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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十三話

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「わあっ!」

 突然現れたルティウスの姿に驚くフィデスだが、その反応すらも無視して、端的に命じた。

『お前ら、聖石出しやがれ』

 有無を言わさぬ圧を込めて言い放った、粗暴な口調。ルティウスの顔でそんな言葉遣いなどやめろ⋯そう言わんばかりに睨み付けるレヴィだが、既に意図は分かっている。

「これ、だ⋯⋯」

 レヴィが手を動かし、自身の胸元にあるペンダントの一つを指した。

 ルティウスが消えたあの時、置き去りにされた物。無くすまいと自分の首から下げていたそれを見て、動けないレヴィの代わりに首の後ろへと手を伸ばしていく。

 見た目は、まるでルティウスがレヴィへと抱きついているような光景。だがその身体を今動かしているのは、ルティウスの意思ではなくオストラの思念。

 すぐ目の前で起きているやり取りに困惑するフィデスだが、内心では少しだけニヤニヤしていた。

 レヴィの首から外したチェーンを、直ぐさま自身の首へと付けていく。在るべき場所へと戻った聖石は蒼い輝きを放ち、絶たれていた繋がりが再び結ばれた事を意味していた。

「おら!てめえも持ってんだろ?寄越せよ聖石を!」

 倒れたレヴィを抱き起こしそのまま座り込んでいるフィデスに視線を向けて、再度強く命じる。恐喝のように怒鳴られ、慌てて左腕を突き出したフィデスの手首には、レヴィと同じく無くすまいと身に付けていた細い腕輪。

 小さな黄金色の石が嵌め込まれた腕輪を強引に抜き取り、フィデスよりは幾分か太い自身の手首へと通していく。淡い黄金の輝きを放ち、土の竜とも再び繋がりを取り戻していた。

『さァて⋯⋯てめえらはもうどうとでもなんだろ?あっちで死にかけてる風の女、どうにかしてこい!』

 オストラは当然のように聖石の効果を熟知している。繋がりを得たレヴィとフィデスが既に魔法を使える事は、魔力の流れを見れば一目瞭然。

「⋯⋯待て」

 槍を握り立ち上がる姿を見上げて、レヴィは咄嗟にその背を呼び止めた。

 飛び去ろうとする直前で振り返り、金色に変わっている瞳はじっとレヴィを見下ろした。

『⋯⋯なぁんだよ?』

 急に呼ばれた不機嫌を表情に浮かべながらも、すぐに不敵な、そして歪んだ笑みを滲ませる顔は、だがレヴィが知っているものよりも随分と穏やかだった。

「⋯その、身体で⋯⋯やり過ぎるなよ」

 レヴィには視えている。

 まるで瀕死の重傷が無かった事のように動き回っているが、その肉体は一切回復してはいない。砕けた骨は氷結によって繋ぎ合わせられ、無理矢理固定しているに過ぎない。死に瀕するほどの内臓の損傷さえも、感覚を麻痺させる魔法で誤魔化しているだけだと。

 オストラほどの力を以て酷使すれば、ボロボロの肉体は今度こそ砕け散ってしまいかねない。

 そんなレヴィの危惧を払拭するかのように高らかな笑い声を上げて、ルティウスの声のままオストラは返した。

『ンなもん、このクソガキに直接言え。俺ぁよ、こいつの言う通りにしてやってるだけだぜ?』

「⋯⋯何だと?」

 この土壇場での介入は、オストラが勝手にした事だと思い込んでいた。だが全てはルティウスの意思であり、願いであり、オストラはただ力を貸しているだけ。

『良かったなァ?このガキはよ、てめぇみたいな軟弱を守るって思いだけで、この俺に身体を委ねやがったんだぜ?全く、愚かにも程があると思わねぇか!』

 笑いながら再び背を向け、レヴィが限界まで握り続けていた剣を地面から抜き取り、腰に下げている鞘へと納め今度こそその場に浮かび上がる。ふわりと地面から離れた小さな身体は、重傷を感じさせないほど滑らかに槍を振り回し、カリエスを仕留めるべく飛翔していく。

 去り際に、たった一言だけを残して。

『⋯⋯⋯まァ、ガキらしく真っ直ぐ過ぎて、嫌いじゃねえけどな』


 それからは一方的なまでの蹂躙が繰り広げられた。

 雪に覆われていたカリエスの一体は、紅い双眸に怒りを滲ませてルティウスへと巨大な尾を振り上げた。しかし余裕を持って回避しながら鋭い氷塊を生み、振り回される尾へと投げつける。鋭利な氷は鱗など無かったかのように、易々とその身を貫いた。

『蛇如きが、竜に逆らおうなんざ千年早ぇ!』

 カリエスの胴を貫通させた氷塊は、尚も空中に生み出される。

 無数に現れた極太の槍にも等しい氷塊は、振り上げた小さな左手が下ろされると同時に轟速で降り注ぎ、カリエスの全身を隈なく突き刺していく。そこからさらに広がる氷結は体表から漏れ出ていた粘液さえも凍りつかせ、厄介だった腐食という特性さえも封じ込めていた。

 圧倒的なまでの力でカリエスを制圧するその姿に、誰もが戦慄を覚える。

 このまま押し切れる⋯全員の心に、そんな希望さえも灯す四翼を携えた少年。その願いと意思は、暴虐の王たる水竜オストラが受け継ぎ、余すこと無く振るわれた。

 けれどまだ、災厄は沈黙していない。

 ルティウスの生還と共に弾け飛んだ蛇の肉片は再生を始め、その数を増殖させていく。

「うっそ⋯また、増えるの?」

 絶望を撒き散らし続けた災厄は、既に二体どころではない。十を超える数に増えていく黒い悪意は、その内の三体が再生を終えて再び最悪を呼び込もうとしていた。

「⋯⋯私が、やる」

 フィデスの腕から離れ、自らの力でゆっくりと立ち上がるレヴィが、増殖したカリエスへと視線を向ける。

「⋯な、何言ってんだよレヴィ!そんな状態で、あんな数なんて⋯!」

 咄嗟にフィデスも立ち上がり、レヴィを止めようとする。

「だから何だ!」

 危険を感じた上でフィデスが制止しようとしている事は、レヴィにも分かっていた。だがレヴィは、既に覚悟を決めている。


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