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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十四話

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 起き上がったばかりのレヴィの隣でベッドに寝転がり、楽しそうに語られた道中での出来事。全てを聞いたレヴィは、再び額を押さえながら項垂れ、悔しげにぽつりと呟いた。

「私が……お前に背負われた…だと?」

 それはレヴィにとっては屈辱でしかない。レヴィがルティウスを抱いて運ぶ事はあっても、自分が運ばれるなど以ての外。

 誇り高い竜は、無様を晒してしまった事に酷く憤っていた。

「まあまあ、それだけレヴィは頑張ったんだからさ!たまにはオジサンに頼ったっていいんじゃない?」

 ベッドの上でゴロゴロと転がって寛ぐフィデスが、間近からレヴィを見上げ明るい声で告げる。

 そんなフィデスを見下ろして、レヴィは諦めたように力を抜き金の瞳を細めた。


 かつて守り切れなかった時、レヴィは誰にも頼る事無く一人きりで全てを守ろうとした。けれど力及ばず、最も大切な存在を失った。

 あの時もこうして誰かが傍に居たなら、守れたのだろうか…と、遥か遠い過去の悲劇を想い後悔を抱いた。


「レヴィ様、気が付かれたのですね?」

 その時、部屋に入ってきたゼフィラの声が聞こえてレヴィは振り返る。

 彼女の隣には、フィデスと同等に小さな、ゼフィラと少しだけ似た顔立ちの少女も立っていた。

「…無事に目覚められたようで何よりです」

 安堵の言葉を吐くその少女は、戦いの最中に何度も周囲を鼓舞し、身の丈以上の光り輝く大剣を振り回していた。その姿だけは覚えているものの、危急の状況だったため素性を探る暇もなかった。

「レヴィさんとこうしてお会いするのは初めてですね。改めまして、私はウェンティと申します。こちらにおります妹のゼフィラが、大変お世話になっているようで…」

 ワンピースの裾を摘み、優雅なカーテシーと共に挨拶をする姿は公女ならではのもの。

 だが当然のようにもう気付いている。彼女はアールに遣わされた存在だと。

「ゼフィラの姉だという事は分かっているが…その魔力、アールの色がゼフィラよりも濃いな…」

 一目見ただけでも違いが明らかなほどに、ウェンティが纏う風の魔力は古き同胞のものに近い。ゼフィラよりも遥かに強い力を受け継いでいると、戦う姿を見ていた時から気付いていた。

「はい。私はアール様の、竜の血をこの身に取り入れ、人とは異なる存在に変容しております」

「……どういう事だ?」

 怪訝な表情を浮かべてウェンティを睨み付けるレヴィだが、しかしすぐにも少女は真相を語る。

「難しいお話ではありません。私はアール様を愛し、そしてアール様も私を愛して下さった。それだけの事です」

「…………は?」

 未だ理解の追いつかないレヴィとは対照的に、ウェンティは僅かに頬を染めている。その光景を見守るリーベルとフィデスは何故かニヤニヤと笑っており、ゼフィラも全てを知っているように穏やかな微笑みを浮かべている。

「……それは、一体どういう…」

 風の魔力が一際濃い少女が発した言葉を聞いても、レヴィは理解していない。熟考する様を見たフィデスとリーベルがいよいよしびれを切らし、ニヤついた表情のままレヴィへと意味を教える。

「アールはね、ウェンティちゃんを番として認めてるんだよ」

「そうそう。まっさか竜神も、人間の娘を娶るような事があるんだなぁ。聞いた時は俺も驚いたぜ」

「………娶っ、た?」

 驚愕に見開かれた金の瞳は、ウェンティという存在をまじまじと見つめている。


 それはかつてのレヴィが成せなかった事。

 愛したが故に、守れなかった少女がいた。

 けれど長い時を経て古き友はそれを成し、今もこうして彼女は竜の寵愛を享受している。


 複雑な想いを抱くレヴィを前にして、だがウェンティは穏やかな声で感謝の言葉を告げた。

「レヴィさん、貴方がアール様を変えられたのです。過去の貴方が人を愛する姿をアール様にお見せになられた、そのおかげであの方の凝り固まった概念は覆りました」

 優雅な足取りでベッドへと近付き床に膝を着いたウェンティは、レヴィの白く大きな手に小さな両手を重ねて、レヴィが抱える後悔と悲しみを癒すように告げた。


「貴方は、守れなかったのかもしれません。ですが『何も残らなかった』わけではありません。貴方が居なければ、こうして『貴方達を守る力を得られた私』は存在しなかったのですから」


 優しく細められた銀色の瞳を見下ろしてから、レヴィは無言で顔を逸らした。

「…でもよ?ウェンティちゃんが強引に押し掛けて口説き落としたって、言ってなかったか?」

 ラテーレ村への道すがら、本人から語られた馴れ初めを覚えていたリーベルが揶揄うように言う。

「言ってたね~!アールも結構押しに弱いトコあるからね、戸惑うアールの顔が目に浮かぶよ~♪」

 竜でありながら人に近い感性を持ち、悪戯好きな性格をしているフィデスは楽しそうに話している。

「ウェンティ姉様は、こうと決めたら曲げませんからね。加護を頂く際に拝謁し、一目惚れしたと言ってましたよね?」

「皆さん?あれこれ暴露し過ぎですよ…?ゼフィラちゃんも余計な事を言わないで…」

 少しだけばつが悪そうに表情を曇らせて反論するが、ウェンティの頬は僅かに赤くなっている。

 和やかな笑い声と共に繰り広げられる恋話を聞かされていたレヴィは、呆れたように盛大な溜め息を吐いた。

「……お前達、そんな話はどこか別の場所でやれ」

 談笑を止めさせたのは、そんなレヴィの鋭い一言。怒らせたかと心配してみるが、レヴィの表情は随分と穏やかなものに変わっていた。

 そして金の瞳が向けられているのは、未だ目を覚ましていないルティウスの寝顔。

「…そうだな。レヴィが起きたんなら、そろそろルティウスも気が付く頃だろうしな」

 ベッドの端に座っていたリーベルも立ち上がり、部屋を出るべく扉へと向かう。ベッドの上に寝転がっていたフィデスも起き上がると、リーベルに追随するように床の上へと降り立った。

「だね~。でももうちょっと、レヴィも休まなきゃダメだよ?」

 ウェンティもゼフィラと並び、相変わらずの優雅な仕草で部屋を出ようと扉へと向かった。

「どうぞごゆるりと。ゼフィラちゃんにお願いして、この宿はしばらく使えるよう手配させてますから」

「ええ。サルース殿下からお預かりしている資金もまだ余裕がありますしね」

 賑やかな会話を続ける四人が部屋を出て、室内には静寂が戻る。


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