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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十四話

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 聞こえてくるのは、眠り続けているルティウスの穏やかな寝息の音だけ。

 まだ倦怠感の残る身体を動かし、すぐ隣にあるベッドの端へと座る。

「………ルティ」

 柔らかな緋色の髪を撫で、そのまま流れるように頬へと触れる。白い肌は温かく、少年が生きているのだという安心をレヴィに与えていた。

「早く起きろ、ルティ。皆がお前を待っているぞ」

 強引に起こす気はない。けれど乞うように呟けば、僅かにルティウスが反応を見せた。

「………ん…」

 小さな声が喉から鳴り、やがてゆっくりと瞼が押し上げられていく。

「……レ、ヴィ………?」

 薄く開かれた蒼い瞳は、すぐにもレヴィへと向けられる。

「…ちゃんと、無事…だよな……?」

「ああ」

「……あいつ、ちゃんと……倒せた…?」

「安心しろ。もう危険は無い」

「………そっか」

 まだ寝惚けているのか、ルティウスは再び瞼を閉じていった。だが直後、閉じられたはずの瞳が大きく開かれ、唐突にルティウスは起き上がる。

「ッ…!レヴィっ!」

 すぐ傍に居るレヴィの白いローブを掴んで、表情を歪ませるルティウスが慌てたように問う。

「大丈夫だよな?どっか喰われたり…怪我とか……!」

「落ち着けルティ。私は何ともない」

 心配そうに見上げてくるルティウスの頭を撫でながら、柔らかく微笑んでレヴィは答える。その一言に安心したのか、ローブを掴んだまま項垂れてレヴィの胸元へと寄り掛かった。

「………良かったぁ…!」

 心からの安堵を見せるルティウスの頭を撫でながら、レヴィもまた深く息を吐いた。

 いつもと変わらないルティウスの姿は、レヴィにも安堵を与えている。

 けれどルティウスは項垂れていた顔をゆっくりと上げて、不安の入り交じる表情を浮かべた。

「⋯レヴィ、あんた⋯⋯⋯」

 頼もしくも大きく、そして強い輝きを放っているように感じていたレヴィの魔力が、どこか歪になっている。輝きは僅かに弱まり、圧倒的な存在感を誇っていたはずがその威容も衰えている。

「⋯⋯気付いてしまうか」

 ルティウスがどうして表情を曇らせているのか、その理由はただ一つ。

「何でそんなに⋯ボロボロなんだよ?」

 見抜いてしまったのは、レヴィの核が傷付いているという事実。穏やかな笑みで見下ろしているからこそ、彼が無理をしているのだと分かってしまう。

「あの蛇の毒で損傷したらしい。時が経てばそのうち治るはずだ」

「はず、って⋯⋯」

 ただの憶測でしかない。核が傷付くなど、レヴィですら初めての事。けれどルティウスを不安にさせない為にと、表情を変えはしなかった。

「俺のせい、だよな⋯急にいなくなったから、そのせいで⋯⋯」

 全ての発端は、レヴィに黙って姿を消した自分のせい。子供のような悩みを抱き反発して逃げ出した自分が、災厄に襲われてしまった事が原因。悔し気に俯くルティウスだが、レヴィは優しく頭を撫でるだけだった。

「確かに、黙って居なくなった事は反省しろと言うべきだろうがな…」

 傷を負ったのかもしれない。だがそれでも、レヴィにとって優先されるべきは自分の損傷の有無ではない。

 後悔の念から項垂れるルティウスを両腕で抱き寄せて、優しい声で満足そうにレヴィは告げた。

「こうして、生きて戻っているのだから、それでいい」

 絶対に叱られると思っていた。だが全てを受け止めてしまうレヴィの優しさは、ルティウスであっても危ういと感じてしまう。

「あ⋯甘やかすなよ、レヴィ」

「⋯ルティ?」

「お、俺みたいなのを甘やかしすぎるとさ、大変な事になるんだぞ?」

 心地良い温もりから離れる事はしないまま、ルティウスはどこか必死な声でレヴィへの想いを紡ぎ続ける。

「⋯大変な事とは?」

 頭上から降り注ぐ優しい問い掛けへ、答えるよりも先に両腕を伸ばし、いつも自分を守ろうとするレヴィの大きな背中へと触れた。

「……何でもかんでも、あんたに頼っちゃうじゃん」

 ぼそりと小さな声で呟くルティウスの反応に、レヴィは少しだけ目を見開いた。

 だがすぐに金の瞳を細めて、それまでよりも強くルティウスの身体を抱き締めベッドへと倒れ込んだ。

「…っ、ちょっと…レヴィ?」

 唐突に押し倒されて動揺するルティウスだが、以前のように抵抗はしなかった。

「……そうやってすぐ俺を押し倒すの…やめろよな」

 言葉だけで悪態をついてみるものの、身体に掛かるレヴィの重みを嫌だとは思わず、伸ばしていた手でそっとレヴィの背を撫でた。

「…甘やかせば頼るというのなら、甘やかしてやるさ」

 レヴィの顔は肩口に埋められていて、表情を見る事は叶わない。だがすぐ傍から聞こえてくる声に視線を向けてみると、優しい金色の眼差しと交差した。

「………ていうかこんなところ、叔父様やフィデスに見られたら……また大変な事になりそう…」

 現状、いつぞやのようにベッドの上で抱き締め合っている状態。ニヤニヤとしたフィデスが揶揄い、リーベルが憤怒の表情を浮かべて激昂する姿が想像出来てしまい、苦笑いが零れる。

「…そうだな」

 軽く息を吐いたレヴィはルティウスを離し、上体を起き上がらせた。


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