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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第二話

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15/156

0015

「ボクね、この近くにある、とある場所の調査に行きたいんだけど、その護衛を頼めないかな?」

「護衛?」

「あ、もちろん報酬は出すよ!この家に泊まってもらっていいし!お金はそんなに無いけど…どうかな?」

 ちらりと空に視線を向ける。木々が少なく開けている場所のため、もう数刻もせずに夕暮れ時である事が知れた。野宿などした事がないルティウスとしては、泊めてもらえるのは有難い。

「……護衛、引き受けても良いかな?」

「私は構わない」

 隣に立つレヴィへ確認すると、二つ返事で快諾される。二人のやり取りを見ていた少女は嬉しそうに笑って喜びを露わにした。

「やった!助かるよ~、本当にありがとう!」

「こちらこそ、泊めてもらえるのは助かるよ」

 契約成立の意味も込めて、ルティウスが右手を差し出す。意図に気付いた少女がその手を軽く握り返し微笑んだ後、家の中へ二人を招き入れる。

「とりあえず入って!調査は明日にしようと思うからさ。今夜はゆっくりしてってよ」

「それじゃ……お邪魔します」


 足を踏み入れた家の中は、最低限の家具だけが揃えられた質素な内装だった。女性が暮らすにはどこか味気なさが感じられるも、趣味趣向は人それぞれだろうと勝手に納得する事にした。

 案内された部屋の中央にはソファと低めのテーブルがあり、二人は並んで座る。テーブルを挟んだ対面に、家主である少女も腰を下ろした。

「そういやまだ名乗ってなかったね。ボクはフィデスだよ。キミたちは?」

「俺は、ルティだ。隣はレヴィ。改めてよろしく」

「ルティに……レヴィ、かぁ」

 フィデスという名を聞いた直後、隣に座るレヴィが纏う空気の変化を感じた。同じようにフィデスもまた、レヴィの名を伝えた直後、僅かにだが目付きが変わったような気がする。

 まさか知り合いなのかと考えてみるが、思考を遮るようにフィデスが元の快活な雰囲気に戻り話し始めた。

「えっと、ルティは剣を持ってる……って事は、剣士?」

「あ、うん。剣を使うけど多少は魔法も……」

「そっちのレヴィは、武器が無いから魔道士とか?」

「う、うん…魔法、かな……?」

 おそらく護衛の際の布陣の話になっているのだろう。ルティウス自身の事はある程度正直に答えてしまっても特に問題は無いが、レヴィの事はどう伝えるべきか回答に困る。人の魔力を吸って魔法を使うのだと知られたら面倒な事になりそうだ。

 はっきり言えずに戸惑うルティウスの様子を横目で観察していたレヴィが、すかさず助け舟を出した。

「……魔法は使える。が、事情があって今は補助程度にしか使えん。戦闘になれば、ルティが主に前へ出ている」

 最初から訳ありと伝えていたからか、フィデスは特に怪しむでもなくレヴィの説明を受け入れ、了解!と明るく返した。

 その後、一度席を立ったフィデスが部屋から出て行き、戻ってきた彼女の手には三人分のカップと、大きめのポットが乗せられたトレーがあった。

「お茶も出さずにゴメンね。人が来る事なんてまず無いから、忘れちゃうんだよね~」

 そう言いながらも慣れた手つきでポットを取り扱うフィデスは、手を動かしながら質問を口にしていく。

「二人は、どこか向かう途中?」

「あぁ、ベラニスへ向かってるんだ」

「ベラニスかぁ、しばらく行ってないなぁ」

「ここに住んでもう長いのか?」

「いや、実はそうでもないんだぁ」

 曰く、フィデスは例の護衛が必要な場所の調査の為だけにこの場所に住んでいるのだという。普段は違う所で暮らしているが、今はたまたま調査のためにこの家へ滞在していたとの事。

 見た目はまだ少女としか思えないが、自分より歳上なのだろうかと考え、態度を改めるべきか悩み始めてしまう。

 そんなルティウスの悩みなど気にせずに、フィデスは変わらぬ朗らかな口調で話し続けている。特に気分を害した様子も見られないため、指摘されるまではこのままで良いかと結論付けた。

「ところでね、泊まっても良いよとは言ったものの…見た通りそんなに大きな家じゃないから、部屋は多くなくてね?二人は同室でも構わないかな?」

「あ、うん。それは構わないけど…」

 既にレヴィの膝枕で眠った経験もある。部屋が同じであっても何ら問題は無いが、男二人へ何故それを問うのかが気になった。

「良かったぁ。ルティみたいな可愛い子が一緒だとさ、そっちのお兄さんが構うんじゃないかと思ってね?」

「…………ん?」

 フィデスの物言いに、何かを大きな勘違いされているのだと気付く。これは幼い頃から何度もあった事だ。不本意ながら日常茶飯事で、もはや溜息しか出なくなるが。

「あのさ……俺の事をどういう風に見てる?」

「え、可愛い子?」

 間髪入れずに返ってきた一言に、思わず項垂れる。経験上予想は出来ていたが、まだ希望はある。

 彼女が勘違いをしているかどうかを確かめるため、核心に触れる質問を選んだ…が、それがそもそもの間違いだと知るのはこの後だった。

「じゃあさ…『俺達』の事はどんな間柄だと……」

「え、恋人とか?」

「こっ……?いや、違うから!俺も男だから!」

「その顔で?」

「この顔でも!っていうか声で分かれよ!」

 やはり女性と間違われていた事に脱力する。隣ではレヴィが微かに震えており笑いを堪えているのが分かってしまう。視線を向けないまま拳を強く突き当てた。

 一人称が『俺』であっても、男だと見られない事が多々ある。母に似ていると言われがちではあったが、そこまでなのか?と再認識してしまう出来事となった。

「いやぁごめんね?本当に、ルティ『君』の事、随分と可愛い美少女剣士だなぁって思ってたよ」

 フィデスが取って付けたように『君』呼びを始めたけれど、そう呼ぶ事に違和感を覚えている事は、わざわざ語調を強められたせいでルティウスに伝わっている。渾身の溜息が自然と零れていた。

「まぁ……慣れてるからいいんだけどさ。とりあえず、部屋が一緒でも問題ない事は理解してもらえただろうか?」

「承知だよ。それにしても…うん、綺麗な顔立ちだよね?何だか羨ましいくらいだよ」

「俺は嬉しくないけどな……」

「レヴィ…だっけ?そちらのお兄さんも、こんなに可愛い子と一緒だと気が気じゃないでしょう?」

「……ルティは私のものだからお前にも渡さない」

「意味深な発言はやめてくれ……」

「あっはははは、仲良しだねぇ」

 ひたすらに揶揄われ、遊ばれた談笑の時間だった。レヴィもどんどん悪ノリしていき、カップの中身が無くなる頃にはルティウスだけが精神的な疲労困憊となり、項垂れていたのは言うまでもない。



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