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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十四話

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 それは洞窟内での戦闘も、レヴィによるルティウスの治癒も、全てが終わった直後の事。


 山脈を揺らしていた振動も膨大な魔力の波動も鎮まった頃、洞窟の狭い道へと退却していたリーベル達は、様子を窺うべく引き返してきた。

「ウェンティちゃん、だったか?もう向こうは落ち着いてんのか?」

 リーベルよりも前に立つ可憐な風貌の少女は、魔力の気配を探るべく意識と視線を向けている。だが肌を撫でる風の流れも穏やかで、全てが落ち着いたのだと判断出来た。

「⋯そのようですね。どうやら、彼らは成し遂げてくれたようです」

 そうしてゆっくりと戻った先には、薄暗く静かな、広い空洞の光景しかなかった。あれほどの絶望を振り撒いたカリエスは完全に消滅し、地面を崩壊させていた灼熱の川も冷えて固まっている。

 完全なる静寂に包まれた空洞の奥、頭上の穴から差し込む細い光が照らすその場所で、ルティウスとレヴィは寄り添うように倒れていた。

「ルティ君、レヴィっ!」

 ウェンティよりも先にフィデスが駆け出し、二人の元へと向かう。後を追うように走り出すゼフィラも少しだけ不安そうな表情を浮かべていたが、倒れている二人を見下ろして微笑みを浮かべる事になる。

「⋯こうして見ていると、まるで親子のようですね」

 仰向けに倒れているルティウスの頬には、レヴィの左手が触れている。限界を迎え倒れただけだとしても、その様は子を守り慈しむ親のようだった。

 ゼフィラの隣に立つフィデスもまた、同じように微笑みを浮かべる。即座に【眼】を発動させて容態を診ると、重傷だったルティウスの肉体は元通りに治っており、しばらく経てば意識も回復するだろうと思えた。

 そしてやり遂げたレヴィが、人には見えない内側に深刻なダメージを残してしまっている事も、この時既に気付いていた。

「⋯なぁ、ルティウス達は無事なのか?」

 追い付いてきたリーベルとウェンティも、眠るように倒れている二人を見下ろして表情を綻ばせる。

 リーベルは、見逃していなかった。レヴィの目元には、流れた雫の痕がある。ルティウスを救えた事に安堵し、そのまま力尽きたのだろう。ゼフィラと同じように、リーベルもまた二人を親子のようだと感じていた。

 異常とも思えたルティウスに対するレヴィの執着。けれどそのおかげで救われたのだと、認めるしかない。


「さて⋯これからどうするかね?」

 倒れる二人の傍にしゃがみ、リーベルは今後について思案する。

 このまま洞窟の中で休ませてもいいが、二人の消耗を考えれば一刻も早く安静に出来る場所へと移動させたい。

「⋯そうですね。まずはお二人を連れてこの場を脱しましょう」

 リーベル同様にしゃがみ込んだゼフィラが提案する。固く冷たい地面の上ではなく、柔らかなベッドへと寝かせてあげたい。それはフィデスもウェンティも、リーベルも同じ意見だったようで静かに頷いた。

 そして、現実的な問題へと直面する。

「⋯これだけの戦闘だったんだ。アムニシアは⋯マズいよな?」

 ウェンティは山を貫き、山脈へと振動を与えた。

 ルティウスは火脈の力を引き揚げ、地殻をも揺らした。

 そうした地震や衝撃は、最寄りの街であるアムニシアの衛兵や民なら気付かないはずもない。倒れている二人を抱えて戻れば、何かしらの聴取を迫られるのは間違いない。

「そうですね。何があったのか⋯それを話すには、殿下の身元やお力について触れる必要もあるかもしれません」

 どこまで帝国第二皇子の手が伸びているか不明な現状で、ルティウスの素性を露見させる訳にはいかない。ゼフィラとリーベルは持てる知識を生かし、アムニシアとは別の移動先を考えていた。

「⋯峠を超えた先に、静かな農村があったかと。ゼフィラちゃん、そこはどうかしら?」

 思案するゼフィラの肩に手を置き、姉であるウェンティが示す。

「⋯ラテーレ村⋯⋯⋯確かに、あそこなら良いかもしれませんね!」

 アムニス山脈の南西に位置する小さな集落、ラテーレ村。

 リーベルも知っているのか、一瞬だけ表情を明るくした。けれどすぐに、頭をがりがりと掻きながら首を横に振る。

「良いとは思うんだけどよ、こっからじゃ結構遠いだろ、あそこ?」

 現在地の洞窟は山脈の東側にあり、示されたラテーレ村は山脈を越えた西にある。倒れた二人を抱えて移動するにはそれこそ骨の折れる距離だと、リーベルは知っている。

「はい。決して近くはありません。ですがお二人の休息には最適です。あの村は峠越えをした旅人でも、元からラテーレ村を知っている数少ない者しか立ち寄らない、閑静な場所ですから」

「⋯いや、うん。それは俺も知ってるんだけどよ⋯?」

 立地や村の環境は、リーベルも当然のように把握している。だが懸念しているのは距離だけではない。

「⋯⋯⋯ルティウスは俺が抱えりゃ良いとして、誰がレヴィを運ぶんだ?」

「「「⋯⋯⋯⋯」」」

 四人は、同時に視線を落とす。全員が見るのは、ルティウスを守るように倒れているレヴィの姿。

 その体格はリーベルよりは細いものの、身長はリーベルよりも高い。

「オジサン、よろしくねっ♪」

「おい、フィデスちゃん?」

 ニッコリと満面の笑みで、フィデスは古き友の搬送をリーベルへと託す。

「殿下は、僭越ながらわたくしが。体格も近いですし、この日のために鍛錬を続けてきたのだと思えば、報われるというものです!」

 微かに頬を染めながら宣言するゼフィラは、何故かとても嬉しそうにルティウスへと視線を向けている。

「いや、俺が⋯?俺よりでかい、レヴィを?」

 困惑しながら、リーベルは沈黙していたウェンティへと視線を向ける。フィデスと同等の小柄な少女の姿をしているが、身の丈以上の大剣を振り回していた光景を忘れてはいない。

「ウェンティちゃん!あんたならレヴィくらい⋯⋯」

「お断り致します」

「はぁっ!」

 優雅な仕草で長い髪を揺らしながら、即答し首を横に振るウェンティ。その気になればレヴィを運ぶなど造作もない。けれど受諾出来ない理由が彼女にはあった。

「私の身は、アール様のものですので」

「んだよそりゃあ!」

 ウェンティにとって、その身に触れていいのは主であり、番として身も心も捧げたアールだけ。例えアールの友であろうとも、男であるレヴィを抱えるなど以ての外。

 風の竜神の嫁という矜恃が、レヴィの搬送を拒む理由。


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