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竜と神のヴェスティギア  作者: 絢乃
第十三話

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 本当は諦めたくない…その本心は言葉にせずとも、オストラには分かっていた。

『やっぱりてめえは、面白えガキだな』

 奥底に秘めた思いは、この少年の内に宿ったオストラだからこそ手に取るように感じられる。

『いいぜ?てめえが諦めたくねえって本気で思うのなら、この俺が力の使い方ってモンを教えてやろうじゃねえか』

「………は?」

 見慣れたニヤニヤとした表情を浮かべるオストラは、その笑みをさらに酷薄なものへと変えて高らかに叫んだ。

『最高じゃねえか!アイツのお気に入りのてめえの身体を使って、この俺があの蛇を蹂躙してやるんだぜ?それを知った時のあの軟弱のツラを想像したらたまんねぇよなァ!』

 そう。オストラの根底にあるのは、どこまでもレヴィへの嫌がらせ。

「………ほんっとうに、性格悪いなあんた!」

 胸倉を掴む手を振り払って、ルティウスも心の底から叫ぶ。

「そんな事したら、レヴィがまためっちゃくちゃ怒るじゃないか!」

 その怒りを一身に受ける自分の事も考えろと言いたくなったが、オストラにはレヴィの怒りこそが最大の愉悦であり娯楽。歪んだ性格のオストラらしいなと呆れると同時に、頼もしくも思えてしまった。

「………本当に、やれるんだよな?」

『だぁれに言ってやがる?』

 上体を屈めて、間近で目線を合わせてくるオストラの金の瞳は、自信に満ち溢れていた。

 いつの間にか身体の震えも止まっている。恐怖心を払拭するほどの呆れとオストラへの信頼が、ボロボロだったルティウスの心に小さな火を灯していた。

「…俺の身体、多分動かないけど?」

 そして現実的な状況をオストラへと伝える。今でこそこの不思議な場所に居るが、事実としてその肉体は死の淵にある。それを自覚しているからこそ、方法を問いたかった。

『そういやてめえは人間だったな……ったく、軟弱な種族は大変だな、すーぐ骨やら何やら砕かれやがってよ』

「うるさいよ!仕方ないだろ!」

 ゲラゲラと笑うオストラに、いよいよ怒りが湧いてくる。やはりこんな奴に託すのはやめようかと考えてしまうほど。

『骨なんてよ、凍らせてくっつけちまえばどうとでもなんだろ?』

「…………は?」

 想像すらしていなかった案を示されて、ルティウスは間の抜けた声を出してしまった。

「いや、本気で言ってんの、それ?」

『あぁ~、本気だぜ?』

「せめて治すとかそういう方向に考えないか、普通?」

『っせえよ!てめえの普通をこの俺に押し付けんな、クソガキ』

 人の常識が通じないのは、兄も弟も同じかと、ルティウスは盛大に溜め息を吐いた。

 そしてもう一つ、ルティウスには懸念がある。それは魔力を吸われたと感じた事。

 微かに瞳を泳がせる少年を見下ろすオストラは、そんな懸念すらも大した事と感じていないように軽く答えた。

『てめえが魔力をカラにしたのはな、首に焼き付いたあの蛇の毒だ。まぁそいつも、凍らせちまえば効果はほとんど無くなんだろ』

「あんた…俺を氷像か何かにでもしたいわけ?」

『それも面白えな、ククク…』

「お断りだ、クソ竜!」

 腹は立つものの、オストラは全ての状況への対策を既に考え付いている。手段については問い質すべきだろうが、何故か負ける気はしなくなっていた。

「でも凍らせるための魔力はどうするんだよ?俺の魔力は、空っぽなんだろ?」

 一番の問題は、根本的な部分。動き出そうにも、前提とする魔力そのものが無ければ骨格を凍らせる事も、毒の効果を打ち消す事も出来ない。

 精一杯に怒りを鎮めて問うが、オストラは変わらず平然としている。

『忘れたか?俺はてめえの溢れてた魔力を一度喰ってるんだぜ?そいつがどうなったか、知りてえか?』

「教えろ。今すぐに教えろ」

 間髪入れず、感情の抜け落ちた声で早口に命じる。常に人の反応で遊ぼうとするオストラに、ルティウスはそろそろ疲れ始めていた。

 だがそんな呆れた思いも、直後に全てが消え去る。

『…よーく見てやがれ?』

 にやりと笑うオストラが言うと同時に、その身を包む強大な魔力が解き放たれる。その背中にはレヴィと同じ蒼い輝きを放つ四翼が現れていた。

『てめえの魔力は、俺のモノに換えてやったんだ。有難く思え』

「…………元は俺のじゃん」

 ぽつりと愚痴を零すが、今もルティウスが生きているのはオストラによる守護があるからこそ。災厄に飲み込まれ腹の中に在りながらも命を保っているのは、オストラが寸での所でその身を魔力で覆ったから。

「………任せて、良いんだよな?」

 既にルティウスも悟っている。未熟な自分では力を使いこなす事も出来ない。オストラに任せる事で勝機は見えるのだろうが、この身体の主導権すらも委ねるという事になる。自分の意思とは違うところで自分が何をするのか…それはかつての暴走を想起させてしまい、僅かにルティウスを躊躇わせている。

『シケたツラ見せてんじゃねえよ、クソガキ』

 白い大きな手が伸び、俯きつつあったルティウスの頬へ添えると強引に上向かせる。

『蛇を潰すついでに、風の女共も、あの軟弱野郎も、どうにかしといてやるよ』

「……風の、女共?」

 意識を失っていたルティウスは、その後誰が来て何が起きていたかを知らない。けれど内側から静観していたオストラは全てを把握している。風の竜に遣わされたウェンティとその妹、ルティウスを探しに巣穴へと辿り着いたレヴィとフィデス、リーベルの存在、そして現在の窮地も。

『さぁて…とくと見やがれ。このオストラ様による実地教習だ!』

 直後、オストラはさらに膨れ上がる魔力を解き放ち、その眩さにルティウスは目を瞑る。

 類稀なる力を持つ水竜の声高な宣言は、ルティウスへと向けられたもの。だが同時に、反撃という名の蹂躙戦が始まる合図でもあった。


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