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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十三話

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 ルティウスが聖石を身に着けた事で、繋がりが戻った。完全ではないものの回復しつつある暖かな魔力が流れ込むのと同時に、少年がその内に秘めていた恐怖心さえもレヴィに伝わっていた。


──⋯⋯怖かったんだよ、本当に──


 だがその恐怖さえも押し殺して、オストラに身体を使わせてまで状況を打破しようとした少年の強い想いは、レヴィの心を奮い立たせていた。

「この程度で諦めては、ルティの意思が無駄になる!」

 魔力を寄り集めて、右手に槍を出現させる。今のルティウスが振り回している物と良く似た形の槍は、同じように蒼く輝いていた。

「フィデス、お前は⋯向こうをどうにかしろ」

 災厄から目を逸らす事なく、傍らに立つフィデスへと指示を出す。レヴィが示すのは、今も重傷を負い倒れたままのウェンティ。

 ルティウスの身体を使って飛び回るオストラによって、一体はほぼ無力化されている。その隙に駆け寄ったゼフィラが治癒魔法を掛けているものの、彼女が有する魔力にも限界が見え始めていた。

 そして増え続けるカリエスへ対抗するには、ウェンティの復帰は優先事項。

「今なら、お前も力を使えるだろう?」

 既に持てる力の片鱗として槍の具現化を成した。それこそが、フィデスが司る再生の力の復活をも意味している。

 土の竜神がその気になれば、砕かれた骨でさえも瞬く間に修復させられるのだと、付き合いの長いレヴィも知っていた。

 戦えずに悔しがっていた少女の心に火を灯すのは、あっという間だった。

「分かったよ!ボクはウェンティちゃんを何とかする!」

 両手を握りしめて決意するフィデスは立ち上がり、ウェンティの元へと駆けていく。

 その姿を視界の端で見送ってから、レヴィもまた意識を集中させる。魔力の解放と共にその背には蒼く輝く四翼が現れ、頭からは深海のような濃紺の角が生えていた。

 その姿は、人の身でありながら竜の神たる本領を発揮するための、本気の表れ。

「ルティを傷付け、怖がらせた罪は重いぞ⋯」

 静かに、だが心の底から怒れる竜は、再生し増え続ける災厄を殲滅するべく宙へと舞い上がった。


 戦線に立ち戻ったレヴィの気配を辿りながら、オストラもまた周囲の状況を逐一確かめていた。

 眼下で凍り付いた蛇の一体は、今のところ沈黙している。だがこの程度で終わるようなら、かつての神々が手を焼く事など無かった。

 カリエスの最も厄介な特性は腐食ではなく、驚異的な再生能力。弾け飛んだ肉片からも再生し増殖した様子から、オストラもその答えに行き着く。

『⋯腐っちまったモンは凍らせちまえばいいが⋯こいつら無限に増えやがるな⋯ったく、めんどくせぇ⋯⋯⋯』

 完全に滅するには、オストラやレヴィでは扱えない属性を必要としていた。


 全てを焼き尽くす、炎の力。

 再生するよりも早く燃やし、消滅させるしかない。

 だがこの場において炎の力を使えるのは、借りている身体の主である、ルティウスただ一人。

 フィデスの再生の力によって治療を受けているウェンティならば可能性はあるかもしれないが、破壊力に特化した風の竜神の嫁には荷が重いだろう。

 そうして状況を把握したオストラは、意識の内側で今もまだ微かに怯えている少年へと、容赦なく語り掛けた。


『ここまで立て直させてやったんだ。あとはてめぇがやれるだろ?』


 語り掛けながら、視線はレヴィへと向ける。

 既に三体にまで増えたカリエスを同時に相手し、どうにか善戦していた。オストラの戦法を真似るように氷結を駆使するレヴィは、けれど本調子とは言い難い。

 かつては自分と同等以上の力を持っていた兄竜。その威容はなりを潜め、尚且つ魔力は少しずつでも吸われ続けている。

 かと言ってオストラは、まだこの場を動けない。ウェンティが動けるようになるまで、眼下で凍りつかせた蛇を監視する必要があった。

 氷の槍を打ち込んでその場に縫い付けはしたものの、やけに静かだと違和感を覚えていた。

 何かを狙っている⋯そうオストラは悟り、周囲の状況を探りながらも決して目を離さなかった。


 意識の深淵で、ルティウスはまだ怯えている。

 オストラに託して、それで上手くいくのだと信じたかった。

 しかしオストラは冷静に状況を判断し、ルティウスの力を必要とした。

 諦める気はない。負けたくもない。けれど奮起するにはあと少しだけ、勇気が足りていない。

 自分がやらなければ⋯寄せられた期待に応えようとする気持ちが、己の未熟さを自覚しているルティウスを迷わせる。


 その迷いこそが、窮地を生む。

 オストラは、確かに見ていた。

 三対一の状況で奮戦するレヴィの下方から、増殖を続ける悪意がまた一つ動き出す。

 地中に潜る事もなく、静かに宙へと伸びていく頭が、レヴィの背後へと迫っていた。

『⋯レヴィ!』

 咄嗟にオストラは叫んだ。だがレヴィ自身が気付くよりも速く、長く伸びた四体目の舌がレヴィの右腕に巻き付く。

「⋯ちっ!」

 即座に広がる毒の侵食がレヴィの、ルティウスから流れ込む魔力を吸い上げ始めていた。

 そうして生まれた隙を狙ったかのように、正面からもう一体の舌が首を絞め上げ、再び増えた五体目が大きな口を開きレヴィ目掛けて長い胴を伸ばしていく。


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