向かい側に座るリーベルもまた、緩めていた表情を締めてジェロアを真っ直ぐに見返す。

 その眼光には、酒好きな気のいい男の緩い輝きなど無い。

「山脈の峠道は、ここしばらく『普通に通り抜けられる状態じゃなかった』はずなんだけどな。どうやってこっち側まで?」

 核心を突くように発せられた問いにも、リーベルは顔色一つ変えはしない。

 ジェロアならば知っていて当然⋯リーベル自身もそのつもりでここに来ていた。

「さすがに鋭いな。ま、ジェロアなら気付くよな⋯」

「当たり前だろっ!十年ぶりとはいえ、リーベルとどれだけ一緒に行動してたと思ってんだ?」

 話しながら思い出すのは、アムニシアで聞いた情報のひとつ。


──今は少し閑散としておりますからね⋯──


 宿泊した宿の受付が話していたその一言。

 ヴェネトス公国への道として、誰もが知るアムニス山脈の峠。そこへ繋がる玄関口でもあり旅人の往来が絶えないアムニシアで、高級宿だとしても閑散としている事などあるはずがない。

 カリエスの存在が旅人の足にも影響を及ぼしていた事は、既に予想出来ていた。

「俺の連れ…まあ件の甥っ子とその相棒がな、峠道に影響を与えていたヤツを消滅させてくれたんだよ」

「…本当かよ!あれ、人の力でどうにかできるモンじゃなかっただろ!」

 心底驚愕したように目を丸くするジェロアだが、リーベルは事もなげにグラスを傾けながら話した。

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