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竜と神のヴェスティギア【過去編同時連載中】  作者: 絢乃
第二話

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14/128

0014

 ルティウスの目的は、周辺国を巡り協力者を得る事。そこに封印の解除方法の調査を含めても何ら問題は無いように考えていた。何をすれば封印を弱められるのか、解放には何が必要なのか、知る事が出来れば多少なりとも、今後の方針について目処が立つかもしれない。

「レヴィの封印って、どうしたら解けるんだ?」

 誤魔化しても仕方ない。こうした疑問は直接伝えるべきだろうと考えたルティウスは、隣を歩くレヴィへ尋ねる。少しの間はあったものの、彼は答えてくれた。

「…私を封印したのは、他の神達だ」

「他の神?」


 この世界には、レヴィと同格の神が他に三柱いる。

 グラディオス帝国から遥か西に位置する、ヴェネトス公国が祀る風の神。そこから南部のフラーマ王国では炎の神を祀り、逆に北部のテラムという国では土の神が祀られている。そうした神々には対になる存在としてレヴィのような竜神が在り、それぞれに世界の均衡を保たせているのだと、幼い頃に世界史の一端として習った記憶がある。

 神と竜は各属性で一対であり、つまりグラディオスが祀る水の神は現在、レヴィが封じられている事で片方が欠けている状態なのだとルティウスは初めて知った。

「つまり、他の神様達と話して、封印を解いてもらわなきゃいけないって事か?」

「簡単に言えばそうなるな…」

 元より各国を訪問するつもりではいたが、これは壮大な世界の旅になるなと、遠くを見ながらも腹を括る。けれどレヴィの力が封印されたままでは、水神の加護によって繁栄してきたグラディオス方面は不安定になりかねない。ただでさえ今は内乱に陥ろうとしている状況の中、皇子としてこの事実を見過ごす事は出来なかった。

「ちなみにレヴィはさ、仲の良い竜神や神様っているのか?」

「…………親交という意味ではどれも大差はない、が……風の竜は、他者への情が深い」

 風と聞いてルティウスが思い付いたのは、ヴェネトス公国。真っ先に向かいたいと考えている国だった。

「じゃあさ、ベラニスに行った後は…遠いけど、西のヴェネトスへ行こうと思うんだけどどうかな?」

「…西……風の国か。そこを選ぶ理由は?」

「俺の兄が居るはずなんだ」

 城の地下祭壇から転送される直前に、アミクスが言っていた。上の兄である第一皇子サルースが、ヴェネトス公国へ落ち延びているはずだと。聡明なサルースとの再会を果たせれば、事態を好転させる妙案も生まれるかもしれない。ルティウスはそんな期待を抱いていた。

「まだレヴィには話してなかったんだけどさ…俺、サルース兄様に会わなくちゃいけないんだ。俺の国を救う為に」

「救う…?」

「もう一人の兄が内乱を起こして、父様……陛下と争っているかもしれないんだ」

 そしてベラニスに向かう道すがら、ルティウスは歩きながら順を追って説明した。

 自身がグラディオスという国の第三皇子である事。皇位を望む第二皇子が即位の邪魔となる者達を消しに動いた事。その過程で命を狙われ、アミクスという友人の使った禁術で皇都から送り出された事。

 そして辿り着いたのがあの洞窟。そこでレヴィと出会った事。

 一通り話し終えたところで、僅かにレヴィの表情が曇っている事に気付いたが、触れて良い部分なのかルティウスには判らなかった。何か気掛かりでもあるのか問おうと考えていたその時、レヴィが唐突に立ち止まった。

「どうしたんだ?」

「この先に人の気配がある」

 告げられた一言を機に、腰の剣へ手を掛ける。ここはまだ人の寄り付かない森の中。そこに人の気配がある事の方が不自然である。野盗の類という可能性もある為、警戒は怠れない。

「…何人か分かる?」

「一人だな」

「複数じゃないなら、野盗ではないか…?」

「さぁな……」

 たとえ相手が単独であっても、もし手練であれば危険な事に変わりは無い。剣に手を添えたままレヴィの前に立ち、奇襲に備えながらも気配のある方向へとゆっくり進んで行く。

 やがて鬱蒼とした森の視界が開け、木々が無い場所へと辿り着く。その先に見えたのは、一軒の小さな家と思しき建物だった。

「もしかして、気配はあそこから…?」

「ああ」

 遠くから建物を観察してみるが、普通の二階建てで一見するとどこにも不自然な部分は無い。たまたまこの森で暮らしている人間が居ただけという事だろうか。

 しかしどこの都市とも近いとは言い難いこの場所での生活は不便ではないのだろうかと、皇族育ちのルティウスは脳内に疑問符が浮かび続けている。

 足音を立てないよう静かに建物へと近付いていき、扉の前に立つ。中に居るだろう気配の主が悪人ではない事を願いながら、ルティウスはそっと扉をノックした。

「………は~い」

 扉の向こうからは、おそらく女性であろう人の声が聞こえた。こんな場所に女性が暮らしている事が信じられない第三皇子は、思わず一歩後退ってしまう。

「お待たせしました~!えっと、どちら様で?」

 開け放たれた扉から顔を覗かせたのは、ルティウスよりも背の低い女性。金に近い茶髪が背中まで伸びており、緋色の瞳が印象的な少女と言うべき風貌の人物だった。

「あ、えっと…俺達は旅の者で…森を歩いていたらこの家?を見つけて……誰か居るのかと立ち寄らせてもらったんだ」

「ほぁ~、旅の人ねぇ?こんな、なぁんにも無い森を通る人がいるんだねぇ」

 もしや彼女に素性を怪しまれているだろうか。

 確かに不審かもしれないとルティウスは思い返す。森の中を通る旅人はそう居ないと、遠征経験も豊富な騎士団の面々から聞いた事があった。仮にグラディオスからベラニスへ向かうのだとしたら、商人や旅人の為の街道が整備されていたはずだ。まるで身を潜めるように森を通るなど、不審に思われても仕方ない。だがそれは彼女も同じ。人里離れた森の中に住んでいるなど、何かしらの理由があるようにしか思えなかった。

「…少し、訳ありで」

「ふ~ん…」

 自身が帝国の皇子である事は不用意に知らせない方がいいと考え、ルティウスは森を通っている理由をはぐらかした。実際はレヴィに任せていたら森を突っ切っていただけではあるが、それを伝えてしまえばレヴィの素性を明かす必要が出てくる可能性も否めない。どこかの国の『皇子』よりも『神』であるレヴィの方が存在の重要度は高く、彼女が信用出来る人物と判るまでは伏せておかねばならない…そう考えていた。

「ま、いいや。ねえ、キミ達ってさ、もしかして腕利き?」

 唐突に尋ねられて、首を傾げる。どう答えるべきか思案していると、少女の視線が腰の剣へと向けられている事に気付いた。戦闘能力の有無を問われているのだろうか。

「腕利きかどうかは自分じゃ分からないけど…その辺りの魔物くらいなら戦えるよ」

 またも誤魔化して返答してみるが、少女は腕を組み考え込む素振りを見せた。何か厄介事を頼まれでもするのだろうか。

 本当は寄り道をするつもりなど無かった。一刻も早くヴェネトスへ向かい兄との合流を果たしたい。気持だけは先を急ぐ旅の途中と思っているルティウスは、早々にこの家を訪ねた事を後悔し始めていた。


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