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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十四話

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「お前に、話がある」

 真正面からルティウスを見下ろして、それまでよりも真剣な表情をしたレヴィが切り出す。

 ルティウスを想うが故に伏せていた、レヴィの想い。隠した事で今回のような惨劇を招くのならば、打ち明けるべきだと考え続けていた。

「……うん」

 何を話されるのか、ルティウスも薄々勘付いている。レヴィにとって大きな過去の傷…その話だと、朧げにも察していたから。

「……私はルティに、別の者の面影を見ていた」

「…………」

「ルティ自身を見ているつもりで、心のどこかで重ねていた」

 懺悔のように語られる言葉は、ルティウスに『やっぱり』という気持ちを抱かせた。

 誰かの代わりかもしれない、そんな予感が的中していたのだと。

「それって……アリアって人?」

 表情を変えないまま、ルティウスは核心を問う。レヴィが寝言で呟いた名前であり、オストラも言っていた女性の名前。

「…フィデスにでも聞いたか?」

 少しだけ目を見開いたレヴィだったが、金の瞳は揺らぐ事なくルティウスを見下ろしている。

「フィデスは、そういうのバラしたりはしないだろ」

「……それもそうだな」

 息を吐くように笑うレヴィが視線を逸らし、ルティウスを見下ろす体勢から離れていく。ベッドに座ったまま窓の外へ向けられた金の瞳は、いつもよりもずっと優しいものになっていた。

「以前話した、モアの聖女…彼女の名がアリアだ」

「…そんな気はしてたよ。大切な人だったんだろ?」

 ゆっくりとルティウスも起き上がり、アリアについて問う。少しの沈黙が流れるも、意を決したかのように口を開いたレヴィが語る。

「彼女は、ルティに似ていた。小柄な外見も、髪の色も……何より、図太く頑固なところが似ているな」

「図太く頑固で悪かったな!」

 褒められた気はしない。そうして拗ねた口調で返すと、レヴィは笑っていた。

「………愛していた。心から…」

 絞り出すような声で告げられた一言。レヴィは俯き、白い大きな手を強く握り締めていた。

「守れなかった……私を庇ったせいで、アリアは………」

 その時、ルティウスの中で点と点が繋がった。

 呪いの花が放つ閃光からレヴィを庇い、死の間際に陥るまで呪いに蝕まれた時の事。何も知らないまま、ルティウス自身がレヴィの傷を掘り起こしてしまっていたという事実。

 どうしてあれほどレヴィが取り乱していたのか、理由を知れば納得出来てしまう。

「レヴィも、俺と同じなんだな」

「………え?」

 だがルティウスは平然と返す。

 発せられた一言の意味が理解出来ずに振り向くレヴィは、どこか困惑したような目をしてルティウスの言葉を待っていた。

「誰かが、自分のせいで死ぬのが怖いんだ⋯俺は母様に守られて、レヴィはそのアリアって人に助けられて⋯うん。同じだよ」

 種も、生きた年月も、価値観も違う。けれど同じ悲しみと恐怖を抱いているのだと知り、ルティウスは決意したように顔を上げ、レヴィの瞳を真っ直ぐに見上げた。

「俺、気を付けるよ。レヴィだけに辛い気持ちを押し付けてしまわないように」

「⋯⋯⋯ルティ」

 真っ直ぐに思いの丈をぶつけ、曇りのない蒼い瞳で見上げてくる姿は、喪ったアリアを彷彿とさせてしまう。重なる面影に表情を歪めるレヴィだったが、ルティウスもまたレヴィの動揺を見抜いている。

「⋯だからさ、ちゃんとレヴィも⋯思う事があるんなら俺に押し付けろよ。ほら⋯⋯⋯俺は、図太いんだから!」

 少しだけ根に持っていた『図太い』というレヴィの発言。意趣返しのように引き出せば、後悔と苦悩に染まっていた表情には笑みが浮かんでいた。

「⋯そうだな。ルティは、本当に⋯アリアよりも図太く頑固だからな」

「比較すんなよ!ってそれよりも、アリアって、女の人なんだろ?女性に図太いなんて失礼なんじゃないのか?」

「フッ⋯⋯いや、彼女は、むしろそう在ろうとしていたんだが」

 いつの間にか、レヴィは笑っていた。

 過去を語る時、いつも苦悩と後悔に満ちた声で話していたレヴィは、笑いながらかつてを思い出している。

「ダメだろ!あーもう⋯やっぱりレヴィには人の常識ってものを教えないと⋯⋯⋯」

「必要ない。竜である私に人の常識など⋯──」

「オストラと同じ事言うなよ!ほんっと変なとこそっくりだな、あんた達は!」

「奴と同じにするな。それこそ失礼だろう」

「そこは否定すんのかよ!」

 気付けば不毛な口論になり掛けていた。僅かに睨み合っていたが、その表情はすぐにも笑いに変わった。

「⋯⋯なぁ、レヴィ」

「何だ?」

 笑いが落ち着いてから、視線を逸らしレヴィの隣に座るルティウスが、ぽつりと呟く。

「もっと、聞かせてよ。昔のレヴィの事」

「そんなに知りたいか?」

「知りたいよそりゃ。だってレヴィは俺の⋯──」

 そしてルティウスは言葉を途切れさせた。何を言おうとしたのか、自分でも分かっていない。

「俺の……何だ?」

 少しだけ不敵な笑みを浮かべるレヴィが、顔を近付けて言葉の先を促そうとする。

「何でもない!」

「気になるな。今、何て言おうとしたのやら…」

「うるさいっ!」

 いつものように不貞腐れ顔でそっぽを向くルティウスは、だが心の底から安堵していた。

 そしてレヴィもまた、背を向けているルティウスの頭を撫でる。

 今度こそ、本当に取り戻した。

 普段と変わらない悪態をついて背を向けたルティウスを見る瞳は、穏やかに細められていた。


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